表面上は力強い米雇用統計だが・・・
米11月雇用統計・NFPは市場予想を上回った一方で、労働参加率が低下しながら失業率は横ばいと、まちまちな内容でした。労働参加率の低下はトリプルデミックの影響か病気で働けなかった人々の増加が一因で、人手不足に拍車が掛かるのか、景気減速に伴う需要低下がこれを相殺するのかが、労働市場のひっ迫を占う上で今後カギを握りそうです。
家計調査ではフルタイムの小幅増となりつつ、複数の職を持つ者が就業者の増加を牽引。平均時給は上昇ペースが加速しましたが、労働参加率低下に伴う人手不足に加え、労働市場の減速に伴う解雇手当が押し上げた可能性を示します。その他、肝心のNFPの増加分をみても、娯楽・宿泊に含まれる食品サービスが約4割を占め、サービス業11業種のうち4業種は減少していました。
では、業種別や性別や人種、学歴などではどうなったのか、詳細は以下の通りです。
賃金上昇加速も、特殊要因が一因
〇業種別、生産労働者・非管理職部門の平均時給
生産労働者・非管理職(民間就労者の約8割)の平均時給は前月比0.7%上昇し、2021年12月以来の高い伸びだった。前年同月比は5.8%と、2021年8月以来の低い伸びだった前月の5.5%を超えた。
業種別を前月比でみると、同部門の平均時給の伸び0.7%以上だったのは13業種中で5業種と、前月の速報値時点の8業種を下回った。今回の1位はNFPで減少していた輸送・倉庫(3.8%上昇)で、続いて情報(1.1%上昇)、製造業(1.0%上昇)、その他サービスと娯楽・宿泊(0.7%上昇)だった。
チャート:業種別でみた前月比の平均時給、チャート内の数字は平均時給額
輸送・倉庫の平均時給の上昇ペースが11月に急伸した一因として、人員削減が考えられよう。ニューヨーク・タイムズ紙はアマゾンがコーポレート部門を始め人事、小売など広範にわたり約1万人のリストラに踏み切ると報じ、ジャシー最高経営責任者(CEO)は2023年以降も続くと発言した。同CEOはパンデミック下での需要拡大と過剰な採用による反動と説明したが、1日に1,400人規模の採用を行ったとされる。フェデックスは、規模こそ明確にしなかったものの貨物部門の従業員に一時帰休にしたと発表。大手以外にもリストラの余波が及んだならば、同部門で就業者数が減少した一方で解雇手当に押し上げられ平均時給が急伸したのも頷ける。
過去の景気後退局面でも、特にリセッション初期には生産労働者・非管理職部門の平均時給の前年同月比が堅調なペースを保っていたことが分かる。なお、リーマン・ショック直後の2008年11月は、NFPが72.7万人減だったが、平均時給は3.9%上昇していた。解雇手当に加え、パートタイムを含む低賃金職の雇用削減に伴う統計的な要因も平均時給の伸びを押し上げたとされる。
チャート:景気後退書記、平均時給の伸びは前年同月比で比較的堅調
(作成:My Big Apple NY)
足元、労働参加率がコロナ以前の水準に回復せず、対面のサービス業を中心に人手不足が続くなかで、解雇手当の押し上げ効果は、通常の雇用減速局面より大きくなる可能性にも留意したい。
労働参加率、男女人種年齢関係なく全般的に低下
〇労働参加率
労働参加率は62.1%と、前月の62.2%を下回り4カ月ぶりの低水準。働き盛りの男性(25~54歳)も全米と白人男性そろって低下した。以下は全米男性が季節調整済みで、白人は季節調整前となる。
・25~54歳 88.4%、4カ月ぶりの低水準に並ぶ<前月は88.5%、9月は2月に続き20年3月以来の高水準に並ぶ、20年2月は89.1%
・25~54歳(白人) 89.4%、4カ月ぶりの低水準<前月は89.8%、3月は90.0%と20年3月(90.3%)以来の高水準、20年2月は90.6%
・25~34歳 88.2%、10カ月ぶりの低水準<前月は88.9%、4月は89.5%と19年11月以来の高水準
・25~34歳(白人) 89.2%、3カ月ぶりの低水準<90.4%、3月の90.5%に次ぐ高水準、20年2月は90.7%
チャート:働き盛りの男性、25~34歳は4ヵ月連続で低下
働き盛りの女性(25~54歳)も、そろって低下した。
・25~54歳 76.3%<前月は76.5%、8月は77.2%と2004年4月(76.8%)以来の高水準
・25~34歳 77.8%<前月は78.0%、8月は78.6%と過去最高
〇人種別の労働参加率、失業率
人種別の労働参加率は、黒人のみ上昇した。白人、ヒスパニック系、アジア系は横ばいだった。
・白人 61.8%<前月は62.0%、3月は62.3%と2020年3月(62.6%)以来の水準を回復、20年2月は63.2%
