気になるテーマ解説

モノ言う株主の存在感

このところは日本企業に対するモノ言う株主(アクティビスト)による株式非公開化の提案などが増えています。アクティビストは機関投資家の一種であり、ニュースではファンドと表記されることも多いです。


国内、海外問わずアクティビストは存在しますが、個人投資家も株主提案する時代になりました。ちなみに株主提案を行うには、基本的に議決権の1%以上、または議決権300個以上を持ち、6カ月以上の継続保有が必要です。多くの企業は100株(1単元)で1議決権なので、仮に300個の議決権を持つには3万株必要になります。なお、条件は会社側で変更が可能です。


こういったルールのため100株では会社に物申すことはできませんが、ちょっと前にNTTに株主提案を行った個人投資家のニュースがありました。25対1の株式分割によって1株100円台になったため、総額500万円程度で議決権300個を得ることができます。


ニュースでは、その個人投資家は否決前提であるものの、自身の問題意識を広く共有できる手段だと説明したようです。変な株主提案が横行しないことを祈りますが、確かに株主の意見を直接かつ広く伝えるには画期的な方法ですね。


話題になった株主提案

アクティビストによる株主提案は株価にも大きな影響を与えます。例えば、経営難の企業に対しては役員交代、キャッシュ持ちに対しては大胆な株主還元、迅速な経営立て直しのための非公開化など、非常にインパクトが大きいものです。


事例として、2020年以降に話題となった株主提案をいくつか紹介します。


大企業から中堅までアクティビストによる提案は多岐にわたります。上の事例にある東芝は最終的に日本産業パートナーズ(JIP)を中心とする連合により公開買い付け(TOB)が実施され、上場廃止となりました。


当時、エフィッシモは保有する東芝株についてTOBを通じて売却することで、1000億円近い利益を確保する可能性があると報じられました。もちろん、思惑が外れるリスクはあったものの、上手くいった際の利益額がとんでもないですね。


株主提案が増えた要因

アクティビストと言っても、極端な要求をしてすぐ去ってしまう者、長期にわたって経営陣と対話を続ける者、非公開化後に経営改革を実施し、立ち直ったら再び市場へ戻そうとする者、理念はそれぞれ異なります。


投資で利益を出すといった着地点は一緒ですが、方法はバラバラ。各々の理念を持つアクティビストが、こぞって日本企業へのアプローチを増やしているのには、何かしらの理由がありそうですね。


考えられる要因の一つに、東京証券取引所が定めたコーポレート・ガバナンス・コードの定着が挙げられます。基本原則は、株主の権利・平等性の確保、株主以外のステークホルダーとの適切な協働、適切な情報開示と透明性の確保、取締役会等の責務、株主との対話の5つ。


要は、持続的な成長のために一段とガバナンス(企業統治)を進めなさいという内容です。これによって、取引先との株式持ち合い、政策保有株式といった買収防衛のための古い習慣も見直しが始まったほか、コードに違反しているといった理由で会社に指摘しやすくなりました。


また、東証が2023年に「資本コストや株価を意識した経営」を要請したこともアクティビスト活性化の要因と言われています。


東証はPBR(株価純資産倍率)が1倍を下回る企業に対して、資本コストや株価を意識した経営の実施と、それに関する具体的な取り組みと開示を求めるようになりました。このため、株主も企業に対して自社株買い、増配、保有株の売却による資産効率向上といった企業価値を高める要求をしやすくなりました。


アクティビストが増えた要因はどちらも東証の市場改革が影響しています。おそらく東証も予想はしていたと思いますが、そのリスクを承知で「いつまでもぬるま湯につかっているんじゃない」と伝えたかったのかもしれません。


思惑で株価も乱高下

前述のように株主提案があった企業の株価は大きく動く傾向にあります。とはいっても、株主提案が実現するかどうかは株主総会次第。もし、株価が上昇するような内容の提案が可決すれば、そのニュースが伝わるとともに株価も急上昇するでしょう。一方、否決されてしまった場合は、期待外れということで大抵は急落することとなります。


アクティビストが目を付けたからと言って、必ず儲かるわけではないことには留意しておきたいところですね。株価は思惑や期待が先行するため、実際に株主提案が出されていない状況であっても、アクティビストによる株式保有が分かると株価は急騰する傾向にあります。


アクティビストの保有が分かるきっかけはいくつかあります。例えば、大量保有報告書が提出されることが1つ。発行済み株式数総数の5%を超える株式を保有した場合はこれの提出が必要になり、金融庁が運営するEDINET(電子開示)に掲載されて明らかになります。


2つ目はメディアによる報道です。「事情に詳しい関係者の話により、某ファンドがどこどこの株を何%持っていることが分かった」など、このような内容で保有が伝わります。3つ目は株主総会の招集通知。保有比率が5%未満であっても、上位10位に入る保有数であれば資料の大株主一覧に掲載されます。6月は株主総会シーズンなので、この時期に各社から開示される資料は要注目とされます。


下の図は花王のチャートです。株主提案に関係する事例として、香港の投資ファンドであるオアシス・マネジメントは花王に対して社外取締役の選任などを求めていました。一方、3月21日開催の株主総会では否決。そのニュースが伝わると、大きく下げて戻すなど荒い値動きに。


出所:トレーダーズ・ウェブ


前述のように、もし株主提案が可決されれば株価が大きく上昇する可能性はあります。とはいえ、結果がどうなるかはその日までわかりません。投資家としてアクティビストに追随する手法は有用であるものの、結果を待たずにある程度のところで利益をとるのも重要と言えますね。


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日本株情報部 アナリスト

畑尾 悟

2014年に国内証券会社へ入社後、リテール営業部に在籍。個人顧客向けにコンサルティング営業に携わり、国内証券会社を経て2020年に入社。「トレーダーズ・ウェブ」向けなどに、個別銘柄を中心としたニュース配信を担当。 AFP IFTA国際検定テクニカルアナリスト(CMTA)

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