日銀7月会合、4会合連続で政策の据え置き
日銀は7月31日の金融政策決定会合で政策金利を0.5%程度に据え置くことを決定しました。日銀が政策を維持するのは4会合連続となります。
金融政策決定会合後の会見で植田日銀総裁は、日米協議が合意に達し関税率がどうなるかという不確実性は低下したが、米関税措置による国内経済の影響について「一気に霧が晴れることはなかなかないと思う」と述べ、「基調的な物価上昇率は2%に届いておらず、緩和的な金融政策を維持している」との見解を示しました。
「基調的な物価上昇率」
植田日銀総裁がよく口にしているこの「基調的な物価上昇率」は何を指しているのでしょうか。
日銀は2016年以来、「生鮮食品・エネルギーを除く消費者物価」(いわゆるコアコア消費者物価、以下「コアコア指数」)を「基調的な消費者物価」と呼び、重視する姿勢を示してきました。「展望レポート」(経済・物価情勢の展望)の物価見通しにも、従来の「生鮮食品を除く消費者物価」(いわゆるコア消費者物価、以下「コア指数」)に加えて、20年4月からコアコア指数を参考指標として掲載してきました。
日銀は2024年3月会合で消費者物価の基調的な上昇率が「物価安定の目標に向けて徐々に高まっていく」としたうえで、見通し期間終盤にかけて「『物価安定の目標』が持続的・安定的に実現していくことが見通せる状況に至った」との理由を挙げ、異次元緩和を解除しました。
日銀が「物価安定の目標」という場合、対象とする物価指標は基本的に消費者物価指数(総合)であります。消費者の生活に最も密接に関連する指標だからです。ただ、野菜や果物の価格などは天候の影響を受けやすく、指数を構成する品目の中には、価格が不規則に変動するものがあります。そこで、その時々の金融政策の判断に当たっては、一時的な価格変動を起こしやすい品目を除く指数を重視してきました。その役割を担ったのが「生鮮食品を除く消費者物価」すなわちコア指数だったが、2016年9月、日銀は、この指標を上書きするかたちで、コアコア指数を「基調的な物価上昇率」と定義しました。その結果、コア指数とコアコア指数の位置付けが変わり、以後、後者を重視するウェイトが増えました。
都合のよい「基調的な物価上昇率」
消費者物価(総合)、コア指数とコアコア指数はこの3年間、ほぼすべての月で3年以上にわたり2%超えが続き、足元では3%台まで上昇しています。足元の物価高は、金融の超緩和状態が是正されていないことも一因と言えます。
2023年4月に植田日銀総裁が就任した当時は「基調的な物価上昇率」を重視する姿勢を示さなかったが、これでは対外的なコミュニケーションがうまくいかないことを懸念し、最近は、現時点で考える「基調的な物価上昇率」の一端を述べるようになりました。
ただ、植田日銀総裁が現時点で最も注意深くモニターしている指標のひとつが「中長期インフレ予想=合成予想物価上昇率(10年後)」だといい、この指標が「足元、1.5%から2.0%の間にあり、まだ2%の目標水準を下回っている」ことを強調しています。
混乱招く「基調的な物価上昇率」
植田総裁が主張する「基調的な物価上昇率」に対して、多くの疑問の声が聞かれるようになっています。植田総裁は「『基調的な物価上昇率』がまだ物価目標に達していない」と主張しているが、実際の消費者物価は3年以上にわたり高騰が続いています。このため、「日銀には国民生活の実態が見えていないのではないか」との声が出ています。
これまで日銀は「基調的な物価上昇率」の定義を状況に応じて変えてきました。さらに、最近はその定義を必ずしも明確にしていません。「基調的な物価上昇率」を都合のいいように使うのではなく、物価安定に責任をもつ中央銀行として物価目標2%の妥当性を検証し、柔軟で機動的な政策運営の回復に努めないと、市場の混乱を招きくことになります。