米銀Q4決算は収益力低下を示唆―Fedが緩和策に転換する一因に?

2023年Q4の純金利収入はJPMが好調、2024年の増加も見込む


2023年10~12月(Q4)の決算発表シーズンが、今回も米銀で幕開けしました。米銀の結果は、強弱まちまちに。純利益は、2023年3月に発生したシリコンバレー銀行やシグネチャー銀行などの破綻を受け、米連邦預金保険公社(FDIC)への基金の補充費用が計上されたほか、規則変更に関わる費用、さらに再編コストが計上され、減益あるいは赤字を迎えました。


強弱まちまちとなった結果の一因は、銀行の収入(売上高に相当)の約6割を占め、屋台骨である純金利収入の動向が挙げられます。純金利収入は預金金利などに支払う金利と貸出金利の差ですが、米銀大手4行、J.P.モルガン(JPM)、バンク・オブ・アメリカ(BofA)、シティグループ、ウェルズ・ファーゴ(ウェルズF)を振り返ると、JPMとシティは2023年Q4で増収を果たした半面、BofAとウェルズ・ファーゴは減収となりました。


チャート:米銀大手4行の純金利収入、過去4四半期の推移


特に、JPMの純金利収入は、前年同期比19%増と4行の中で唯一2桁増を記録しただけでなく、7四半期連続で最高を更新。同行は、2024年の純金利見通しも約900億ドルとなる可能性を指摘、アナリスト予想の前年比2%減に反し0.8%増を予想しています。


JPMの純金利収入が堅調な理由は、預金と融資の好循環が挙げられます。Q4の預金と融資の残高がともに増加したのは、米銀大手4行のうちJPMのみ。融資では4行のうち3行増加していたなかで、JPMが同17%増と好調です。


JPMの勝因は、2023年5月に破綻が取り沙汰されたファースト・リパブリック銀行を買収した効果で、純金利収入が押し上げられ、一人勝ちとして存在感を放ちます。

なお、決算発表後にJPMの株価は下落しましたが、年明け早々に上場来高値を更新していたため、利益確定の売りが入ったとされています。


クレジットカードと商業不動産ローンの不良債権増加、収益圧迫も


シティグループが年内2万人の人員削減を発表するように、再編が主因で業績が落ち込んだ銀行もあります。その一方で、米金利上昇や米景気減速を受けて、不良債権が増加し米銀の収益を圧迫しつつある点は気掛かりです。特に、クレジッドカードと商業不動産ローンが痛手となっています。


JPMとBofA、ウェルズFの決算資料で明らかになったクレジットカードの貸倒償却率(貸倒した融資に占める損失計上の割合)は、そろって上昇しました。特JPMは2.79%、BofAは3.07%、ウェルズFで4.02%となっています。そのうち、BofAとウェルズFはコロナ禍での経済活動停止に見舞われた2020年Q2(BofA:3.1%、ウェルズF:3.81%)の水準を超えてきました。


また、商業不動産ローンの不良債権額をみると、決算資料で公表しているBofAはQ4に前年比7倍増の13.4億ドル、ウェルズFは同4倍増の38.6億ドル。それぞれ、商業不動産ローン全体の2.6%、2.8%に相当します。なお、あくまで参考として紹介しますが、2008年9月のリーマン・ショック発生前、サブプライム住宅ローンのうち、約4分の1が未払いあるいは差し押さえの状態でした。


米銀全体の90日以上未払いの不良債権額をみると、2023年Q3は682億ドルと、2021年Q3以来の高水準でした。コロナ禍直後の846億ドルを下回りますが、わずか1年で543億ドルから約140億ドル増加しており、米景気次第では年内にコロナ禍超えもありそうです。


チャート:米銀、90日以上未払いの不良債権額


 


米銀行ターム・ファンディング・プログラムは終了予定も、保有資産圧縮ペースは鈍化へ?


米銀への逆風が吹きつけるなか、バーFRB議長は1月10日、2023年3月に銀行破綻を受けて設立した「銀行ターム・ファンディング・プログラム(BTFP)」を期限通り3月11日で終了させる意向を示しました。BTFPとは、資金繰りに窮した銀行や信用組合など預金取り扱い機関が差し出す適格担保を、米利上げによる米債利回り上昇で下落した時価ではなく額面で評価し貸し出す仕組みです。終了させる理由として、米銀によるBTFPの乱用が考えられます。


BTFPの貸出金利は1年物のオーバーナイト・インデックス・スワップ(OIS)に0.1%上乗せした水準のところ、米利下げ期待が高まった2023年11月以降、金利低下を追い風に貸出金利は5%割れを迎え、窓口貸出の金利5.5%を下回ります。加えて、BTFPを通じた借り入れた資金を準備預金に移すと、5.4%の超過準備の不利が得られ、銀行にとって裁定取引のインセンティブが働くのです。


こうした事情を反映し、BTFPの借入残高は1月17日週時点では1,615億ドルと、過去最大を更新。Fedは制度の乱用及びモラルハザードを警戒しているのでしょう。


チャート:BTFPを通じた借入残高は急増中 


BTFPの終了は、預金減少と流動性不足リスクに直面する銀行にとっては悪材料です。しかし、FRBはセーフティ・ネットの用意も忘れません。23年12月のFOMC議事要旨で保有資産の圧縮ペースの減速・停止に関する議論が確認されました。ダラス連銀総裁も1月6日に、保有証券のランオフ(償還に伴う米国債保有高の減少)について議論すべきと発言しています。


つまり、Fedは米金利上昇による金融引き締めを回避したいのでしょう。米金利上昇は米景気を下押しするだけでなく、不良債権額の増加にもつながりかねず。3月19-20日開催のFOMCでは利下げを開始せずとも、Fedは銀行の動向をにらみつつ、保有資産の圧縮ペース減速など緩和策に着手する可能性に留意すべきでしょう。


ストリート・インサイツ

金融記者やシンクタンクのアナリストとしての経験を生かし、政治経済を軸に米国動向をウォッチ。NHKや日経CNBCなどの TV 番組に出演歴があるほか、複数のメディアでコラムを執筆中。

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