2023年、日経平均株価は3万2000円台で大納会に向けたラストスパートに入りました。日経平均が実経済を反映していない、格差は拡大しているとの指摘はありますが、数字上は株高であることに異論は少ないでしょう。株価速報を見ながら、FP(ファイナンシャルプランナー)として駆け出しのときに、兜町の慣習として聞いたある話を思い出します。
年末にフグの消費が増えたら次年の景気は良い?
日本の金融街の代表といえば、東京都中央区にある兜町・茅場町一帯です。東京証券取引所もここに開設されています。兜町の慣習とは、冬場の忘年会や新年会の時期になると、この界隈でフグ料理が消費されることです。
フグといえば高級魚の代表格です。同僚や友人との懇親の場よりも、接待や会食で活用される印象が強いです。つまり、フグ料理が兜町の年末を彩れば、それだけビジネスが動いている、とりわけ翌年への「仕込み」が動いているということがいえます。
2010年代中盤からフグは高騰が続く
フグの市場価値も高騰しています。2023年2月の日本経済新聞によると、冬場の鍋物に活用されるトラフグの卸値は前年の3割増しです。この傾向は2010年代中盤から続き、市場においてフグの流通量は減少傾向にあります。景気動向とは別にフグの高級化が進むなか、興味深いのはインターネットによる証券取引の隆盛です。
ネット銀行の隆盛によって「フグ指数」から変わるものは?
2024年からNISA新制度がはじまります。個人投資家が盛り上がっている一方で、地場の証券会社界隈やIFAはそれほど恩恵を受けていないのでは?という指摘があります。そこには2つ理由が考えられます。
1つは既存の証券会社のメイン顧客が、NISAの利用者とは重複しない点です。具体的な数値は割愛しますが、証券会社やIFAの手数料は取り扱う証券額によって変わります。誤解を恐れずにいえば、現行のNISAで主軸となっている年数十万円から数百万円の投資は、これまで証券会社がターゲットとしていたものではありません。インターネット証券による手軽さや、国による貯蓄から投資への方針転換が後押しとなり、あらたな投資層として生まれた印象があります。
もうひとつはこれらの投資家に見られる、自発的な投資熱の高さです。証券会社やIFAに対して具体的な銘柄(単元株も投資信託いずれも)を委託するよりも、自分たちで投資銘柄の価格推移や想定リスク・リターンを調べ、ネット証券を活用して売買指示を出します。
一時期、世界の投資隆盛を決める要素として「ミセス・ワタナベ」という言葉が注目されました。当然この言葉が意味するのはワタナベさんという投資家でも既婚の女性(ミセス)でもなく、資産運用が苦手と見られてきた日本人の個人投資家の新たな姿です。まったくゼロではありませんがフグ接待の原資となるものではなく、よってフグ指数に反映されることはありません。日本における投資習慣の、あらたな潮流といえるでしょう。
NISA新制度の「満額投資勢」に注目
ではフグ指数に変わるものは何か。接待における消費ではないですが、筆者が関係あると考えるのが本記事でも取り上げた、2024年に新制度に転換するNISA新制度です。厳密には名称が変わりますが、これまで年間120万円の一般投資枠と同40万円のつみたて枠を上限とし、両者の併用不可だったものが併用可能の成長枠(上限240万円)、つみたて枠(120万円)に変わります。
現場の声を聞いていると、これまで現行NISAで蓄積した投資金をいったん解除して、NISA新制度に満額投資するという声が意外にも多いことに気がつきます。NISA新制度には生涯投資枠といって、一度購入した銘柄を売買すると購入枠がリセットされる仕組みが導入されます(別途生涯を通じた購入上限枠が設定)。これらのメリットを享受するため、現行のNISAをいったん解約するという動きです。
ネット証券ひとつとっても、この層の取り込み具合は各証券会社によって大きく異なります。いまだにUIやUXが前時代的で、デジタルに慣れた世代からは違和感を感じる証券会社もあれば、ユーザービリティを磨きに磨いて、デジタルに慣れていなくてもすぐに証券運用をはじめられる証券会社もあります。SBI証券、楽天証券、マネックス証券などのネット新興勢、新世代の取り組みに注力している松井証券などは、NISA新制度の本格稼働を受けて更に取扱高を大きく伸ばしていくことでしょう。
フグ取扱いに変わる指標として、NISA新制度の取り込みに証券会社各社の差が生まれる頃には、先行した証券会社は新ミセス・ワタナベの利用する証券会社として、確固たる立ち位置を築き終えているのかもしれません。