米経済の現状
7月30日に発表された米第2四半期GDP速報値は前期比+3.0%と第1四半期の-0.5%からプラスに転じ、市場予想を上回りました。ただ、回復の大部分は輸入の減少によるものだったほか、国内需要の伸びは2年半ぶりの低水準にとどまり、経済活動の減速も垣間見られます。結果が「米経済が景気後退に陥る」との懸念を高めなかったのは朗報と言えますが、今年後半の経済見通しに自信を与えるような力強い成長に関するデータとは言えません。
第1四半期はトランプ政権の関税措置を見据えて輸入が急増していたため、第2四半期はその反動で輸入が急減しました。貿易赤字が縮小し、成長率を4.99ポイント押し上げました。 一方、在庫投資の減少は3.17ポイントの押し下げ要因となりました。経済活動の6割以上を占める消費支出は1.4%増と前四半期から加速し、緩やかな伸びとなりました。
また、8月1日発表された7月米雇用統計は、非農業部門雇用者数は7.3万人増加しました。伸びは予想以上に鈍化したほか、過去2カ月分の雇用者数も計25.8万人下方修正されました。労働市場の状況悪化を示唆し、9月の米利下げ再開を後押しする可能性があります。
同じく8月1日に発表された7月米ISM製造業景況指数は市場予想や前月を下回る48.0となりました。新規受注の指数と生産指数は前月から上昇したが、雇用指数や仕入れ価格指数が低下しました。
今年後半の米経済
米経済は今年下半期に鈍化するとの見方が多いです。米政権は複数の国・地域との貿易合意を発表したものの、米国の有効関税率は1930年代以来の高水準が続いていることや、輸入の約6割が合意の対象に入っていないことが指摘されています。
関税により景気は減速
関税引き上げを通じて、個人消費や設備投資、輸出が下押しされると見込まれます。関税による物価への影響は第3四半期から表れ、同期の実質GDP成長率はマイナスに転じる可能性があります。その結果、今年の実質GDP成長率は前年比+1.4%にとどまりそうです。
インフレは一時的に加速
企業が自社で負担しきれなくなった関税コストを販売価格に転嫁する動きが強まり、今年の下半期はインフレが加速する見通しです。ニューヨーク連銀が5月に行った企業調査によれば、過去6カ月以内に関税によるコスト上昇に直面した輸入企業のおよそ8割が関税コストを価格転嫁したと回答しています。今夏には、コア消費者物価指数は前年比で一時4%を超える水準まで上昇する見込みです。ただ、関税によるインフレはあくまで一過性にとどまる可能性があります。
消費は減少
トランプ関税は物価上昇だけでなく、賃金の面からも家計の購買力を下押しし、実質所得の減少や格差拡大を受けて消費は減少すると見込まれます。関税引き上げが低所得層の負担を高めること、学生ローン返済を巡る家計の金融環境が悪化していること、トランプ米政権の大型減税法案などにより所得格差が拡大し、低所得層における支出抑制の動きが一段と強まることが見込まれます。
住宅市場の低迷は長期化
トランプ米大統領による政策変更を受けて、住宅投資は先行きも不振が続く見通しです。足元では住宅ローン金利の高止まりなどを背景に住宅販売・着工件数は減少傾向を強めています。この先、利下げが再開されることに伴って住宅ローン金利は緩やかな低下が見込まれる一方で、関税による原材料価格の上昇や移民規制の強化などで住宅価格に下押し圧力が強まりそうです。
世界景気の減速により輸出は下振れ
トランプ関税が輸出相手国の景気悪化につながり、今後米国の輸出も減速すると見込まれます。他国の景気減速による輸出の減少という形で米国自身に跳ね返るスパイラルが生じる可能性があります。