6月、香港ドルが下落
香港ドルは現在、1ドル=7.75-7.85香港ドルの範囲で変動するドルペッグ制を採用しています。5月に投資資金の流入やドル安を背景に7.75香港ドルまで香港ドル高が進んだが、6月には7.85香港ドルまで一転香港ドル売りが強まりました。対ドル変動幅の下限に達するのは2023年5月以来となります。香港金融管理局(HKMA、中央銀行に相当)がペッグを維持するため香港ドル売却を迫られたため、銀行システムにキャッシュがあふれ、香港の金利を押し下げたのです。
23年以来のキャリー取引が活発
香港ドルの対米ドル相場が、6月に許容変動幅の下限(1ドル=7.85香港ドル)に達しました。香港の借り入れコスト低下を受け、低金利通貨で資金を調達して高金利通貨で運用するキャリー取引が活発化し、投資家の米ドル買いが増えたのです。
5月に香港ドルが急伸したため、事実上の中央銀行であるHKMAが大量の流動性を金融市場に供給しました。この介入によって香港ドルの調達コストが下がり、米国との金利差(スプレッド)は過去最大の水準まで拡大しました。金利差が大きく開くと、トレーダーは通常、香港ドルを借りて金利が高いドルを買うキャリー取引を行う傾向にあります。
香港ドルは5月、1983年にドルとのペッグ制が導入されて以降で最大の月間下落率を記録したのです。
HKMA、先週に今年2回目の介入
ドル安が続く中、HKMAは2日早朝の外国為替市場で200億1800万香港ドル規模の香港ドル買い・米ドル売りを実施しました。「香港経済日報」によると、HKMAは6月26日早朝にも、2023年5月以来およそ2年1カ月ぶりとなる94億2000万香港ドルの買い介入を実施しており、今回が年内2回目となりました。
香港ドルの歴史
1984年に、中華人民共和国とイギリスが香港主権移譲を期した「中英共同声明」に合意し、1997年7月1日に香港がイギリスの統治下から中華人民共和国に返還されました。香港は中国の特別行政区となり、資本主義制度のあり方を1997年から今後50年変えない「一国二制度」と「香港基本法」の下で地方自治を行っています。
香港ドルは香港金融管理局によって運営され、香港は外為管理上では外国と同様の扱いになっています。1983年以降、ドルに対するペッグ制(1ドル=7.8香港ドル)を施行しています。2005年5月18日から目標相場圏制度が導入されたことにより、1ドル=7.75-7.85香港ドル間での変動を認めています。
香港ドルと人民元は全く異なる通貨制度であります。香港ドルは国際的に兌換可能かつ流通可能な国際通貨であるのに対し、人民元は中国の国内での流通に限られる国内通貨であります。香港のドルペッグ制はカレンシーボード制であり、1香港ドルの発行ごとに相当するドルが裏付けられるように、香港上海銀行、スタンダードチャータード銀行、中国銀行 (香港)の3行が香港ドルを発券する際に、相応の額のドルを預託する必要があります。
香港ドルとアジア通貨危機
1997年のアジア通貨危機の際、国際投機資本の大量売りの対象になった香港ドルを防衛できた背景には、上述カレンシーボード制があります。当時香港ドルは大量に売られ、結果として香港ドルがドルへ交換されて市場の銀行券が少なくなり、金利が急騰しました。一時オーバーナイト金利が300パーセントまで急騰したのです。このため、香港ドルを借りて売っているヘッジファンドは、借入コストの上昇に耐えられなくなり、香港ドル売りから撤退せざるを得なかったのです。