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「限韓令」:韓国コンテンツの流入禁止措置に緩和の兆し 新大統領就任で一気に加速も

テンセント(00700)の音楽配信子会社、テンセント・ミュージック(01698)が5月下旬、韓国の大手芸能事務所HYBEからSMエンターテインメントの株式(発行済み株式総数の9.38%)を2433億ウォン(約254億円)で取得すると伝わったことで、市場では長らく続いてきた韓国の文化コンテンツの流入を禁止する「限韓令」が解除されるとの期待が高まっています。


テンセント・ミュージックのウェブサイト(AAストックス)


THAADミサイル配備で中国が報復措置、韓国ドラマの放送中止など

限韓令とは、韓国政府が2016年7月に米国製の弾道弾迎撃ミサイルシステム(THAADミサイル)の配備を決めたことを受け、中国政府が打ち出した報復措置を指しています。限韓令に関する公式発表は見当たらないものの、同年9月以降は中国国内でも人気のあった韓国ドラマの放送が中止されたほか、韓国の芸能人がコンサート公演など中国で活動するために必要なビザの発給も停止されています。


中国政府はまた、中国人団体観光客の韓国への渡航も禁じましたが、こちらについては23年8月、3年7カ月ぶりに解禁されています。一方、韓流コンテンツは小さな例外がいくつかあるものの、基本的に現在も禁止が続いています。


HYBEが北京支社設立、BTSやSEVENTEENが所属

市場で限韓令解除への期待が高まった要因として、HYBEが北京に「HYBE CHINA」を設立したことも挙げられます。韓国ではHYBEのほか、SMエンターテインメント、YGエンターテインメント、JYPエンターテインメントを加えた4つの大手芸能事務所がよく知られていますが、HYBEを除く3社は限韓令が始まる16年よりも前に中国に支社を設立済み。HYBE CHINAは現時点でローカルメンバー選抜や新人ユニットの立ち上げなどのプロジェクトは計画していないものの、所属歌手の中国進出をサポートする計画で、HYBE CHINAの設立により韓国の4大芸能事務所が中国に出揃ったことになります。


ただ、HYBEは現在、やや厳しい状況に置かれています。というのも、HYBEは房時赫(パン・シヒョク)氏が05年に創業。房氏は日本でもファンの多い防弾少年団(BTS)をプロデュースしたことでも知られており、事務所にはBTSのほか、SEVENTEEN やLE SSERAFIM をはじめ、多くの人気アイドルグループが所属しています。HYBEは20年10月に韓国取引所への上場を果たしていますが、房氏は上場前の19年、当時の株主らに「新規株式公開(IPO)の計画はない」などと騙して株式を房氏の知人が設立したファンドに売却させ、4000億ウォン(約419億円)に上る利益を得ていたことが発覚。現在、韓国の金融当局などによる調査が進められています。


新大統領就任、中国に融和的スタンスで限韓令解除に期待

THAADミサイルの配備を受けて一気に冷え込んだ中韓関係ですが、近年はやや改善の兆しもみられており、今年2月には韓国メディアが早ければ5月にも限韓令が解除される可能性があると報じています。


一方、6月3日に行われた韓国の大統領選挙では、「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)氏が「国民の力」の金文洙(キム・ムンス)氏に勝利しました。4日に就任した李大統領は、堅固な米韓同盟を土台に日米韓協力を強固にすると表明したものの、中国と北朝鮮に対しては尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権に比べて融和的なスタンスになるとみられており、今後、一気に限韓令の解除が進む可能性もありそうです。



この連載の一覧
「限韓令」:韓国コンテンツの流入禁止措置に緩和の兆し 新大統領就任で一気に加速も
「文化広場」:全国規模の株式取引マーケットの形成に歴史的な役割
「上場廃止問題」:中国企業のADRにリスク再浮上、香港証券取引所の役割に期待
「初のブル相場」:上海総合指数は99日続伸や105%高を記録
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「栄耀」:華為から分離・独立、株式制改革完了で上場に現実味
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「打風不停市」:悪天候下での通常取引、初回は混乱なく通過
「上海証取の株券ペーパレス化」:世界に先駆けて実現
「新中国の証券取引所の誕生」(その2):“正式開業”は上海が第1号
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「新中国の証券取引市場の誕生」:発行市場の広がりで流通市場が生まれる
「中国恒大集団」:本土不動産子会社に罰金、仲介機関や監査事務所にも波及
「新中国の株券の誕生」:株式制度の原点からのスタート
「金と中国」:人民銀は21年11月から買い増し継続、産金株は高値更新相次ぐ
「万科企業」:中国不動産市場と資本市場発展の縮図
「白名単」:融資に適した不動産プロジェクトを集めたホワイトリスト
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「映画市場」:23年興行収入は4年ぶり高水準、国産映画が圧倒的存在感
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「房住不炒」:不動産投機を封じ込む中国の不動産政策基調
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中国株情報部 アナリスト

竹内 なつ子

大学卒業後、日本の証券会社に勤務。中国・北京での語学留学を経て、日系証券会社の上海駐在員事務所や台湾の会計士事務所で翻訳業務に従事。2級FP技能士。

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