言葉からひも解くマーケット

第156回「野田政権」連立シナリオにも備えるべき

石破首相は参院選大敗後も政権維持の可能性を模索しているが、立憲民主党・野田佳彦氏を擁立した「野田政権」シナリオがマーケットへ与える影響にも留意しておくべきかもしれない。消費税減税撤回や財政健全化路線への転換が、株式市場を中心にマーケットを下支えすることになるか。

 

「野田政権」負け組同士の連立で実現する可能性も

 

参院選挙での自民・公明による与党大敗の後を受け、石破首相は続投の意向を示し、政権維持の道を模索している。ただ、明確な政権構想を欠くなかキャスティングボードを握る野党の一角・立憲民主党の野田佳彦党首が首相に擁立される事態となった場合のマーケットシナリオにも留意しておくべきかもしれない。

 

参院選で躍進が目立った野党は国民民主党や参政党だが、政策の相違点などに関する調整へ対応しつつ連立を組むには、現時点では党として体力不足と評されているようだ。矛盾点を抱えたまま無理やり協調することは、むしろ党の体制を崩すことになってしまうと考えられている。

 

そこで野党第1党の地位をどうにか確保しつつも政党別比例4位に沈んだ立憲民主党と自公、いってみれば負け組同士の連立の可能性も浮上している。実現性は不確かだが、「野田政権」成立となった場合のマーケットシナリオも念頭に置いて臨むべきだろう。

 

 

実現しなかった自公大敗によるトリプル安シナリオ

 

選挙前から自公の敗北を想定したトリプル安(株安・債券安・円安)シナリオが囃し立てられていたが、株価についてはトランプ関税関連の交渉進展などを期待した上振れや、その後の米株安などを受けた調整を経つつも、一定の底堅さを維持している。少なくとも参院選前の様子見ムードの中で推移していた水準と比較して、底割れになるような状態にはなっていない(図表1)。

 

 

 

債券に関しては、やはりトランプ関税交渉の進展期待や、一時強まった石破政権後への期待感が売り(金利上昇)を促したものの、その後は参院選後の金利上昇分がほぼ帳消しになるなど、債券安シナリオが実現しているといえない。

 

為替は、株価上昇にともなう円安が先行後、先週末の弱い非農業部門雇用者数の数字を受けた米雇用統計ショックでドル安・円高方向へ揺り戻されるなど振れているが(図表2)、トリプル安シナリオのような事態にはなっていない。メディア主導のような形であおられていたトリプル安シナリオからは冷静に距離を置いて臨むべきだったといえる。

 

 

 

「野田政権」なら株式中心にマーケット下支えされるか

 

仮に立憲民主党が連立に加わったり、野田佳彦氏が首相として擁立されたりするような展開となった場合、「消費税減税の撤回や、財政健全化路線への転換が進むことも想定できる」(ヘッジファンド・ストラテジスト)という。債券市場は積極的な財政政策や景気対策を売り要因と捉える可能性はあるものの、株式市場はこれらの刺激策を好材料と受け止める可能性がある。

 

為替市場では株高となればリスク選好の円売りが進むことも考えられるが、政権交代への動きを不安視した日本売りによる「悪い円安」といった、トリプル安シナリオの一端を担うような円売り要因とは一線を画すだろう。これまで積み上げてきたデフレ脱却の取り組みはいったん後退することになるため日銀が利上げしにくくなる点も、円買い抑制要因になると考えられる。

 

トランプ関税による企業収益圧迫や、高インフレが米景気を抑制して日本を含む他国へ景気減速が伝播するリスクもあるためバラ色の展開とはならないかもしれない。しかし「野田政権」によるリフレ的な政策により、株式市場を中心マーケットが下支えされる流れは想定しておいてもよさそうだ。

