今回解説していく通貨はハンガリーフォリント円(HUFJPY)です。ハンガリーは政治的には欧州連合(EU)に加盟しているものの、通貨「ユーロ」は導入しておらず、通貨は「ハンガリーフォリント」です。現在の政策金利は6.50%と近隣の欧州諸国と比較すると相対的に高水準にあり、外国為替証拠金取引(FX)におけるスワップポイントも高いため、近年は個人投資家からも人気のある通貨となっています。
では、スワップポイント投資先として長期的にも問題はないのか、チャート上でハンガリーフォリント円の状況を確認していきましょう。
2025年現在のハンガリーフォリント円の相場 1年近く続いたレジスタンスを上方向にブレイク
ハンガリーフォリント円は2024年の8月以降、0.41円台がレジスタンス水準として意識される状況が1年近く続いていたものの、2025年の6月下旬にはついに同水準を上抜け。これまでのレジスタンス帯を上方向にブレイクしたことで、足もとでは4月からの上昇トレンドが加速している状況にあります。
今後のハンガリーフォリント円の相場焦点 米欧間の貿易交渉に注意、中銀はインフレ警戒姿勢
ハンガリーフォリント円相場ですが、今後の材料としては欧州連合(EU)と米国の貿易交渉の行方が注目されます。ハンガリーの主要な貿易相手国はドイツで貿易全体の約70%がEU圏の国々となっており、欧州圏の景気低迷の影響が大きく、現在行われているEUと米国の貿易交渉が不調に終わった場合は先行き懸念が広がることになるでしょう。
EU側は現在、多くの輸出品に対する10%の一律関税を受け入れる用意があるとする一方、医薬品や半導体などの重要分野については米国側の譲歩を求めているという話が伝わっています。
米相互関税の上乗せ分の猶予期限である7月9日が間近に迫る中で今後も交渉が続くことになりますが、交渉が決裂して米国がEU製品のほぼすべてに50%の関税を課した場合、EU側も報復措置を行使する可能性が高く、そうなればEU圏の景気減速懸念もさらに広がることになるでしょう。
前述したようにEU加盟国であるハンガリーもその影響を受けるほか、世界的な景気後退への思惑が市場全般のリスク回避ムードにつながり、エマージング通貨であるハンガリーフォリントも売りに押されやすくなる可能性がありそうです。
また、ハンガリー国立銀行(中央銀行)の金融政策についても注意してみておきましょう。ハンガリー中銀は2023年10月から2024年9月まで断続的に利下げを実施。この間に政策金利は13.00%から6.50%まで引き下げられましたが、その後は金利据え置きを続けています。
この間の消費者物価指数(CPI)を確認すると、2023年1月に前年比25%台でピークを打った後、2024年9月には3.0%まで急激にインフレ鈍化が進行。一時はハンガリー中銀のインフレ目標(3.0%±1.0%)の中央値まで収まりました。ただ、足もとではインフレ再加速の兆しが見られており、2025年2月には5.6%まで上昇。直近(2025年5月)では4.4%と依然として中銀のインフレ目標上限を上回って推移しています。
再びインフレ鈍化が進んだ場合は中銀が利下げへと動く可能性もありそうですが、中銀は直近(6月24日)の金融政策決定会合時の声明でインフレ警戒姿勢を維持しました。インフレ見通しによると2025年の平均インフレ率は4.7%、2026年に3.7%、中央値の3.0%に落ち着く時期は2027年としており、市場では利下げ再開時期は早くても2026年以降と予想しています。
ハンガリーフォリント円の週足分析 2022年からは上昇トレンド、足もとでは買いが加速
下図のチャートはハンガリーフォリント円の週足チャートになります。現在は2022年3月安値を起点とする上昇トレンド(チャート上の青色実線)が続いているようです。昨年末にはトレンドラインを下抜けるピンチを迎える場面も見られましたが、これを回避すると前述したように足もとでは買い戻しが加速しています。
今後の上値目処については2024年5月と7月に上値を抑えられた0.44円台(チャート上の四角で囲った部分)が重要なポイントとなりそうです。
なお、チャート下部に追加した「DMI」で確認すると+DI>-DIとなっており、こちらでも現在が上昇トレンドであることを示唆。トレンドの強さを示すADXも昨年末から低下基調にありましたが、足もとでは再び上昇してあり、上昇トレンドが強まりつつあることを示しています。
ハンガリーフォリント円の月足分析 2009年からの下落基調は転換したか
今度はより長期的な視点でハンガリーフォリント円の流れを確認していきましょう。下図は月足チャート、チャート上の青色実線は週足分析で紹介したものと同じです。
長期的には2009年10月からの穏やかな下落基調(チャート上の黄色実線)といった印象でしょうか。ただ、それまでの徐々に上値を切り下げる構図は2022年を境に変化しており、2024年に上値を試した場面では2018年につけた直近高値をわずかながら上抜けています。
トレンドの転換を迎えた可能性も否定はできず、週足分析で紹介した上値目処(0.44円台)を上抜けると、2013年から2014年にかけて上値を抑えた0.49円台(チャート上の四角で囲った部分)まで一段と上値余地が拡大する可能性もありそうです。
なお、月足ベースの「DMI」でも+DI>-DI(上昇トレンド)に転換したことを示唆。トレンドの強さを示すADXが低下基調にある点は気になるところですが、地合いの改善がうかがえます。
今後の取引材料・変動要因をチェック 米国との貿易・関税に関する中銀の見解に注目
最後に今後1カ月間の重要イベントも確認しておきます。注目は日本およびハンガリーの金融政策。日銀については追加利上げ観測が後退しており、ハンガリー国立銀行(中央銀行)も政策金利を据え置く見込みで、日・ハンガリー間の金利差はしばらく維持されるでしょう。
また、両中銀ともにトランプ関税によって不確実性が高まっていることに懸念を示しているため、米相互関税の猶予期限を迎えた後の会合では、米国との貿易・関税についての新たな言及にも注目しておきたいところです。
その他のイベントは以下の通りとなります。
今後1カ月の重要イベント
7月8日 ハンガリー 6月消費者物価指数(CPI)
7月9日 米国 相互関税の上乗せ部分の猶予期限
7月18日 日本 6月全国CPI
7月22日 ハンガリー ハンガリー国立銀行(中央銀行)、金融政策公表
7月30-31日 日本 日銀金融政策決定会合