紅葉の観光地が向き合う「熊の心配がない」ということの難しさ

日本全国で熊の被害が拡大しています。温暖化などを背景に木の実などの食料が減少し、空腹に耐えかねた熊が市街地に降り人間を襲う事例が急増しています。北海道出身の筆者にとって、熊は「人間を襲うことはまず無い温厚な動物」と教えられてきたものです。熊の襲来から怯える日々を過ごすなかで、2025年の紅葉シーズンが訪れ始めています。


現地の人から聞いた「本当にこっち来るの?」

先日の出来事でした。個人相談の仕事をしているなかで、オンライン面談で栃木県の日光の方と資産運用の面談をしました。私が今年の12月に栃木県の日光と中禅寺湖に旅行する予定であることを伝えると、「いや、本当に来るの?我々はどこに熊が出るかわからないなかで暮らしている」とのこと。特に日本三大名瀑である華厳の滝に向けて、遊歩道を通って行けるところに旅館を確保したことに「正直タクシーにした方がいいと思う」との指摘を受けました。全国向けのニュースではほとんど報じられることのない栃木県でさえ、この緊張感です。



人力による予防は困難

筆者も北海道で、遠目から野生の熊を見たことがあります。悠々と歩くその姿とは異なり、実際に街のなかを駆け抜ける映像を見ていると、人間よりはるかに早い速度で駆け抜けています。それもそのはず。最大速度は時速60kmから80kmとされ、高速道路をゆっくり目に走る自動車とほぼ同等の速度です。地盤の悪い山中でその速度が出ることに驚かされます。


たとえば観光地に人を配置して、観光客の人を守るような人海戦術が出来るものではありません。まして突進してくる熊に対して人間は止める術を持ちませんし、ライフルなど武器を持っていたとしても命の危険があります。


「熊は大丈夫なの?」に揺れる観光地

何よりも大きな問題は、熊が出没するような山地と接する地域はこれから、「紅葉シーズン」を迎えるという点です。1年に一度の繁忙期であり、筆者が行こうとしている栃木・日光の「いろは坂」では数百メートルの大渋滞が発生します。当然観光業をはじめとした地元の産業はかき入れ時を楽しみにしており、万全の体制を整えて観光客を迎えます。


そこに今年の熊のニュースです。実際に熊の被害が無くても「熊が出るかもしれない」という風評が懸念されます。前提として、「今年は紅葉狩りを止めよう」という判断をする人も増加することでしょう。2020年初頭の新型コロナから段階的な復活をする途中にある観光地にとって、熊によって旅行者の足が遠のくのは大きな痛手です。


対観光客ばかりではありません。田畑や病院へ行く場合も、熊が出る山地を通らざるを得ないところも多いです。紅葉の季節は農作業の収穫時期と重なります。産業への被害だけではなく、社会インフラ全体の影響が生じていると関係自治体からは悲痛な声が届いています。



参考にしたい知床五湖

可能な範囲で何ができるのか。参考にしたいのは北海道の観光名所、知床にある「知床五湖」の取り組みです。数年前に赴いた際、知床五湖は熊との共存を図るため、湿地帯の上に歩行通路を設け、そこから熊をはじめとした野生動物の生息地を眺めるという施策を取っていました。


当然、これから市街地をそのような通路で覆うことは不可能です。知床五湖に類似した観光地としても、通路を作るには一定の工期と膨大な費用が必要となるでしょう。1,2ヶ月後に迫った観光シーズンのために、そのような動きができるのは限られますが、観光客の恐怖心を減らすための「せめてもの取り組み」が必要なのも事実です。筆者はいまのところ日光行を中止する予定はありませんが、状況によっては山地に赴かない、車から出ないなどの行動制限が必要とも感じています。


また一説によれば、食料難の続く熊は「冬眠をしない可能性もある」と一部の動物学者が主張しているようです。それは被害を懸念する観光地に取って、「時間が経過すれば自然に解決するものではない」という意味を持ちます。冬を迎えても状況が変わらないようであれば、まさに根本的な回避策を取る地域も増えてくることでしょう。


冬眠をしない熊?

紅葉の名所の多くは多くの降雪が予想され、それを観光資源に変えてきた歴史があります。熊が冬眠しないとなっては敢行被害は1,2カ月の話では無く、先の見えない戦いになるでしょう。冬眠しない熊が来春になっていなくなる可能性も低いためです。


最新の動きとしては、2025年11月15日に始動し、小林鷹之政調会長が秋田県を訪問、地元の意見に耳を傾けました。自民党広報からは地域経済への影響が「新型コロナウイルスに匹敵するものがある」との訴えがあったと報じられています。まずは現在の国会で成立する見込みの補正予算を通して、最大限の対策が整備されていくことでしょう。当該地域に住む方々が、安全安心に過ごすことのできる環境整備を期待しています。


独立型ファイナンシャルプランナー

工藤 崇

株式会社FP-MYS 代表取締役 1982年北海道生まれ。相続×Fintechサービス「レタプラ」開発・運営。2022年夏より金融教育のプロダクト提供。上場企業の多数の執筆・セミナー講師の実績を有する独立型ファイナンシャルプランナー(FP)。

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