個人投資家には常に詐欺の被害を受けるリスクがあります。特にインターネットを介した「うまい話」には万全の用心をしている人も多いでしょう。ところが、その詐欺案件の紹介案件が、専門家や現役の銀行員だった場合、私たちはどのように警戒することができるでしょうか。
スカイプレミアムの詐欺事件による被害
2024年2月、国登録せずFX(外国為替証拠金取引)の勧誘を行ったとして、投資助言会社スカイプレミアムの役員が逮捕されました。実態を報じた記事によると、同社はおよそ2万6000人からあわせて1350億円を集めていたとみられます。
1300億円を超える被害総額もさることながら、この事件の特徴は信頼性の高い現役の銀行員といった、まず詐欺案件の紹介などしないであろう専門職が紹介役となっていたことです。報道の限りでは彼らに悪意はなく、自身も安全性を信じていたスカイプレミアムを顧客に紹介し、詐欺被害に巻き込んだという構図のようです。
当然紹介者には損害賠償の民事訴訟が待ち構えていますが、既に容疑者たちには資金の余裕が無いとも報じられています。裁判で勝訴したからといって投資金額が全額戻ってくることは考えづらいでしょう。
なぜ銀行員が詐欺案件を紹介するのか
大前提として銀行員は本来、勤務先において安全性が担保できると判断された金融商品しか販売してはいけません。自分たちが窓販として紹介手数料を得なかった場合も、民法644条の「善管注意義務」に抵触する恐れがあります。顧客に限らず専門家として活動する以上、持つべき注意義務を定めた法律です。当然、この義務にはFPも対象です。
スカイプレミアムの件は、既に多額の資金を集めていることと、投資している人の多さが信頼性とされ、金融機関や専門家が徹底すべき資格登録の確認がされなかったことが予想されます。この事件から我々が考えたいのは、銀行員から詐欺を紹介される可能性すらある時代に、我々はいったい何を信じればいいのかということです。
今後は銀行員からの紹介でも登録の確認が必要だ
今回の事件はたった1人の銀行員が、本業とは離れたところで(投資紹介による)報奨金目当てに行ったのかもしれません。もちろん一方的な都合であり、詐欺の被害を受けた投資家にその背景は何も関係無いことです。
今後、銀行員や公務員といった「詐欺案件なんて紹介するわけがない」といった人からの話でも、基本的にはすべて疑って、登録の確認をすべきだということがわかります。
ひとつの背景としてはコロナ禍が沈静化するも、多くの人が数年間の非常事態で経済的損失を受けており、一発逆転に対する渇望が強くなっていることがあります。またインターネットを介して入ってくる案件には警戒感が増すものの、反動で顔の見える相手からの話には安心感を持つ人が多かったこともあるでしょう。
筆者自身FPの仕事をしているため、このような案件を紹介することには驚きもありますが、執筆において特定の金融商品を案内することもできる活動領域でもあり、いまいちど警戒感を持つべきと自戒します。
無登録業者を積極的に取り締まる段階ではないか
金融庁では登録業者の一覧を公開しています。
ただ、これがとても見づらいものです。事業分野によってPDFが乱立し、調べるのに時間がかかります。また一応の業者検索サイトはあるものの、何社か入力しても円滑にヒットすることはなく、実用性が疑わしいものでした。
まずはこのページの運用をはじめとして、日常の投資局面において個人投資家がアプローチできる情報公開体制の見直しを期待したいものです。かつ次段階としては、金融当局による「無登録者の積極的な取り締まり」が必要な段階だと考えます。
現在の金融庁や警察当局のスタンスは、無登録者による被害が発生してはじめて取り締まりに動き、マスメディアにも大きく取り上げられます。ただ、インターネットを介した詐欺案件は被害が表沙汰になるよりも早いスピードで広がり、新たな被害者を生みます。今回のスカイプレミアムの事件は、その状況に「銀行員などの信頼性の高い職業からの紹介」が加わりました。
無登録による金融商品の紹介に対し、当局は早い段階での注意喚起に着手することを望みます。また金融機関と連携し、摘発された事業者に対しペナルティを課すなどの動きはできないものでしょうか。いつも甚大な被害が発生したあとに、「容疑者が摘発された。送金されたお金は戻ってきていない」で終わっている状況を、そろそろ変えるべきではないでしょうか。
さまざまな社会構造の変化を受けて、「貯蓄から投資へ」という言葉が聞かれるようになりました。そもそもこの投資はNISAなど上場株投資のような堅実性の高いものかもしれません。一方で今回は業者が無登録だったのであり、そもそものスキームであるFXは国も認めている投資方法です。だからこそ「無登録は関せず」ではなく、被害の生まない仕組みづくりをすべき時期が到来しているのではないでしょうか。