【米国株インサイト】ECセクター(前編):ガリバーを悩ませる越境EC

アマゾン・ドットコム、Eコマース業界のガリバー

アマゾン・ドットコム(AMZN)は言わずと知れたEコマース業界のガリバーで、米国での市場シェアは他を寄せ付けません。もちろん日本や欧州でも存在感が大きく、もはや生活インフラの一部といえそうです。


ただ、最近ではそんなガリバーを悩ませる事態が世界各地で起きています。それが中国系の越境ECの台頭です。中国での生産能力とサプライチェーンを武器に格安製品に強みを持つ「Temu」や多様なファストファッション製品を提供する「SHEIN」などが存在感を高めています。



報道によると、アマゾンよりもTemuの利用者数が多いという国が増えているようです。米国や日本ではアマゾンの利用者が多いのですが、欧州ではTemuが優勢です。


こうした中国系越境ECの台頭にアマゾンは対抗策を講じており、その一つが日用品の販売の強化です。洗濯洗剤など生活に不可欠な製品を重点的に販売し、アマゾンで購入する頻度を引き上げると同時に購入総額を増やすのが狙いです。単価の低下につながりますが、越境ECの弱みである「時間的な制約下での機動的な対応」を逆手に取り、拡販を目指します。


越境ECの台頭という懸案を抱えているにもかかわらず、アマゾンの業績は好調で、2024年10-12月期決算は売上高が前年同期比10%増の1877億9200万ドル、純利益が88%増の200億400万ドルでした。



特に生成人工知能(AI)関連の需要が大きく伸びたことで、クラウドサービスが急成長し、AWS(アマゾンウェブサービス)部門の営業利益が48%増の106億3200万ドルに達しています。オンラインストア部門は売上高が7%増の755億5600万ドルで、2024年7-9月期の増収率である7%と同水準の伸びでした。


ショッピファイ、ストア開設・運営のプラットフォーム提供

ショッピファイ(SHOP)は電子商取引(EC)プラットフォームを開発しています。オンラインストアの開設と運営に必要な機能一式をサブスクリプション方式でストアのオーナーや運営者に提供し、収入を得るビジネスモデルです。


ウェブやスマホの画面を通じてネットショップの利用者が目にするフロントエンド業務では、商品の表示や管理、販売などに必要なソフトウエアを提供します。裏方業務に当たるバックエンドでは、商品の在庫、注文の処理、決済、配送の手配、新たなバイヤーの発掘、顧客管理、商品の調達、分析、資金調達などを一元的に管理するソフトウエアを通じ、一連の機能を使えるようにしています。



もちろんカスタマイズも可能で、オンラインストアのオーナーはショッピファイと提携するスペシャリストや専門業者に依頼し、デザインや機能を改良することもできるのです。


ショッピファイを創業したのはドイツ生まれのトビアス・リュトケ氏で、結婚を機にカナダに移住し、2004年にスノーボード製品のオンラインストアを立ち上げました。自身のプログラミングスキルを生かしてプラットフォームを開発してストアの開店にこぎ着けましたが、評判になったのはスノーボード製品のストアではなく、プラットフォームのほうでした。


リュトケ氏はオンラインストア用のプラットフォーム開発に軸足を移し、ショッピファイを創業。順調に顧客を増やし、2015年にニューヨーク市場に上場しています。


ショッピファイの顧客は多様で、その数は175カ国・地域で数百万に上ります。食品のクラフト・ハインツ(KHC)や動画配信のネットフリックス(NFLX)など大手企業が利用するケースもありますが、小規模事業者が多いとみられます。こうした事業者はEC市場で圧倒的な影響力を持つアマゾン・ドットコム(AMZN)のエコシステムに取り込まれずに自前でオンラインストアを運営することも可能です。



このためショッピファイは「アマゾンキラー」とも呼ばれていた時期もあったようです。リュトケ氏もアマゾンを意識していたようで、以前に「アマゾンは帝国を築き上げようとしている。ショッピファイは帝国への反逆者(アマゾンに取り込まれないオンラインストア)に武器を提供している」と語っています。


業績面では成長著しい新興企業の例に漏れず、売上高が大きく伸びています。前年比の業績がたどれる2013年12月期以降、2024年12月期まで12年連続で2桁超の増収を達成しています。


中国株情報部

島野 敬之

出版社を経て、アジアの経済・政治情報の配信会社に勤務。約10年にわたりアジア各国に駐在。 中国株二季報の編集のほか、個別銘柄のレポート執筆を担当する

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