気になるテーマ解説

ソフトバンクグループとNAV

8月12日、日経平均が1年1カ月ぶりの最高値を更新しました。13日には43000円台を付けるなど、このところの上昇が急ピッチですね。日経平均に大きく影響を与えるのは、225銘柄の中でも「値がさ」と呼ばれる会社です。


例えば東京エレクトロン、アドバンテスト、ファーストリテイリング、ソフトバンクグループ(以下、文中ではSBG)などが特に影響を与える銘柄として知られていますが、直近の上昇けん引役はSBGと言えるでしょう。


SBG(日足) 25年8月13日11時までのチャート


出所:トレーダーズウェブ


ソフトバンクグループとNAV

直近の決算発表を受けて上場来高値を更新したSBGですが、一段の上昇が見込めるのでしょうか。もっと買われる余地はあるのか、株価に割安感があるかどうか、そういった可能性を考える指標としてPER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)が有名ですよね。


ちなみにSBGの指標を見てみると、8月13日時点でPERは38倍台、PBRは1.9倍程度あります。日経平均のPERは17.5倍程度、PBRは1.5倍程度なので、主要銘柄の平均値で比べると割安感があるとは言いづらいところです。


ただ、SBGの会長兼社長である孫正義氏が「株価はNAV(Net Asset Value ナブ)に対して割安である」といった旨の説明をしているとおり、市場ではSBGの割安感を図る指標としてNAVを重要視しています。


NAVとは?

NAVは純資産総額のことを指し、資産から負債を差し引いた金額です。REIT(不動産投資信託)版のPBRと言われることもあり、1口価格÷1口当たりNAVで算出した倍率をPBRの代わりとして活用する方法がとられます。NAV倍率が1倍以下であれば割安感があるといった感じですね。


 


SBGは投資会社なので、単純にPBRでみるのではなく保有株式から負債を差し引いたNAVで評価してほしいといった説明を公式で掲げています。同社が算出した数値は2025年6月30日時点で、NAV:32.4兆円(保有株式39.05兆円-純負債6.64兆円)とのこと。1株当たりNAVにすると22748円となるため、時価換算でNAV倍率は0.6倍台。株価が22748円まで上昇すればようやくSBGが言うPBR1倍といったイメージです。


NAVは常に変動する

資産価格や負債額は常に動いているので、それを基に計算されるNAVも一定ではありません。ではSBGのNAVが動く要因をみていきましょう。


SBGの資産と負債(2025年6月30日時点)

出所:ソフトバンクグループ コーポレートサイト提供情報をもとに弊社作成


<資産>

保有資産(株式)の内訳をみると、その半分が英国の半導体設計会社であるアーム・ホールディングス(アーム)です。次いで多いのが、投資ファンドのSVF、通信子会社のソフトバンクであることがわかりますね。


アームの株価が大きく動くとNAVへの影響も大きいため、アーム株が上昇→SBG株の買い材料、アーム株が下落→SBG株の売り材料となります。特にニュースもなさそうだけれどなぜ株価が動いているの?と疑問に思った際、アームの株価を見てみるとわかるかもしれませんね。


他方、SVFの投資損益がどのような状況なのかは、基本的にはSBGの決算発表時にしか分かりません。アーム株が上がっていても、SVFの投資損益が悪化しているとSBGの利益やNAVにも大きく影響します。アームの影響が最も大きいことに変わりはありませんが、それだけがすべてではない、ということには注意が必要です。


<負債>

25年6月30日時点の負債額はなんと6.6兆円。24年3月期の有価証券報告書を参照にするとSBGの支払利息はおおよそ4437億円でした。借金の額、利息の額も桁違いですね。


前述の計算式のとおり、負債が増加するとNAV、1株当たりNAVも減少します。社債の発行や借り入れによって調達した資金を基に投資を行い、それが値上がりすればNAVも増加します。ただ、必ず値上がりする保証はどこにもないので、投資がうまくいかなければ単純にNAVが低下、利息の負担が増えるだけということになります。


<発行済み株式総数>

NAVを発行済み株式総数(自己株式を除く)で割ると、1株当たりのNAVになります。分子(株数)が少ないほど1株当たりのNAVは大きくなりますので、SBGが自社株買いを行うと1株当たりのNAVも増加します。一部の機関投資家がSBGに自社株買いを求めているのは、こういった理由が根拠の一つといえます。


SBGは投資会社になりますので、株式市場が盛り上がれば投資利益は増えます。一方、相場が下がれば逆のことが起こるため、マーケット全体との連動性が高い会社と言えますね。たびたびになりますが、投資資金の半分を占めるアームの影響は非常に大きいです。


SBGはAI関連の投資を積極的に行っており、孫会長は人工超知能「ASI」の実現を熱弁しています。生成AIブームの立役者であるオープンAI(非上場)にも出資していますが、最近のニュースだとオープンAIが自社の企業価値を5000億ドル(約73.6兆円)と評価しているようです。オープンAIをはじめ、新たな投資先の企業価値向上が一段の株価上昇につながることを期待したいですね。


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日本株情報部 アナリスト

畑尾 悟

2014年に国内証券会社へ入社後、リテール営業部に在籍。個人顧客向けにコンサルティング営業に携わり、国内証券会社を経て2020年に入社。「トレーダーズ・ウェブ」向けなどに、個別銘柄を中心としたニュース配信を担当。 AFP IFTA国際検定テクニカルアナリスト(CMTA)

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