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171回 予算案控え、慌ただしい英政府

英予算案、26日に発表予定

今月の26日に英政府の秋季予算案発表を控え、英政府が慌ただしくなっているだけではなく、金融市場も神経を尖らせています。

 

与党・労働党は「所得税・付加価値税(VAT)・国民保険料は引き上げない」ことを公約に選挙で勝利したが、財政に大きな圧力がかかっており、労働党政権は増税しないとの公約を撤退する可能性が高まっています。リーブス財務相は「もちろん、選挙公約を守ることは可能だが、その場合は公共投資の大幅な削減などが必要になる」と主張しています。


所得増税という選挙公約違反に対する労働党内の懸念は大きく、ここにきてリーブス財務相は所得税の基礎税率ないし高税率の引き上げを見送るのではないかとの憶測も出ています。そうすると、歳入不測の穴埋め策が新たな焦点となります。リーブス財務相は富裕層が英国から他国に移住する際に課す「清算税」の導入を再検討しているとも伝わっています。

 

予算案発表後にクーデター報道も

スターマー首相は2024年の総選挙で労働党を歴史的勝利に導いたが、現在は世論調査で支持を失っています。また、予算案で公約違反となれば、労働党の支持率がいっそう落ち込む恐れがあります。

 

英政権の政治リスクが高まる中、今週に複数の国内メディアは首相陣営の関係者らが予算案発表後にクーデターが起きる恐れがあると語っていると報じました。また、ストリーティング英保健相がスターマー首相降ろしを企てていると一部報道されたが、同氏は当然ながら「事実無根」と否定しました。スターマー首相も自身に対するいかなる挑戦にも立ち向かうと発言しています。スターマー氏の後任候補としてストリーティング氏やマフムード内相の名前が挙げられているが、市場はスターマー氏が首相の座を退けば、より左派寄りの候補が後任となり、政府の借入拡大につながる可能性も警戒しています。


予算案、ポンドの圧迫要因

予算案で増税の有無に関係なく、ポンドには悪いニュースになる可能性が高く、当面ポンドの重い動きが続きそうです。

 

リーブス英財務相が予定通り大幅な増税を実施すれば、債券トレーダーによる高い利回りの求めを抑止できる可能性はあるが、増税は経済成長を損ない、ポンド安を招くリスクがあります。一方、増税には踏み切らなかった場合、債券市場を満足させることができず、英国債が売られるという、比較的確率の低いシナリオでも、財政不安を背景にポンドは「英国売り」という広範な流れに巻き込まれるため下押し圧力が強まる可能性があります。

 

2022年、短命政権に終わった当時のトラス首相が財源の裏付けを示さずに積極財政に動いたことに伴う危機で、財政を巡る不安を背景に「英国売り」が進みました。

 

ポンドは、年初は堅調なスタートを切ったもののこの数カ月間は主要通貨に対し下落を続けています。これは英国が企業投資の低迷、失業率の上昇、成長の鈍化に苦しんでいることも要因となっています。予想を下回る成長により、経済に悪影響を与える財政政策の引き締めを政府がせざるを得ないという、長年にわたる「悪循環」をリーブス氏が断ち切れるかどうかが注目されるが、良い選択肢はほとんど残されていません。

 

イングランド銀行(英中銀、BOE)は11月会合で政策金利の据え置きを決定したが、財政規を重視する増税案となれば、景気の下押し要因となります。根強いインフレ圧力が金融政策委員会(MPC)メンバーの判断を難しくしているが、英労働市場の弱さを示すさらなるデータが出てくれば、12月会合での利下げ再開の圧力が強まるでしょう。

