【米国IPO銘柄の横顔】クラビヨ(KVYO)「効率的に顧客にアプローチ、アマゾンキラーとの相性が抜群」

米国市場にとって2023年9月中旬は新規株式公開(IPO)の復活を印象づける時期だったのかもしれません。2020-21年にはテック企業のIPOがブームとなり、特別買収目的会社(SPAC)を通じた新規上場がもてはやされましたが、2022年以降は一転、厳冬期に入り、IPO市場は凍りつきました。


2023年に入り、雪解けの兆しがみえ始め、夏休み明けの9月に大型上場が実現します。やや遅い盛夏がやってきたようで、9月14日に半導体設計大手の英アーム・ホールディングス(ARM)、19日に食品宅配サービスの「インスタカート」を運営するメープルベア(CART)、そして20日にマーケット支援のクラビヨ(KVYO)が上場しました。


上場規模でいえばアームは別格ですが、メープルベアとクラビヨもそれぞれ時価総額が1兆円を超えています。前回はメープルベアを取り上げましたので、今回はクラビヨをご紹介します。


EC店舗運営者に販促ツールを提供

クラビヨはメールやショートメッセージサービス(SMS)を販促ツールとして活用する仕組みを企業や個人事業主に提供しています。企業や個人事業主が自前で収集して保有する顧客データを生かし、顧客に効果的にアプローチするツールを開発しているのです。


クラウド上にあるソフトウェアをインターネット経由で利用できるサービス(SaaS)を通じてプラットフォームを展開しています。クラビヨのプラットフォームでは、顧客データの管理、マーケティング、メールやSMSなどを使った顧客への告知、データ分析、報告、洞察などを一元的に実行します。


主にネット上の店舗運営者や実店舗を持つ小売事業者などがクラビヨのサービスを利用しています。クラビヨはネット通販向けの電子商取引(EC)プラットフォームの開発を手掛けるショッピファイ(SHOP)、ビッグコマース・ホールディングス(BIGC)、セントラ、アドビ(ADBE)傘下のマジェント、プレスタショップ、ウーコマース、スクエア、セールスフォース・コマースクラウドなどと提携しており、中でもショッピファイとの関係は特別です。


クラビヨは2022年7月にショッピファイから約1億ドルの出資を仰ぎ、資本業務提携を進めています。ショッピファイが自社のECサイト構築・運営プラットフォームを利用する店舗運営者に対してクラビヨのツールを推奨する見返りに、収益の一部をショッピファイに支払うレベニューシェア契約も結びました。


2022年12月期の年間経常収益(ARR)に占めるショッピファイ利用者の割合は77.5%。売上高の約8割をショッピファイのEC店舗運営者などから上げているのです。



ショッピファイはアマゾン・ドットコム(AMZN)に取り込まれないオンラインストアを支援するため、ときに「アマゾンキラー」と呼ばれます。クラビヨのツールはこうしたショッピファイのEC店舗運営者との相性が抜群のようです。店舗運営者はショッピファイから推奨されているから使い始めたとしても推奨だけで継続はしません。実際に効果があるから利用を続けているといえそうです。


クラビヨのメッセージングツールは、基本的にEメール、SMS、スマートフォンのプッシュ通知などシンプルです。ただ、顧客の属性やEC店舗での購買履歴などの分類に基づくターゲットの設定とメールの連動が秀逸なようで、特に販促キャンペーンの告知に定評があります。


創業者はハーバードで物理学を専攻

クラビヨの共同創業者で最高経営責任者(CEO)のアンドリュー・バイアレッキ氏は1986年生まれの37歳です。マサチューセッツ州ボストンの郊外で生まれ育ち、州内にキャンパスがあるハーバード大学で学びます。


ハーバード大学出身のテック企業の創業者は、ビジネススクールでMBA(経営学修士)を修めるというイメージが強いと思います。また、技術者を兼任する創業者はコンピューターサイエンスの博士号を取得するパターンがよくありますが、バイアレッキ氏が選考したのは物理学、天文学、天体物理学で、学士を取得しています。


異色の経歴というか変わり種ですが、学生時代に宇宙望遠鏡のプロジェクトに参加した折、政府補助次第でプロジェクトが頓挫しかねない事実を突きつけられ、天体物理学で身を立てることをあきらめます。


バイアレッキ氏はまた、「コンピューターサイエンスの学位は必要ない」との考えを持ち、取り組み次第で技術を習得できると主張しています。実際、2007年にハーバード大学を卒業した後には複数のテック企業でソフトウエア開発を手掛け、2012年にクラビヨを立ち上げました。


売上高が右肩上がりに増加、1-3月期に黒字転換

クラビヨは成長を続けています。2023年6月末時点の顧客数は13万を超え、前年同時期の約10万5000から大きく伸びています。特に年間利用額が5万ドルを超える大口顧客が1458に達し、前年同期比で94%増とほぼ倍増しました。


四半期ベースの売上高は右肩上がりに増えており、2023年1-3月期には純損益ベースでついに黒字に転換しました。2023年4-6月期にも黒字を続け、純利益が1000万ドルの大台に乗っています。



今後の伸びしろを考えた場合、課題は海外での事業展開です。というのもクラビヨのプラットフォームは現在、英語にだけ対応しており、オフィスを構える海外市場は英国とオーストラリアに限られています。


ちなみにショッピファイは2022年末時点で175を超える国・地域で事業を展開しています。海外でもショッピファイ経由でクラビヨのサービスは使えるようですが、英語だけでは利便性に限界があります。海外での使い勝手を改良できれば、クラビヨの前には茫洋たる市場が広がっているといえるかもしれません。

中国株情報部

島野 敬之

出版社を経て、アジアの経済・政治情報の配信会社に勤務。約10年にわたりアジア各国に駐在。 中国株二季報の編集のほか、個別銘柄のレポート執筆を担当する

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