KBW地銀株指数はSVB破綻後の下落を打ち消し、その実力は本物か

米銀の株価、決算を追い風に軒並み買い戻し


ダウ平均が7月20日までに2017年9月以来の9連騰を果たすなか、銀行株も堅調です。S&P金融株指数は、3月7日以来の水準を回復。地銀株も買い戻され、KBW地銀指数は終値でシリコンバレー銀行(SVB)が破綻した3月10日以来の水準へ切り返しました。


一因に、7月に発表された米銀の決算が株価の追い風になっています。米銀最大手J.P.モルガン・チェース(JPM)は5月に地銀ファースト・リパブリック・バンクを買収した影響もあって、4~6月期の決算で前年同期比67%増の144.7億ドル(1兆9,900億円)と最高益を叩き出しました。ウェルズ・ファーゴ(ウェルズF)は同57%増、バンク・オブ・アメリカ(BofA)も19%増と軒並み2桁増に。米連邦準備制度理事会(FRB)が2022年3月から5%もの利上げに踏み切るなか、純金利収入(NII)が支え、JPMのNIIは前年同期比44%増、ウェルズFとBofAはそれぞれ同29%増、同14%増でした。


チャート:S&P金融株指数、3月7日以来の水準を回復

 

(出所:TradingView)


チャート:KBW地銀株指数、終値ベースで3月10日以降の下落を打ち消し

 

(出所:TradingView)


米地銀の預金残高、改善はまちまち


ただし、米地銀の決算や預金残高をみると、手放しで好結果とは言い難い状況です。M&Tバンクは純利益が前年同期比4倍増の8.6億ドルでした。大手銀と同じく、純金利収入が27%増の18億ドルとなり、利益を支えています。しかし、M&Tバンクの預金残高は前期比で1.8%増ながら、前年同期比で4.9%減の1,621億ドルでした。USバンコープも、預金残高は前年同期比8.9%増の4,973億ドルだった一方で、前期比で2.6%減に。決算内容は、調整済み1株利益が1.12ドルと市場予想と一致し、NIIが前年同期比28.4%増の44.5億ドルと支えています。しかし、通期の純金利収入見通しは175億~180億ドルと、市場予想の181億ドルに届きませんでした。キーコープに至っては純利益が前年同期比50.4%減の2億5,000万ドルで、NIIが同10.7%増の9億8,600万ドルとなったことが痛手となりました。キーコープの金残高は前期比3.9%減、前年同期比でも11.3%減の1,278億ドルと、弱い結果に終わっています。全体的に、地銀の実力が評価されたというより、一部の地銀の預金残高の回復や割高感を背景に物色されて買い戻されたように見えます。


貸倒引当金、大手銀から地銀まで軒並み積み増し


キーコープが減益を計上した理由として、貸倒引当金の積み増しがあります。Q2は前年同期比3倍増の1億6,700万ドルでした。またUSバンコープも同2.5倍増の8億2,100万ドルを、M&Tバンクは同50%減ながら、前期比25%増の1億5,000万ドル積み増しました。


貸倒引当金をめぐっては、米大手銀も同様に大幅に積み増しています。JPMは前年同期比で約3倍増の29億ドルを計上し、ウェルズFも同3倍増の17億1,300億ドル、BofAは同約2倍増の11億2,500万ドルを積み増しました。ファクトセットによれば、S&P500に含まれる銀行の貸倒引当金は7月18日までに99億ドルとなる見通しで、実現すればコロナ禍で経済活動が停止した2020年Q2以来で最大となります。


貸倒引当金の拡大をめぐっては、商業不動産ローンの影がちらつきます。BofAの場合、商業用不動産の貸倒引当金が13億ドルと、その他やグローバル・マーケッツからの戻し入れによって全体の貸倒引当金が押し下げられていました。ウェルズFのチャーリー・シャーフ最高経営責任者(CEO)は、決算報告書で「主にオフィス・ポートフォリオの商業用不動産で損失が拡大した」と言及。M&Tバンクも、決算資料でQ2に前期比で貸倒引当金が増加した理由として「商業用不動産価格の下落を反映した」、キーコープは「経済見通しおよびポートフォリオ活動の変化が影響した」と説明していました。USバンコープは貸倒引当金について特に明記しなかったものの「金利上昇の影響が金融市場に波及するにつれて、商業用ポートフォリオに多少の緊張が予想され、商業用不動産の評価も金利上昇とオフィスビル需要の変化の影響を受ける」と懸念を示していました。


さらに、今後は米利上げ打ち止めや他行との競争を背景とした預金金利引き上げが予想され、NIIの伸びも縮小しかねません。米銀の株価は足元で買い戻しが勢いを増す一方で、米地銀を中心に米景気減速局面では不安を残す決算内容だったと言えるでしょう。


ストリート・インサイツ

金融記者やシンクタンクのアナリストとしての経験を生かし、政治経済を軸に米国動向をウォッチ。NHKや日経CNBCなどの TV 番組に出演歴があるほか、複数のメディアでコラムを執筆中。

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