サマーストックとは夏場に業績が伸びたり、注目度が高まったりする銘柄群です。一般的にはビールや清涼飲料水、エアコン、旅行・レジャーなどを主要事業とする銘柄を指します。前編ではホテルのヒルトン・ワールドワイド・ホールディングス(HLT)、クルーズ船のカーニバル(CCL)、格安航空のサウスウエスト・エアラインズ(LUV)という旅行関連の銘柄を取り上げました。後編では清涼飲料水のキューリグ・ドクターペッパー(KDP)とビールのモルソン・クアーズ(TAP)をご紹介します。
キューリグ・ドクターペッパー、清涼飲料水とコーヒーが主力
キューリグ・ドクターペッパーは米国を代表する飲料メーカーの1社です。2018年にキューリグ・グリーン・マウンテンとドクターペッパー・スナップル・グループが合併し、誕生しました。
主力事業は飲料の生産・販売とコーヒーの販売です。飲料ブランドは炭酸飲料の「ドクターペッパー」、「セブンアップ」、ジンジャーエールの「カナダドライ」、果汁飲料の「スナップル」、エナジードリンクの「ゴースト」などを展開しています。
このうち「セブンアップ」は米国限定で、米国外はペプシコ(PEP)が販売しています。また、「ゴースト」は2024年に買収し、新たにラインナップに加えました。このほかではフランスのダノンとの提携に基づき、ミネラルウオーターの「エビアン」を米国で販売しています。
セグメント別では米国飲料部門が中核で、2024年12月期決算の売上高は前年比6%増の93億3100万ドル、営業利益が24%減の18億7800万ドルです。全体に占める割合はそれぞれ61%、54%です。
米国コーヒー事業では家庭用コーヒーメーカーとコーヒー豆をセットで販売しています。「キューリグ」ブランドのコーヒーメーカーがあれば、専用のカプセルに入ったコーヒー豆をセットするだけで自宅でコーヒーショップのコーヒーを楽しめるという仕組みです。もちろん一度、コーヒーメーカーを買えば、あとはコーヒー豆カプセルを購入すればいいわけです。
コーヒー豆カプセルは自社ブランドの「グリーン・マウンテン」に加え、スターバックス(SBUX)やダンキン、ピーツコーヒーなどのコーヒーショップとの提携に基づき製造しています。米国コーヒー事業は2024年12月期決算の売上高が前年比3%減の39億6700万ドル、営業利益が7%減の10億7900万ドルです。全体に占める割合はそれぞれ26%、35%です。
モルソン・クアーズ、ドイツ系移民のビール醸造所が源流
ドイツはビール王国として知られ、ドイツ人が世界のビール産業に及ぼした影響はかなり大きいようです。例えば中国で有名なビールブランドといえば「青島ビール」ですが、青島は戦前、ドイツの租借地でした。現在の青島ビールの前身は1903年に創業した「ゲルマンビール青島」。ドイツ人がビール作りの技術を持ち込んだのです。
米国では有名ブランドとしてまず名前が挙がるのはバドワイザーかもしれません。創業者はドイツ移民のアドルフ・ブッシュで、義父のビール会社を「アンハイザー・ブッシュ」に変更し、大きく成長させました。
モルソン・クアーズもドイツ系移民の手によって作られたビール醸造所が源流といえます。同社のウェブサイトをのぞくと、創業者として紹介されているのが英国系移民のジョン・モルソン、ドイツ系移民のフレデリック・ミラー、そして同じくドイツ系移民のアドルフ・クアーズの3氏です。
3人がビール事業に乗り出した時期や場所は異なりますが、それぞれの事業が成長し、合従連衡の末に現在のモルソン・クアーズが形作られています。3人の名前である「モルソン」「ミラー」「クアーズ」はいまも主力商品のブランド名として残されています。
特に「ミラー」「クアーズ」の知名度が高いようです。「ミラー」は英SABミラーのブランドでしたが、2008年にモルソン・クアーズと米国で合弁に乗り出し、ミラークアーズとして事業を始めました。
事業面の転機はアンハイザー・ブッシュ・インベブがSABミラーを買収した2016年です。モルソン・クアーズは、ミラークアーズの未保有株を買い取り、「ミラー」も傘下に収めたのです。
現在の主力ブランドは北米で人気が高い「クアーズ・ライト」「ミラー・ライト」「モルソン・カナディアン」、英国のラガービール「カーリング」、クロアチアの人気ビール「オジュイスコ」などです。
2024年12月期の地域別業績では米州の売上高が前年比2%減の92億4000万ドル、税引き前利益が3%減の15億2300万ドルです。
その他地域は「カーリング」ブランドを抱える英国事業をはじめ、欧州ではブルガリアやクロアチア、チェコ、ハンガリーなどの中欧や東欧、そして中東とアジア太平洋で構成されます。2024年12月期の売上高は5%増の24億1100万ドル、税引き前利益が1億4500万ドル(前年は4100万ドルの税引き前損失)でした。
業績面では売上高の縮小傾向が懸案で、2025年1-3月期には純利益も大幅に減少し、株価も下落基調が続いています。ただ、サマーストックだけに例年は4-6月期と7-9月期に業績が拡大しており、市場予想では今年も同様の流れになりそうです。