ゼロコミッションを起点に総合金融アプリへ展開
ロビンフッド・マーケッツ(HOOD)は、米国の個人投資家向け金融プラットフォームです。同社は、株式取引のゼロコミッション化と使いやすいスマートフォンアプリを武器に、若年層を中心とする個人投資家を取り込んできました。現在は株式・ETFに加え、オプション、暗号資産、信用取引、現金管理、サブスクリプションサービスなどを提供しており、ゼロコミッション証券アプリを起点に、総合金融アプリへと事業領域を広げています。また、米国の子ども向け投資口座であるトランプ・アカウント(Trump Accounts)への関与も注目材料となっています。

※HOOD株価、週足チャート
※出所:TradingView
PFOFと口座内資産を収益化するビジネスモデル
ロビンフッドの収益構造の特徴は、無料取引を入口として顧客を獲得し、その取引行動や口座内資産を複数の形で収益化している点にあります。株式・ETF・オプション取引では、顧客から明示的な売買手数料を徴収しない一方、株式・オプション注文を外部のマーケットメーカーに回送し、その対価としてPFOF(Payment for Order Flow)を受け取っています。

マーケットメーカーが個人投資家の注文を評価するのは、小口で分散したリテール注文が一般に短期的な価格情報を含みにくく、情報面で優位な投資家と取引して損失を被るリスクが低いとみなされるためです。一方で、PFOFは最良執行との関係で利益相反が生じやすいという課題があります。証券会社にとっては、顧客にとって最も有利な価格で注文を執行することが求められる一方、より多くのPFOFを支払うマーケットメーカーに注文を回送する誘因も生じ得ます。そのため、顧客が明示的な売買手数料を支払っていなくても、実質的な取引コストが約定価格やスプレッドの形で見えにくくなる可能性があります。
同社の収益構造を見るうえで重要なのは、PFOFを含む取引関連収入の比重の高さです。2025年通期の総収益45億ドルのうち、取引関連収入は26億2800万ドルと約6割を占めました。その中心はオプション取引と暗号資産取引であり、同年の収益はそれぞれ11億2300万ドル、9億100万ドルでした。暗号資産取引のリベート(Transaction Rebates)は厳密にはPFOFではありませんが、顧客注文を外部の流動性提供者に回送し、その対価を受け取るという点では類似した収益構造です。つまり、同社はゼロコミッションで取引のハードルを下げ、注文フローをPFOFや取引リベートを通じて収益化するモデルを構築しているといえます。
同社は2018年にビットコイン(Bitcoin)とイーサリアム(Ethereum)の手数料無料取引を開始しており、比較的早い段階から暗号資産取引を取り込んできたプラットフォームです。暗号資産は価格変動が大きく、個人投資家の短期売買が活発化しやすいため、取引行動を収益化する同社のモデルと親和性が高い分野です。
また、顧客の未投資現金、信用取引、証券貸借、キャッシュ・スイープ(Cash Sweep)などから得られるネット金利収入も重要です。2025年通期のネット金利収入は15億1400万ドルと総収益の34%を占めました。取引関連収入に加えてネット金利収入も大きいことから、同社の収益基盤は、顧客の売買行動と口座内資産の双方に支えられているといえます。

取引商品の拡充と証券トークン化を推進
今後の成長戦略の中心は、金融スーパーアプリ化です。ロビンフッドは、株式・ETF取引を入口に顧客を獲得してきましたが、現在は投資、取引、資金管理を一つのアプリ内に集約し、サービス利用の範囲を広げようとしています。単に取扱商品を増やすのではなく、個人投資家の日常的な金融行動をアプリ内に取り込むことが狙いです。
この戦略では、取引頻度の高い商品が重要な役割を持ちます。オプションや暗号資産に加え、イベントコントラクト(予測市場関連商品)や先物などの新たな取引商品も、顧客の利用頻度を高める役割となっています。2026年1-3月期には、イベントコントラクト収入が1億400万ドルとなりました。
今後の事業拡張を見据え、証券トークン化にも取り組んでいます。ロビンフッドは2025年に欧州で米国株・ETFに連動するストック・トークン(Stock Tokens)を開始し、対象商品数を約2000本まで拡大しました。ただし、同トークンは原資産株式そのものではなく、欧州ではデリバティブ契約として提供されています。米国でもトークン化証券は既存の証券法の枠内で扱われるため、本格展開にはなお制度面の整備が必要です。現時点では、主要な収益源というよりも、事業領域拡大に向けた試行的な取り組みといえます。
顧客基盤拡大と収益変動・規制リスクが焦点
今後の焦点は、ロビンフッドが事業領域の拡大を収益成長につなげられるかです。若年層を中心とする顧客基盤を活用し、取引、資金管理、有料サービスを組み合わせることで、顧客一人当たりの収益を高める余地があります。足元では、米国の子ども向け投資口座であるトランプ・アカウント(Trump Accounts)への関与も注目されており、若年層やその家族との接点を広げる取り組みとして、中長期的な顧客基盤の拡大につながる可能性があります。
一方で、同社の収益は市場環境に左右されやすい構造です。2026年1-3月期は総収益が前年同期比15%増の10億7000万ドルとなりましたが、暗号資産収入は前年同期比47%減の1億3400万ドルとなりました。この点は、暗号資産取引の変動性が業績に影響しやすいことを示すものです。ただし、取引関連収入に加えて、ネット金利収入やサブスクリプションサービスも収益基盤を支える要因となっています。
規制リスクも重要です。PFOFはゼロコミッションを支える仕組みである一方、最良執行との関係で利益相反が生じやすく、米国で注文回送や開示、執行品質に関する規制が強化されれば、収益モデルに影響を及ぼす可能性があります。また、暗号資産、イベントコントラクト、先物、証券トークン化などの新規領域も、規制上の不確実性を抱えています。
加えて、米国で家計や資産の格差が拡大すれば、一部の個人投資家の投資余力が限られ、同社の取引量や口座内資産の伸びを抑える要因となる可能性があります。もっとも、ロビンフッドは取引商品の拡充や資金管理サービス、長期投資関連サービスを組み合わせることで、金融スーパーアプリとしての成長余地を持っています。市場環境や規制動向には注意が必要ですが、収益源の多様化と顧客接点の強化が中長期的な成長を支える可能性があります。





