米国市場では2020-21年に新規株式公開(IPO)が活発化し、特別買収目的会社(SPAC)を通じた上場も相次ぎましたが、2022年には金融引き締めや景気低迷を背景にIPO市場は一転して厳冬期に入ります。上場が見込まれていた有力新興企業の一角は冬眠に入ったように鳴りを潜めてしまいました。
ただ、2023年に入り、米国の金融引き締めサイクルが終盤に差し掛かっているとの見方も強まってきました。米国経済は依然として景気後退のリスクを抱えていますが、IPO市場ではようやく雪解けの兆しも出始めたようです。
太陽光発電の追尾型システムを開発
こうした機運に乗って2023年2月9日にナスダック市場に上場したのが、太陽光発電の追尾型システムを開発・生産するネクストラッカーです。初値は公開価格比26.3%高の30.31ドルでした。
太陽光発電の追尾型システムはソーラートラッカーとも呼ばれ、太陽光発電の効率を大幅に改善する仕組みです。太陽光パネルを載せる可動式の架台や制御装置、ソフトウエアなどを組み合わせて運用します。太陽の動きに合わせて太陽電池パネルを最適な方位に動かす仕組みで、常に太陽光の入射角に対してパネルの角度を直角に近づけ、地上に降り注ぐ太陽エネルギーをなるべく多く受け止めます。
代表的な追尾型システムには、東西に動いて太陽光の入射角を直角に近づける単軸型と季節も考慮して東西南北に動く2軸型があります。ネクストラッカーは単軸型システムに強みを持ち、2015年から2021年まで7年連続で出荷数の世界最大手。2021年の市場シェアは30%で、ナスダックに上場する2位のアレイ・テクノロジーズ(ARRY)の18%を大きく引き離しています。
ネクストラッカーによると、単軸型のシステムでは固定型の太陽光パネルに比べて発電量が最大で25%増えるそうです。地形や日照時間などメガソーラーの立地条件も考慮する必要はありますが、発電量やコストなどを考え合わせると最適な場合が多く、太陽光発電ビジネスの投資収益率(ROI)の改善にもプラスの効果をもたらします。
もちろん2軸型のほうが発電量の押し上げ効果は大きいのですが、費用もかさむため、限られた条件でしか運用できないようです。
世界で最も売れている「NXホライゾン」
ネクストラッカーの主力製品は「NXホライゾン」です。これまでに発電容量換算で70GW(ギガワット)を超える出荷量を記録しており、世界で最も売れている太陽光発電の追尾型システムだそうです。
ハードウエアとソフトウエアを組み合わせたシステムで、据え付けが難しくなく、耐久性が高いのが特徴です。発電設備のコストパフォーマンスの測定には、建設などの初期費用から運転・維持費、数十年後の廃棄費用までをひっくるめてコストを算出し、それを総発電量で割って1キロワット時(kWh)当たりの費用を計算する均等化発電原価(LCOE)という指標が使われますが、「NXホライゾン」はLCOEも優れているそうです。
「NXホライゾン」には追尾システムの適正化と制御を司るソフトウエア「トルゥーキャプチャー」が使われています。高性能センサー、天気予想、機械学習技術を組み合わせ、装置と連動させて太陽光発電の最大化を目指します。
「NXホライゾン-XTR」は「NXホライゾン」の派生商品で、起伏の多い地形に対応する太陽光発電の追尾型システムです。特徴は太陽光パネルを同じ高さに並べるのではなく、地形に沿った格好でうねるように上下する点です。整地の手間やコストを省く上、鉄製の杭を長くしてパネルの高さを調整する作業もなくなります。
鉄の使用量を削減するだけでなく、作業が減ることで建設費も安く済みます。さらに余分な整地などをなくすため環境への影響も軽微になるなどいいことづくめのようです。
顧客は30カ国以上、メガソーラーの運営会社など
こうしたプロダクトを購入する顧客は30カ国以上に点在し、その数は200を超えています。主要顧客はメガソーラーの運営会社や所有者ですが、設計・調達・施工(EPC)を一手に引き受ける事業者が直接の顧客になるケースもあります。
主力市場は米国で、2022年3月期の売上高の約62%を占めます。逆に言えば約4割を海外が占めており、国際業務にも強みを持っていると言えます。
創業は2013年、業界のベテランのシュガー氏が起業
ネクストラッカーの歴史を振り返ると、創業は2013年です。創業者は現在も最高経営責任者(CEO)を務めるダニエル・シュガー氏。シュガー氏はニューヨーク州のレンセラー工科大学で電気・電子工学の学士、サンフランシスコのゴールデンゲート大学でMBAを取得しています。
その後は太陽光発電の業界でキャリアを積み上げており、太陽光発電システムのパワーライトで社長、パワーライトを買収したナスダック上場のサンパワー(SPWR)でも社長を務めています。サンパワーの社長を退任した後、太陽光発電モジュールのソラリアで社長を務めますが、2013年に退任し、ネクストラッカーを立ち上げました。
15年に追尾型システムで世界最大手に
ネクストラッカーは出だしから急成長し、2015年には太陽光発電の追尾型システムで世界最大手になります。そしてこの年にはシンガポールのEMS(電子機器受託製造サービス)大手で、ナスダックに上場するフレックス(FLEX)がネクストラッカーを買収します。
フレックスは大手のEMSだけに世界中にサプライチェーンを張り巡らせており、ネクストラッカーの調達業務を側面から支援しています。ネクストラッカーは大規模な生産設備を持たず、製品の供給を外部に依存しているため、親会社の支援には効果があるようです。
2022年9月末時点で主要なサプライヤーは19カ国の約65社。1週間に850メガワット(MW)相当の太陽光発電の追尾型システムを供給する能力があり、年間の供給能力は約40GW相当に上ります。製品の移動や在庫の保有を減らすため、製造の委託先からメガソーラーの現場に直接搬入する仕組みを採用しています。
競合は上海市場に上場する江蘇中信博新能源科技(688408)、ナスダック上場のアレイ・テクノロジーズ(ARRY)とFTCソーラー(FTCI)、スペインのPVハードウエアなどです。
業績は2022年3月期の売上高が前年比21.9%増の14億5800万ドルと順調に伸びましたが、売上原価が36.0%増の13億1100万ドルとかさみ、利幅が縮小しました。純利益は59.1%減の5100万ドルと半分以下に落ち込んでいます。
ただ、脱化石燃料の流れが世界的に加速するのは確実とみられており、太陽光発電セクターもさらに効率化が求められます。発電効率に優れた追尾型システムの最大手としてネクストラッカーが競争力を発揮する場面は今後さらに増えるのかもしれません。