この連載の一覧
第156回「野田政権」連立シナリオにも備えるべき
第155回「関税リスク顕在化」今後の悪影響に備える必要
第153回「加35%関税」でリスク回避
第152回「RBA予想外の金利据え置き」豪ドル底堅いか
第151回「米加貿易交渉進展」本邦へ好影響波及しにくい
第150回「FRB議長候補の忖度」もドル安要因?安値叩くリスクあり
第149回「TACO」朝令暮改・朝令朝改を軽視、ただし関税リスクに留意
第148回「英利下げ余地」不安定になってきたポンド
第147回「ECB中立金利水準」下回るまで利下げ進むか
第146回「EU 50%関税発動・延期」朝令暮改のトランプ政権
第145回「米国債格下げ」米金利上昇もドル買えない
第144回「株買い推奨」トランプ大統領の政策変転示唆?
第143回「反トランプ」加与党を後押し、豪総選挙は?
第142回「関税ショック」大きく進んだマイナスに巻き戻し入っても安定しにくい
第141回「流動性低下・枯渇」振れやすく為替は荒く上下
第140回「ドル離れ」トランプ関税で加速
第139回「トランプ●●」下の句でドタバタ
第138回「トルコショック2.0」揺り戻しあっても不安払しょくできず
第137回「第2プラザ合意」実現困難も、個別交渉が急激な為替変動を誘うリスクに注意
第136回「春闘賃上げ」も3月会合の利上げは肩透かし?
第135回「ドイツ財政拡張」悪い金利上昇が重しになるリスクも
第134回「ドイツ総選挙」成長を目指す政権の姿が見えれば為替安定へ
第133回「OCR」引き下げもNZドル底堅い、継続性は?
第132回「鉄鋼関税」や「相互関税」、「米投資拡大」でドル高・円安方向へ巻き戻し
第131回「トランプ関税」アメリカが仕掛けるディール、中国の逆ディール余力にも注意
第130回「ディープシーク・ショック」長続きしない中国ネタと異なる展開警戒も
第129回「大統領令」による米輸入関税いったん見送りもやがて発令へ、荒っぽく振れるか
第128回「英債券安」金利上昇もポンド買いにつながらず
第127回「豪物価の落ち着き」ハト派の思惑を高める
第125回「植田ショック予防線」が生むミスコミュニケーション
第124回「中国景気支援策」再び、リスク選好の継続性は?
第123回「オントラック」日銀判断にらみマーケット上下
第122回「Xリスク再発」為替・日本株はトランプトレード巻き戻し
第121回「新政権の介入能力」日銀利上げとパッケージで効果発揮か
第120回「対中関税」米新政権の引き上げで金融市場圧迫
第119回「トランプトレードの賞味期限」財政悪化を焦点とした反動リスクも
第118回「与党過半数割れ」金融政策の舵取り困難に
第117回「日米新政権の親和性」に不安、金融混乱を懸念
第116回「英利下げ観測」の意識が強まりポンド安に
第115回「政治ショック」前言撤回で株安・円高再燃も
第114回「中国景気支援策」でリスク選好、国慶節連休明け以降も続くか注視
第113回「揺らぐ日銀」与党の責任ない場当たり的な圧力が市場を乱す
第112回「米大統領選挙・テレビ討論会」民主優位に沿うドル安先行、共和勝利ならドル高も不安定か
第111回「サームルール」米利下げ意識を高める
第110回「デュアルマンデート」FRBインフレから雇用へシフト
第109回「豪CPI」予想を上回るも伸び鈍化、豪ドル買い続きにくいか
第108回「日米中銀トップ発言」がマーケット左右
第107回「IMM円ショート取り崩し」一巡、動き落ち着くか?
第106回「ハト派←→タカ派転身」日銀高官発言で乱高下
第105回「金利引き上げペース」日銀、次回利上げ10月か
第104回「トランプトレード」に巻き戻し、次期米政権下でドル重いか
第103回「日銀当座預金見通し」で介入動向推察
第102回「仏左派躍進」サプライズの決戦投票結果
第101回「英政局への期待」ユーロ圏とのコントラストでユーロ安・ポンド高か
第100回「監視リスト」入りで介入しにくくなった?
第98回「欧州政局不安」極右台頭がユーロを不安定に
第97回「メキシコ初の女性大統領」新政権下のマーケット・為替は不安定か
第96回「終幕は視野」日銀デフレ・ゼロ金利との闘い
第95回「2%到達の確信」有無が米金利・ドルの行方左右
第94回「イエレン発言」で釘刺され円買い介入しづらい
第93回「介入余力」残り7-8回分、介入以外の円安抑制措置が必要
第92回「日米韓共同声明」為替介入の可能性は?
第91回「なんちゃって介入」挟みつつドル高・円安の流れ追う展開
第90回「RBNZ vs マーケット」利下げ時期を探るNZドル
第89回「粘着性」しつこいインフレ、底堅い他指標の合わせ技でドル堅調か
第88回「為替介入実績」区切りの28日以降の動き注視
第87回「噂で買って事実で売る」 地で行った円相場  日銀 異次元緩和の転換局面
第85回「もしトラ」から「ほぼトラ」「確トラ」へ  トランプ氏スーパーチューズデー圧勝
第84回「日経平均株価が最高値更新」も、ドル円の上攻めもう一押し支援必要か
第83回「テクニカルリセッション」も円買い介入のため異次元緩和解除へ
第82回「日米労働市況格差」が示す円安・ドル高
