第40回 米国債券価格下落で露呈したS&LとSVB経営問題

ウォーレン・バフェット氏は「潮が引いた時に初めて、誰が裸で泳いでいたのかが分かる」と喝破しています。

 

パウエル第16代FRB議長は、ボルカー第12代FRB議長に倣って、インフレ抑制のために金融を引き締めて債券価格を下落させています。ボルカー第12代FRB議長の時は、債券価格が下落した時、米貯蓄貸付組合(S&L)が破綻しました。パウエル第16代FRB議長の時は、これまで、シルバーゲート・バンク(Silvergate Bank)、シグネチャー・バンク(Signature Bank)、シリコンバレーバンク(SVB)が破綻しました。

 

伝統的な銀行業務は、預金という低金利の短期資金を調達して、住宅抵当貸付や債券投資という高金利の長期の資産で運用するというものです。しかし、金利が急激に変化した場合、銀行が保有する長期の資産と預金との間の不均衡「逆ザヤ」を発生させます。


米連邦準備理事会(FRB)は、2022年3月に0.25%の利上げを開始し、2023年3月までの1年間で9回の利上げを断行して、FF金利誘導目標を4.75-5.00%まで引き上げてきました。

米10年債の価格は10%強下落し、2022年末の米国の銀行システム全体での含み損は6200億ドルに達していたと報じられています。

この膨大な含み損に耐えきれなかった銀行が、シルバーゲート・バンク、シグネチャー・バンク、シリコンバレーバンクという「S」で始まる3つの金融機関であり、1980年代のS&Lの破綻を彷彿とさせるものでした。

 

1.米貯蓄貸付組合(Saving&Loan)危機

1970年頃まで米国の銀行業は規制によって保護されていた。当時の銀行業は「3-6-3」と呼ばれており、3%の低金利で預金を集め、6%の高金利で融資をして、午後3時にはゴルフ場に行く、というビジネス・モデルでした。

当時3200以上存在していたS&Lは、相対的に低い金利で預金を集め、相対的に高い固定金利での住宅ローン(20~30年間)で労働者階級の住宅購入を支援していました。

しかし、1980年代の石油ショックを端緒とするインフレ高騰により、ボルカー第12代FRB議長率いるFRBは、急激にフェデラルファンド金利16.6%台まで引き上げました。預金金利の上限が撤廃されていたため、短期の調達金利は急上昇、長期の固定運用金利を上回ったため「逆ザヤ」に陥り、約1/3のS&Lが破綻しました。

 

2.シリコンバレーバンク(SVB)の破綻

SVBの2022年末の決算書を見ると、総資産が約2090億ドル、シリコンバレー地区のベンチャー企業からと思われる預金が約1730億ドル、現金は138億ドル、住宅ローン担保証券(MBS)や米国債などが約260億ドルでした。

3月8日、保有する有価証券の価格が下落し、損失が発生する状況となったため、資本増強のために22億ドル強を調達すると発表すると同時に、有価証券約210億ドルを売却して、税引き後利益ベースで約18億ドルの損失を計上すると発表しました。

3月9日、SVBの預金流出が加速し、株価が急落し、3月10日に経営破綻しました。

 

3.米連邦準備理事会(FRB)

2021年秋、サンフランシスコ地区連銀はSVBのポートフォリオを検証して、金利上昇リスクへの脆弱性を警告していました。

2022年、デイリー米サンフランシスコ連銀総裁は、インフレを抑制するための利上げを主張していました。

2023年2月中旬、バーFRB副議長(銀行監督担当)は、SVBの金利リスクに関連する問題を初めて認識したとのことです。

2023年3月7-8日、パウエルFRB議長は議会での証言で、利上げ継続の必要性を主張し、0.50%の利上げの可能性を示唆していました。

3月22日の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、0.25%の第9次追加利上げが断行され、0.25%の第10次追加利上げが示唆され、年末のターミナルレート(利上げの最終到達点)は5.10%(FF金利誘導目標5.00-25%)と示されました。


米ブルッキングス研究所シニアフェローのアーロン・クライン氏は、「FRBはずっと眠っていたようだ」と批判しています。

 

為替情報部 アナリスト

山下 政比呂

証券会社で株式・債券の営業、米系銀行で為替ディーラー業務(スポット、スワップ、オプション)に従事。プライベートバンクでは、為替のアドバイサーとして円資産からドル建て資産への分散投資を推奨してきたドル高・円安論者。 「酒田罫線法」「エリオット波動分析」「ギャン理論」などのテクニカル分析をベースに、ファンダメンタルズ分析との整合性を図り、相場観を構築。 ウォール街の格言「ゴルフと相場は、どちらもタイミングが全て」に出合い、ゴルフと相場の共通項を模索中。 2016年にDZHフィナンシャルリサーチに入社。

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