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第156回 今年後半の米経済

米経済の現状

7月30日に発表された米第2四半期GDP速報値は前期比+3.0%と第1四半期の-0.5%からプラスに転じ、市場予想を上回りました。ただ、回復の大部分は輸入の減少によるものだったほか、国内需要の伸びは2年半ぶりの低水準にとどまり、経済活動の減速も垣間見られます。結果が「米経済が景気後退に陥る」との懸念を高めなかったのは朗報と言えますが、今年後半の経済見通しに自信を与えるような力強い成長に関するデータとは言えません。

 

第1四半期はトランプ政権の関税措置を見据えて輸入が急増していたため、第2四半期はその反動で輸入が急減しました。貿易赤字が縮小し、成長率を4.99ポイント押し上げました。 一方、在庫投資の減少は3.17ポイントの押し下げ要因となりました。経済活動の6割以上を占める消費支出は1.4%増と前四半期から加速し、緩やかな伸びとなりました。

 

また、8月1日発表された7月米雇用統計は、非農業部門雇用者数は7.3万人増加しました。伸びは予想以上に鈍化したほか、過去2カ月分の雇用者数も計25.8万人下方修正されました。労働市場の状況悪化を示唆し、9月の米利下げ再開を後押しする可能性があります。

 

同じく8月1日に発表された7月米ISM製造業景況指数は市場予想や前月を下回る48.0となりました。新規受注の指数と生産指数は前月から上昇したが、雇用指数や仕入れ価格指数が低下しました。

 

今年後半の米経済

米経済は今年下半期に鈍化するとの見方が多いです。米政権は複数の国・地域との貿易合意を発表したものの、米国の有効関税率は1930年代以来の高水準が続いていることや、輸入の約6割が合意の対象に入っていないことが指摘されています。

 

関税により景気は減速

関税引き上げを通じて、個人消費や設備投資、輸出が下押しされると見込まれます。関税による物価への影響は第3四半期から表れ、同期の実質GDP成長率はマイナスに転じる可能性があります。その結果、今年の実質GDP成長率は前年比+1.4%にとどまりそうです。

 

インフレは一時的に加速

企業が自社で負担しきれなくなった関税コストを販売価格に転嫁する動きが強まり、今年の下半期はインフレが加速する見通しです。ニューヨーク連銀が5月に行った企業調査によれば、過去6カ月以内に関税によるコスト上昇に直面した輸入企業のおよそ8割が関税コストを価格転嫁したと回答しています。今夏には、コア消費者物価指数は前年比で一時4%を超える水準まで上昇する見込みです。ただ、関税によるインフレはあくまで一過性にとどまる可能性があります。

 

消費は減少

トランプ関税は物価上昇だけでなく、賃金の面からも家計の購買力を下押しし、実質所得の減少や格差拡大を受けて消費は減少すると見込まれます。関税引き上げが低所得層の負担を高めること、学生ローン返済を巡る家計の金融環境が悪化していること、トランプ米政権の大型減税法案などにより所得格差が拡大し、低所得層における支出抑制の動きが一段と強まることが見込まれます。

 

住宅市場の低迷は長期化

トランプ米大統領による政策変更を受けて、住宅投資は先行きも不振が続く見通しです。足元では住宅ローン金利の高止まりなどを背景に住宅販売・着工件数は減少傾向を強めています。この先、利下げが再開されることに伴って住宅ローン金利は緩やかな低下が見込まれる一方で、関税による原材料価格の上昇や移民規制の強化などで住宅価格に下押し圧力が強まりそうです。

 

世界景気の減速により輸出は下振れ

トランプ関税が輸出相手国の景気悪化につながり、今後米国の輸出も減速すると見込まれます。他国の景気減速による輸出の減少という形で米国自身に跳ね返るスパイラルが生じる可能性があります。

この連載の一覧
第156回 今年後半の米経済
第155回 日米合意、今後のドル円は?
第154回 トランプ氏、人民元の影響拡大の引き立て役になるか
第153回 香港ドル、キャリー取引が活発化
第152回 英国でもトリプル安
第151回 中東リスクに円買いではなくドル買い
第150回 悪いドル安
第149回 FX、マイルールを徹底
第148回 FX詐欺の手口
第147回 信認低下のドル、売り圧力が継続
第146回 半導体を制するものが世界を制する
第145回 米中会談、過度な期待は禁物
第144回 加ドル、米加首脳会談に注目
第143回 日米協議、円安是正に一安心も警戒残る
第142回 関税方針、トランプ氏の正念場
第141回 トランプ氏の脅かし、中国には通用しない
第140回 トランプ関税、ポンド相場への影響
第139回 RBA、追加利下げは5月か
第138回 英中銀、慎重な利下げペース維持
第137回 ドイツの大規模な財政拡大策
第136回 中国、今年GDP成長目標を5%前後に
第135回 米消費者信頼感指数、消費鈍化を示唆
第134回 リーダー不在のEU
第133回 各国中銀の利下げも、トランプ関税効果を薄めるか
第132回 円と加ドル、IMMポジションの変化
第131回 FX取引、投資詐欺に注意
第130回 FX、リスクも把握した上で取引を
第129回 トランプ氏VS中国
第128回 トランプトレードはいつまで続くか
第127回 ポジションの手仕舞い
第126回 今年最後の日米金融政策会合
第125回 中国景気、改善傾向もトランプリスク高まる
第124回 尹韓国大統領の戒厳令騒動
第123回 ポジションの管理
第122回 ドル円、160円台復帰はあるか
第121回 AI・FX取引
第120回 FX取引はギャンブルなのか
第119回 FXの確定申告
第118回 元キャリートレードの復活に注意
第117回 ドル円 8/1以来の150円台
第116回 ポンド、雇用・物価データの見極め
第115回 中国、景気支援策を強化
第114回 自民党総裁選、サプライズの結果に
第113回 景気回復が鈍いままの中国経済
第112回 最近の円相場、スキャルピング手法が有利か
第111回 最近主要国の金融政策(4)
第110回 最近主要国の金融政策(3)
第109回 最近主要国の金融政策(2)
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第107回 投機筋、2週間以内での勝負多い
第106回 トランプVSハリス
第105回 来週の日銀会合、利上げは?
第104回 イベント・材料の認識から消化まで
第103回 経済指標の基本知識
第102回 勝つために情報本質の見極めは大事
第101回 押し目買いの罠
第100回 円安・円高の影響
第99回 円キャリートレードは正念場
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第94回 FX、初心者に多い失敗例
第93回 本間宗久が残した相場の極意
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第90回 米長期金利とドル円
第89回 RBNZ政策金利とNZドル円
第88回 日銀、利上げに踏み切るも円安
第87回 日本、「金利のある世界」に向かう
第86回 豪中銀と政策金利
第85回 トランプ氏の再選リスク
第84回 加中銀とその金融政策
第83回 英中銀とMPC
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第81回 FRB 、FOMC
第80回 人民元の基準値
第79回 円キャリートレード
第78回 日銀、1月会合でマイナス金利解除を見送るか
第77回 ドル円 ゆく年くる年(2)
第76回 ドル円 ゆく年くる年(1)
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【FX、やるならお得に】第2回 そもそも為替って何?
【FX、やるならお得に】第1回 敵知らずして勝利なし!

為替情報部 アナリスト

金 星

中国出身。横浜国立大学大学院卒業後、国内商品先物会社に入社。 外国為替証拠金取引会社へ出向し、カバーディール業務に携わりながら市況サービスも担当。 2013年にDZHフィナンシャルリサーチに入社。

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