英予算案、26日に発表予定
今月の26日に英政府の秋季予算案発表を控え、英政府が慌ただしくなっているだけではなく、金融市場も神経を尖らせています。
与党・労働党は「所得税・付加価値税(VAT)・国民保険料は引き上げない」ことを公約に選挙で勝利したが、財政に大きな圧力がかかっており、労働党政権は増税しないとの公約を撤退する可能性が高まっています。リーブス財務相は「もちろん、選挙公約を守ることは可能だが、その場合は公共投資の大幅な削減などが必要になる」と主張しています。
所得増税という選挙公約違反に対する労働党内の懸念は大きく、ここにきてリーブス財務相は所得税の基礎税率ないし高税率の引き上げを見送るのではないかとの憶測も出ています。そうすると、歳入不測の穴埋め策が新たな焦点となります。リーブス財務相は富裕層が英国から他国に移住する際に課す「清算税」の導入を再検討しているとも伝わっています。
予算案発表後にクーデター報道も
スターマー首相は2024年の総選挙で労働党を歴史的勝利に導いたが、現在は世論調査で支持を失っています。また、予算案で公約違反となれば、労働党の支持率がいっそう落ち込む恐れがあります。
英政権の政治リスクが高まる中、今週に複数の国内メディアは首相陣営の関係者らが予算案発表後にクーデターが起きる恐れがあると語っていると報じました。また、ストリーティング英保健相がスターマー首相降ろしを企てていると一部報道されたが、同氏は当然ながら「事実無根」と否定しました。スターマー首相も自身に対するいかなる挑戦にも立ち向かうと発言しています。スターマー氏の後任候補としてストリーティング氏やマフムード内相の名前が挙げられているが、市場はスターマー氏が首相の座を退けば、より左派寄りの候補が後任となり、政府の借入拡大につながる可能性も警戒しています。
予算案、ポンドの圧迫要因
予算案で増税の有無に関係なく、ポンドには悪いニュースになる可能性が高く、当面ポンドの重い動きが続きそうです。
リーブス英財務相が予定通り大幅な増税を実施すれば、債券トレーダーによる高い利回りの求めを抑止できる可能性はあるが、増税は経済成長を損ない、ポンド安を招くリスクがあります。一方、増税には踏み切らなかった場合、債券市場を満足させることができず、英国債が売られるという、比較的確率の低いシナリオでも、財政不安を背景にポンドは「英国売り」という広範な流れに巻き込まれるため下押し圧力が強まる可能性があります。
2022年、短命政権に終わった当時のトラス首相が財源の裏付けを示さずに積極財政に動いたことに伴う危機で、財政を巡る不安を背景に「英国売り」が進みました。
ポンドは、年初は堅調なスタートを切ったもののこの数カ月間は主要通貨に対し下落を続けています。これは英国が企業投資の低迷、失業率の上昇、成長の鈍化に苦しんでいることも要因となっています。予想を下回る成長により、経済に悪影響を与える財政政策の引き締めを政府がせざるを得ないという、長年にわたる「悪循環」をリーブス氏が断ち切れるかどうかが注目されるが、良い選択肢はほとんど残されていません。
イングランド銀行(英中銀、BOE)は11月会合で政策金利の据え置きを決定したが、財政規を重視する増税案となれば、景気の下押し要因となります。根強いインフレ圧力が金融政策委員会(MPC)メンバーの判断を難しくしているが、英労働市場の弱さを示すさらなるデータが出てくれば、12月会合での利下げ再開の圧力が強まるでしょう。



