トランプ大統領がロシアのプーチン大統領と会談し、間を置かずホワイトハウスでウクライナのゼレンスキー大統領と会談した際、多くの人はロシアのウクライナ侵攻もいよいよ停戦の秒読みなのかと期待しました。
一方で双方が相手国を交渉のテーブルにつかないと批判するなど、再度事態が停滞する可能性もあります。結局和平案がまとまらないのか、それともリアルタイムで報じられない交渉の結果「ウルトラC」が世界一斉に打電されるかはわかりませんが、3年半にわたる侵攻が停戦するとどうなるか、個人投資家の視点で考えたいと思います。
和平は長期的・一時的のどちらかか
和平交渉がまとまらない背景として、ロシアは長期的な和平を望み、一方のウクライナは一時的な停戦を望んでいるという違いがあります(双方の国が主張しているので事実かはわかりません)。またウクライナ側がロシア侵攻部分の領土割譲を認めるものの、ロシアが更なる侵攻を継続し、停戦交渉に応じないという情報も報じられています。
ロシアのラブロフ外相は8月24日に実施されたインタビューで、ウクライナは「中立」で無ければ停戦には応じられないと発言しました。この中立の立場は、国連安保理(安全保障理事会)の加入国が提供する精度の高いものではないと受け入れられないと主張しています。ウクライナのNATO(北大西洋条約機構)は受け入れられないという立場です。
このような各要人からの発言など、情報が錯綜している状況です。一時的であれば前線の交戦を停止して、領土線をどのように結論づけるかが優先順位となるでしょう。
この停戦がロシアが望む長期的な停戦となったとき、ヨーロッパ各国の軍備化が促進されます。ヨーロッパ各国としては対ロシアの防衛線が西に大きく移動すると、領土を面しているフィンランドやバルト三国としても緊張感が変わります。フィンランドは実際に2022年にNATOに加盟し、過去に侵攻を受けたロシアに対する警戒感を明らかにしています。
ヨーロッパは右傾化のなかで軍備化を進められるのか
そのとき、イタリアやドイツをはじめ、ヨーロッパ各国に進む右傾化が大きなポイントになります。右傾化=防衛線の軽視ではありませんが、連立政権の場合は難しいバランス感覚を求められます。ウクライナがNATO(北大西洋条約機構)への加入を認められなかったように、ヨーロッパはウクライナを支持しつつも「一線を引いていた」印象があります。対ロシアの接触ラインが変わるときにどのような変動が起こるかは、ナチスドイツが西側へ侵攻した80年前を振り返る必要もあるでしょう。
石油をはじめとしたロシアの資源
ロシアは表向き、西側諸国から経済制裁を受けています。水面下ではロシアや中国に石油を輸出しているという情報もありますが、アメリカは黙殺の姿勢を崩してはいないようです。ウクライナ侵攻が終了すると、ロシアの資源をどのように扱うかは大きなポイントとなるでしょう。筆者は貴金属のプラチナの日足を追うお仕事を1年半にわたって承っていますが、世界第2位のプラチナ生産国であるロシアへの経済制裁に変化が発生すると、世界経済におけるロシアの資源の立ち位置が変わる可能性も十分にあります。
停戦交渉と「TACO取引」
アメリカは「伝家の宝刀」としては使い過ぎである関税の優位性を、今回も発揮しようとしています。8月に入りロシア産原油購入を巡り、トランプ大統領はインドに25%の追加関税を発表したことに言及し、バンス副大統領は「こうした措置は平和追求のために用いる経済的影響力の一例」と言及しています。
今回の停戦交渉が成立するとしたら、ロシア+ウクライナ(+欧州諸国)の構図での落としどころが成立するでしょう。ただトランプ政権にはどのタイミングで「TACO取引の流れ」を出すか読めない怖さがあります。双方飲めそうな和解案も推進しておきながら、アメリカの立場から何か不都合があると突如ロシア寄りについたり、梯子を外したりします。関税問題でどれだけTACO(Trump Always Chickens Out)取引と揶揄されながらも、物事を貫き通す戦略が無いのもこの政権の特徴です。
個人投資家においては、ロシアとウクライナの停戦の行方は大きな関心事です。だからこそ何が正しくて、何が先走りした観測気球なのかを見極め、情報を取捨選択していくことが大切です。2025年の後半は一進一退しつつも、この紛争の着地点が国際関係を再構築していくでしょう。そこに現政権の特徴である「一度出しても適宜引っ込める」可能性を考察するのは、なかなか難易度が高いといえます。
2026年秋の中間選挙に向けて、世界を巻き込んだTACO取引の風潮はより各所で見られるようになっていくでしょう。日本人としての立場のほかに、個人投資家としての立場を踏まえて随時状況を分析することが大切です。