・黒人 62.3%、20年2月(63.2%)以来の高水準>前月は62.0%
・ヒスパニック系 65.7%、4カ月ぶりの低水準<前月は66.1%、20年3月は67%、20年2月は68.0%
・アジア系 64.8%<64.9%、8月は65.3%と19年10月以来の高水準に並ぶ
・全米 62.1%<前月は62.2%、8月と3月は62.4%と2020年3月(62.7%)以来の水準を回復、20年2月は63.3%
チャート:人種別の労働参加率、黒人のみ低下し他は横ばい
(作成:My Big Apple NY)
人種別の失業率は、白人以外全て低下した。全米が3.7%で横ばいだったように、白人は3.2%で前月と変わらず。一方で、労働参加率が上昇した黒人も低下、ヒスパニック系とアジア系は労働参加率に押し下げられ、そろって低下した。
・白人 3.2%=前月は3.2%、9月は3.1%と20年2月(3.0%)以来の低水準
・黒人 5.7%、19年11月以来の低水準<前月は5.9%
・ヒスパニック系 3.9%<前月は4.2%、9月は3.8%と1973年以来の低水準
・アジア系 2.7%<前月は2.9%、9月は2.5%と4カ月ぶりの低水準、5月は2.4%と19年6月以来の低水準
・全米 3.7%=前月は3.7%、9月は3.5%と20年2月の水準に並ぶ
〇学歴別の労働参加率、失業率
学歴別の労働参加率は、全て低下した。
・中卒以下 45.6%、5カ月ぶりの低水準<前月は46.7%と8カ月ぶりの高水準、2月(46.8%)は20年2月(47.8%)以来の高水準
・高卒 55.7%、11カ月ぶりの低水準<前月は55.9%、9月は56.1%と21年12月以来の低水準に並ぶ、1月は57.2%と20年2月(58.3%)以来の水準を回復
・大卒以上 72.5%、10カ月ぶりの低水準<前月は72.8%、5月は73.3%と20年1月以来の高水準
・全米 62.1%、4カ月ぶりの低水準<前月は62.2%、8月は62.4%と2020年3月(62.7%)以来の水準を回復、20年2月は63.3%
学歴別の失業率は、まちまち。労働参加率の大幅低下した中卒で下振れした一方、高卒と大学院卒は労働参加率が低下したにも関わらず、失業率は横ばいだった。大卒は労働参加率の低下に反し、小幅ながら上昇した。
・中卒以下 4.4%、1992年のデータ公表開始以来で過去2番目の低水準<前月は6.3%、2月は4.3%と1992年の統計開始以来で最低
・高卒 3.9%=前月は3.9%、6~7月は3.6%と2ヵ月連続で19年9月(3.5%)以来の低水準
・大卒 2.0%>前月は1.9%、9月は1.8%と07年3月以来の低水準に並ぶ
・大学院卒以上 1.7%=前月は1.7%、9月は1.5%と8カ月ぶりの低水準、21年12月は1.2%と1992年1月の統計開始以来で最低
・全米 3.7%=前月は3.7%、9月は3.5%と20年2月の水準に並ぶ
チャート:失業率は中卒以下を始め、全て上昇
(作成:My Big Apple NY)
病気で働けなかった人々が急増、賃金上昇ペースを押し上げも
米11月雇用統計の詳細のポイントは、以下の通り。
①生産労働者・非管理部門の平均時給の上昇ペースは加速。ただし、前月比の上昇率が平均を上回った業種は5業種と前月の8業種を下回った。輸送・倉庫を始め、一部は解雇手当の押し上げも。
②働き盛りとされる25~54歳の労働参加率は男女問わず低下、55歳以上も含め全体的に下向き。背景として、コロナ感染の増加が挙げられ、病気で働けなかったとの回答は前月比26.5万人増の159.6万人と10カ月ぶりの高水準だった。仮に病気で職探しできなかった人々が少なければ、失業率は上昇した可能性あり。
チャート:病気が理由で職探しできなかった人々が増加し、労働参加率を押し下げ
③人種別の黒人のみ労働参加率が上昇しつつ、失業率は低下した。11月のNFPの増加幅の約4割を担い、娯楽・宿泊に含まれる食品サービスでの雇用を黒人が占めた可能性を示唆。
④NFPのうち、業種別で娯楽・宿泊の食品サービスが伸びの4割を担ったように、積極的に採用活動している職種が求職者と企業側でミスマッチしている可能性を示唆した。学歴別では大卒のみ労働参加率が低下したにも関わらず、失業率が小幅ながら上昇した。高所得に含まれるテクノロジー部門での相次ぐリストラが一因か。
米11月雇用統計は表面上、力強い数字でしたが、以上の4点などを踏まえ労働市場の減速に伴う変化を確認したと言えそうです。結果発表後にFF先物市場でのターミナル・レート見通しが5%で変わらなかったのは、こうした懸念材料が意識されたためでしょう。