わたしたちは「AI制限」の流れをどこまで本気で受け取るべきか

2026年9月3日の木曜日。筆者は受任しているAIスクールの個別相談のなかで、繰り返し「今日は誰の誕生日でしょうか」と尋ねました。正解率は0%です。急に聞かれてもわかるはずがありません。ただ、私が子どもたちに絶対的な人気を誇るネコ型ロボットと正解を伝えると、ほとんどの方が「今日が誕生日なんですか!」という反応を見せました。彼?が生まれたのは2112年。あと90年前後です。厳密には彼はAIではありませんが、AIのイメージと重複する部分も多い存在です。そんななか、急スピードで進むAIを制限しようとする動きが生じてきています。

 


「AI企業は開発ペースを落とすべき」という呼びかけ

 2026年9月12日、アンソロピック社の最高経営責任者(CEO)であるダリオ・アモデイ氏は公開した論考で、AI開発のペースを抑えるべきだと主張しました。合わせて同氏は、アメリカ政府にAI企業への規制を求めています。降って湧いた印象の強いこの流れですが、いくつかの理由にもとづくものと考察できます。

 

なぜこのタイミングでAI規制論が生じたか

 大きな理由は「AI研究者の戸惑い」です。最新のAIは自身のコーディング能力を使って、AI自身をアップデートし続けます。当然、その過程でAIは制御機能を徐々に手放すことにつながります。これまでのように人間が開発に関わることで歯止めをかけていたものの、今後明らかに監視役の人間は必要なくなると予想されはじめています。開発の現場にいる当事者たちが、自分たちの手を離れていく感覚を最初に覚えているというのは、なんとも皮肉な話に思えます。

 

アンソロピック社のある幹部は、「わたしたちが本気で、AIが全人類を殺す可能性があると考えています。個人的には、今後10年以内にそうなる可能性は10%を超えると思っています」と述べています。この10%という数値は、決して低いものとはいえないでしょう。それだけ、研究者の想定を超えるスピードでAIが進化しているということです。

 

では規制論が現場の研究者や開発者に留まることなく、CEOなどを巻き込んでいるのはなぜでしょうか。筆者の予想は「株価」です。

 

無限の期待を背負う「株価」

 2026年現在のアメリカ株を牽引しているのは、間違いなく半導体・ハイテク株です。マグニフィセント・セブンと呼ばれた7社は単独で、ある国の株式時価総額すべてを超えているという状況も珍しくなくなりました。牽引する7社は決算を迎える際、共通する動きをすることがあります。市場の予想に匹敵する好決算が発表されても、その会社の株価の伸びは限定的となり、時間外取引で下落するという事態です。まるで「世界中の投資家が期待しているのは、こんな程度の伸びではないよ」というメッセージと解釈できます。

 

無限とも思える期待を背負い続ける経営者や経営陣が、いったんどこかで歯止めをかけたくなる気持ちは、十分に理解できるものです。誰よりも先を走ってきたはずの企業が、誰よりも先に「少し待ってほしい」と口にする。この構図そのものが、いまの市場の異様さを物語っているようにも見えます。

 


アメリカが向き合う中国との競争

 AI産業から悲鳴が上がったとしても、アメリカ政府が同調するわけにはいきません。トランプ大統領は9月13日、アイルランド訪問中に「米国はAIで中国をリードしている、AI競争を制したものが『勝つ』ため、この優位を維持したい」と語りました。

 

AIが日常生活から最新技術まで、すべてのものと繋がる以上、アメリカ政府も開発ペースを落とすと宣言することはまず不可能でしょう。それでもこのニュースから感じ取れるのは、「AIが世界を変える」という流れがひたすら続いてきたなかで、「ついに世界を変えて本当にいいのか」という慎重な声がようやく上がり始めたということです。

 

筆者も毎日AIに触れています。このままで行くといつネコ型ロボットが誕生するのか?とワクワクしているあいだに、社会全体が難しい選択を迫られつつあるのだと実感させられました。この流れが一気に株式市場になだれ込み、株価下落という停滞感を生まないか留意したいところです。根拠はありませんが、「AIバブルの崩壊」の始点になる可能性も決してゼロではないという悲観論が頭を離れずにいます。規制と成長、そして期待と現実のあいだで、AIをめぐる議論はこれからも揺れ動き続けるのでしょう。その揺れをどこまで冷静に見つめられるか、いまわたしたち自身も試されているのだと思います。 

 

独立型ファイナンシャルプランナー

工藤 崇

FP事務所MYS代表。ファイナンシャルプランナー(FP)。日本最大級のマネースクール事業に参画。上場株、貴金属、為替のほか、これまで約700本の執筆記事を手掛ける。1982年北海道生まれ。

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