第81回「FOMC投票権」メンバーのタカ・ハト変遷注視
第80回「IMF世界経済見通し」ドル>ユーロ>円 示唆か
第79回「フィボナッチ61.8%水準」で底堅さ示すドル円
第78回「Xリスク」トランプ復活が歪なマーケット急襲
第77回「地震の影響」「『異次元』解除」見極めつつ、足もとの「米CPI・PPI」も注目
第76回「利下げ議論」したFRB/しないECB差異でドル・ユーロに明暗
第75回「チャレンジングな状況」肩透かし、日銀マイナス金利解除を急がず?
第74回「チャレンジングな状況」日銀マイナス金利解除を後押しか
第73回「HICP」鈍化、ECB目標達成の前倒しも
第72回「コスト構造の変化」ユーロ圏経済を圧迫
第71回「引き締め効果」金利低下で後退、米政策金利は高止まりか
第70回「制約的スタンス」達成可否に注目
第69回「原油安」豪ドルなど資源国通貨は重い動きに
第68回「第1の力」→「第2の力」バトンタッチ確認できない日銀、円安も止まらず
第67回「悪い金利上昇」米長期金利5%、高位も安定欠きドル円は重いまま
第66回「リスクセンチメント悪化」NZドル圧迫、政権交代後への期待も支えとならず
第65回「中東リスク」日米休場マーケット急襲、複雑で問題長期化へ
第64回「JOLTS好結果」→「米金利上昇/ドル高・円安」vs『覆面介入?』に続く、三つ巴「米雇用統計」×「米金利・為替動向」×『介入有無』注視
第63回「原油高」1.5倍のドル買い・円売りインパクト
第62回「BOE利上げ打ち止め観測」→ECBの動向も影響
第61回「RBA(豪準備銀行)悪手」打つリスク
第60回「ファンダメンタルズから乖離」と主張しにくい円安
第59回「ジャクソンホール・キーワード」日米金融政策格差
第58回「前年度効果」はく落の影響が不透明、ジャクソンホールのインフレ終息宣言は難しいか
第57回「アメリカ経済ソフトランディング期待」も当局とマーケットの金利観ギャップではく落か
第56回「フィッチ・ショック」はショック?
第55回「サプライズ必至」だった日銀YCC修正を7月会合で決定も為替は円安、日銀緩和継続観測による円安続くか
第54回「サプライズ必至」の日銀YCC修正、7月は回避?
第53回「7月FOMC以降の追加利上げ」の有無を見据えて動き出すマーケット
第52回「米利上げ軌道維持」も単月の景気・インフレ指標に振らされマーケット不安定
第51回「元安」当局下支えも下落リスク継続 連れて円安加速も
第50回「行き過ぎた動きには適切に対応」円安への対処 口先から実弾へ移行するか
第49回「FEDピボット」と個別要因の複合判断が必須
第48回「3者会合ライン」140.93円 仕掛けたい投機筋
第47回「インフレ期待低下」ECB政策・ユーロ相場は神経質な局面
第46回「米利上げスキップ」の有無
第45回「フリーダム・コーカス」共和党強硬派が米債務上限交渉をかく乱
第44回「Xデー」前に米与野党にらみ合い
第43回「KBW地方銀行株指数」が鳴らす警鐘
第42回「新日銀総裁・初会合」改めて緩和継続を示唆し株高・円安か
第41回「米景気先行指数」で米株高なら日本株に好影響
第40回「YCC・マイナス金利継続」日銀・出口まだ、為替は米金融政策との兼ね合いもありCPIに注意
第39回「JOLTS」米雇用統計へ準ずる注目指標に
第38回「VIX」恐怖指数で金融不安のマーケットへの影響を判断
第37回「欧・米金融政策格差」ユーロ底堅いか
第36回「米銀破綻」金融政策への影響予想どっちつかずで不透明
第35回「FRB高官発言」欲望と恐怖の往復ビンタ
第34回「米利上げ長期化観測」根拠となった米経済指標の行方注視
第33回「FOMC投票メンバー」強いデータでタカ派へ傾斜
【言葉からひも解くマーケット】第32回「日銀新人事」確定目前、巻き戻しの円安
【言葉からひも解くマーケット】第31回「ECBタカ派姿勢」に揺らぎ
【言葉からひも解くマーケット】第30回「政府・日銀の共同声明」見直し、大幅な緩和後退とは限らず
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【言葉からひも解くマーケット】第1回「中立金利」

為替情報部 アナリスト

関口 宗己

1987年商品取引会社に入社、市場業務を担当。1996年、シカゴにて商品投資顧問(CTA)のライセンスを取得。 市況サービス担当を経て、1999年より外国為替証拠金取引に携わり、為替ブローキングやIMM(国際通貨先物)市場での取引を経験した。 その後、外国為替証拠金取引会社で市況サービスを担当した後、2006年2月にマネーアンドマネー(現・DZHフィナンシャルリサーチ)記者となる。日本テクニカルアナリスト協会検定会員(CTMA2)。日本ファイナンシャルプランナー協会AFP。 その他、社会科教員免許、特許管理士、ボイラー技師、宅地建物取引主任試験合格証などを所持。趣味では2級小型船舶免許、オープンウォーター・スキューバダイビング免許を取得している。

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