この連載の一覧
171回 予算案控え、慌ただしい英政府
第170回 トランプ氏、米中をG2と表現
第169回 ヘッジファンド資産、過去最高
第168回 通貨スワップ協定
第167回 カナダ経済は厳しい
第166回 自動売買のメリット・デメリット
第165回 FX活用の為替ヘッジ
第164回 利下げ再開、米経済は?
第163回 市場とFRB、来年以降の見通しにかい離
第162回 自民党総裁選と金融市場
第161回 英国の財政懸念
第160回 FRB理事の解任騒動
第159回 11人の次期FRB議長候補
第158回 「基調的な物価上昇率」
第157回 中国の政策金利
第156回 今年後半の米経済
第155回 日米合意、今後のドル円は?
第154回 トランプ氏、人民元の影響拡大の引き立て役になるか
第153回 香港ドル、キャリー取引が活発化
第152回 英国でもトリプル安
第151回 中東リスクに円買いではなくドル買い
第150回 悪いドル安
第149回 FX、マイルールを徹底
第148回 FX詐欺の手口
第147回 信認低下のドル、売り圧力が継続
第146回 半導体を制するものが世界を制する
第145回 米中会談、過度な期待は禁物
第144回 加ドル、米加首脳会談に注目
第143回 日米協議、円安是正に一安心も警戒残る
第142回 関税方針、トランプ氏の正念場
第141回 トランプ氏の脅かし、中国には通用しない
第140回 トランプ関税、ポンド相場への影響
第139回 RBA、追加利下げは5月か
第138回 英中銀、慎重な利下げペース維持
第137回 ドイツの大規模な財政拡大策
第136回 中国、今年GDP成長目標を5%前後に
第135回 米消費者信頼感指数、消費鈍化を示唆
第134回 リーダー不在のEU
第133回 各国中銀の利下げも、トランプ関税効果を薄めるか
第132回 円と加ドル、IMMポジションの変化
第131回 FX取引、投資詐欺に注意
第130回 FX、リスクも把握した上で取引を
第129回 トランプ氏VS中国
第128回 トランプトレードはいつまで続くか
第127回 ポジションの手仕舞い
第126回 今年最後の日米金融政策会合
第125回 中国景気、改善傾向もトランプリスク高まる
第124回 尹韓国大統領の戒厳令騒動
第123回 ポジションの管理
第122回 ドル円、160円台復帰はあるか
第121回 AI・FX取引
第120回 FX取引はギャンブルなのか
第119回 FXの確定申告
第118回 元キャリートレードの復活に注意
第117回 ドル円 8/1以来の150円台
第116回 ポンド、雇用・物価データの見極め
第115回 中国、景気支援策を強化
第114回 自民党総裁選、サプライズの結果に
第113回 景気回復が鈍いままの中国経済
第112回 最近の円相場、スキャルピング手法が有利か
第111回 最近主要国の金融政策(4)
第110回 最近主要国の金融政策(3)
第109回 最近主要国の金融政策(2)
第108回 最近主要国の金融政策(1)
第107回 投機筋、2週間以内での勝負多い
第106回 トランプVSハリス
第105回 来週の日銀会合、利上げは?
第104回 イベント・材料の認識から消化まで
第103回 経済指標の基本知識
第102回 勝つために情報本質の見極めは大事
第101回 押し目買いの罠
第100回 円安・円高の影響
第99回 円キャリートレードは正念場
第98回 ドル・ブル=ドル買いではない
第97回 ドル円 200円になったら
第96回 デイトレードの基本は順張り
第95回 ドル円、どこに向かうのか
第94回 FX、初心者に多い失敗例
第93回 本間宗久が残した相場の極意
第92回 基軸通貨のドル、強い
第91回 外国為替相場制度
第90回 米長期金利とドル円
第89回 RBNZ政策金利とNZドル円
第88回 日銀、利上げに踏み切るも円安
第87回 日本、「金利のある世界」に向かう
第86回 豪中銀と政策金利
第85回 トランプ氏の再選リスク
第84回 加中銀とその金融政策
第83回 英中銀とMPC
第82回 ECBと理事会
第81回 FRB 、FOMC
第80回 人民元の基準値
第79回 円キャリートレード
第78回 日銀、1月会合でマイナス金利解除を見送るか
第77回 ドル円 ゆく年くる年(2)
第76回 ドル円 ゆく年くる年(1)
第75回 ポジションの偏り
第74回 ユーロ圏、厳しい財政ルール
第73回 米国の双子の赤字、ドル相場への影響は?
第72回 日本の貿易収支
第71回 国際収支と為替(2)
第70回 国際収支と為替(1)
第69回 円買い介入警戒感が続く
第68回 FXにも山・谷がある
第67回 FX、時間軸視点も大切
第66回 PPPよりかなりの円安
第65回 購買力平価説
第64回 米大統領選とドル相場
第63回 円の実質実効為替レート、50年ぶりの低水準
第62回 実質実効為替レート、通貨の強弱が分かる
第61回 FX取引には時間・季節も影響
第60回 プロと素人
第59回 相場に入る・離れるタイミング
第58回 FX、成功する人・失敗する人
第57回 外貨預金にも使えるFX取引
第56回 FXトレードスタイル(3)
第55回 FXトレードスタイル(2)
第54回 FXトレードスタイル(1)
第53回 近年の相場の軸足
第52回 FX相場の軸足
【第51回 ドル・ユーロ・円、3大通貨に注目】
【第50回 FX、取り組みのタイミング】
【第49回 大局観下でのアプローチ】
【第48回】大局観、身につけよう
【第47回】FX取引の投資資金
第46回 相場と真摯に付き合う
第45回 金相場と為替
第44回 うわさで買って、事実で売る
第43回 原油相場と為替
第42回 金利差拡大ならお金は金利の高い国へ
第41回 貿易収支と為替相場
第40回 米国、なぜドル高にこだわるのか?
第39回 景気と為替相場
第38回 先物市場で投機筋の動きを把握
第37回 米SVB経営破綻の為替相場への影響
第36回 インフレと為替
第35回 FX、最強の参加者は?
第34回 為替レートの安定は為替ディーラーに不利なのか?
第33回 FXの自動売買取引
第32回 注目度の高い米雇用統計
第31回 リスクオン・リスクオフ取引
第30回 注目度の高い経済指標
第29回 アフリカの人気通貨 南アフリカ・ランド
第28回 安全資産・逃避通貨のCHF
第27回 2023年の為替相場
【FX、やるならお得に】第26回 年末年始の取引に注意
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【FX、やるならお得に】第24回 多難も地位が上がりつつある通貨(人民元)
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【FX、やるならお得に】第18回 取引量が第2位の通貨(ユーロ)
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【FX、やるならお得に】第16回 ファンダメンタルズ
【FX、やるならお得に】第15回 順張り・逆張り
【FX、やるならお得に】第14回 為替レートはテーマで動く
【FX、やるならお得に】第13回 為替の変動要因
【FX、やるならお得に】第12回 FXはゼロサムゲーム?
【FX、やるならお得に】第11回 FX取引の注文方法
【FX、やるならお得に】第10回 外国為替取引の中心はドル
【FX、やるならお得に】第9回 外国為替市場と為替レート
【FX、やるならお得に】第8回 FX取引で大事なこと
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【FX、やるならお得に】第4回 FXの「レバレッジ」
【FX、やるならお得に】第3回 まず「FX」のこと、ちゃんと理解しましょう
【FX、やるならお得に】第2回 そもそも為替って何?
【FX、やるならお得に】第1回 敵知らずして勝利なし!

為替情報部 アナリスト

金 星

中国出身。横浜国立大学大学院卒業後、国内商品先物会社に入社。 外国為替証拠金取引会社へ出向し、カバーディール業務に携わりながら市況サービスも担当。 2013年にDZHフィナンシャルリサーチに入社。

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