「個人情報の漏えい事件」発生と個人投資家

筆者は複数の会社で投資の相談やアドバイスを引き受けていますが、2026年9月下旬あたりからめっきりと依頼数が減っています。単一の依頼元というわけではなく、全体的な傾向です。なぜ?と狐につままれたような日々を過ごしていますが、段々とその原因が分かってきました。近ごろ多くの企業が直面している、そしてニュースを賑わせている「個人情報の漏えい事件」は関係している可能性があります。

 

全国に広がる流出事例

 2026年10月6日のNHKの報道によると、企業のシステムが不正アクセスを受けて、個人情報が漏えいしたと公表された件数は今年7月以降、増加しています。特にホームページやアプリのシステムなどから侵入したとみられるケースは、2026年上半期には1カ月平均6件だったのに対し、7月以降は平均23件にのぼっています。

 

背景にあるのはAIの存在です。これまでサイバー攻撃は人間によって行われていました。この「サイバー攻撃の方法」をAIに考えさせることによって、人間には不可能な速度と量で攻撃が行われるように変わっています。アメリカのAI企業が「AI制御の必要性」を訴えていますが、まさにこの主張が全面的に正しいと認めるような、多くの企業にとっての緊急事態といえるでしょう。

 

個人情報は、顧客と接するBtoC(Business to Customer)型企業にとって生命線です。自社にて売上・利益を上げるためにもより多くの個人情報が必要になるほか、企業との提携が進む場合も「その企業がどれだけの個人情報を持っているか(この先取得できるか)」がひとつの判断軸となってきました。特にベンチャー企業やスタートアップなど、大企業との提携・連携を期待する企業にとっては、個人情報取得力は欠かせないものです。

 

ところが現在、この取得力がそのままリスクに変わっています。


敬遠される外部との協業体制

 上記のように複数社で個人情報を扱っているケースや、業務委託による営業代行などに企業の営業力が依拠しているケースは、専門家などから漏えいリスクが高いと指摘されています。よってサイバー攻撃への十分な防御体制が確立するまでは、これまで重視されてきた外部との協業体制が見直されることに繋がるでしょう。

 

セキュリティがある程度担保できる社内や、実際にオフィスに来ている人は引き続きの就業環境が提供されるでしょう。一方でインターネットで繋がっていた社外の専門家、業務委託などは状況が定まるまで、いったん関係を見直そうかという判断があります。主観的ですが、私はいまそのような動きがさまざまな企業で進んでいると感じます。リモートワーク、ノマドワークなどの言葉が推進されてきたなかで、最大の逆風といえるでしょう。これは短期間で終わるものではありません。状況整備には多額の投資が必要となり、金銭的な負担に耐えられない企業は「あの会社は大丈夫なのか」という懸念と向き合い続けることとなります。

 

筆者のような「外部の専門家」にとって、まさに大きな向かい風となる状況であり、事業の再整備を強く求められています。そのうえで攻撃主体となるAIは日進月歩で進化しており、本日安全だった対策方法が「明日も安全である保証がどこにもない」ということも注目すべきポイントです。しばらく影響は続くのではないでしょうか。

 


個人投資家への影響

 個人投資家への影響は、2つの視点があります。

 

まずは投資家自身が提供している個人情報の管理です。今回、証券会社からも大規模流出が発生していることから、厳重な管理が求められます。証券会社の利用者として何よりも怖いのが、2025年に発生した「証券口座乗っ取り事件」です。ユーザーの与り知らぬところで不正注文が繰り返されたうえ、当初証券会社は「自分たちの過失ではない」と補償を拒み、大きな問題になりました(その後いくつかの証券会社が補償実行に転換)。なお証券会社の立場に立つと、このような事例に補償体制で臨むと費用の持ち出しになり、株主代表訴訟のリスクがあるとされるほか、証券会社は顧客への損失補償は著しく禁止されているという前提もあります。

 

だからといって証券会社を経由しない注文は現実的に不可能です。個人情報の漏えいリスクはありますが、対策はないので従来の方法で、という状況が今後どのように変わっていくのかに期待するしかない、という段階といえます。

 

もうひとつは、今回の漏えい事件を個別株選別の機会にするという姿勢です。高い技術を持つセキュリティ会社の株を購入する考え方もあれば、事業会社として情報管理に秀でている会社に期待するという考え方もあるでしょう。ただ前者・後者ともに、相手はAIです。どのようなポイントをもとに判断すれば、「この会社は(この流れのなかで)漏えいのリスクが低い」と判断できるか、定かではありません。

 

AIという巨大な敵を相手に、わたしたちの個人情報はこれからどのように守られていくのでしょうか。

独立型ファイナンシャルプランナー

工藤 崇

FP事務所MYS代表。ファイナンシャルプランナー(FP)。日本最大級のマネースクール事業に参画。上場株、貴金属、為替のほか、これまで約700本の執筆記事を手掛ける。1982年北海道生まれ。

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