「セールスフォースの株、暴落したって聞いたけど今どうなってるの?」
「4割も下げたのに、もう戻ってるって本当?」
「また下がるんじゃないかと思うと、買うのが怖い…」
セールスフォース(ティッカー:CRM)は、企業の顧客管理ソフトで世界最大手のアメリカ企業です。営業や顧客対応の業務をクラウド上で管理する仕組みを提供しており、世界中の企業が業務の土台として使っています。
株価は2026年に入って大きく崩れ、1月の268ドル前後から6月末には150ドル台前半まで、およそ4割も下落しました。ところが8月末の決算をきっかけに急騰し、9月には257ドルまで戻しています。安値からの上昇率はおよそ7割です。
暴落は終わったのか?それとも、また下げる可能性が残っているのか?
最新の決算データをもとに、下げた理由と戻した理由の両方をわかりやすく解説します。
なお本記事では、1ドル160円で円換算した目安を併記します。
セールスフォースってどんな会社?
セールスフォースは1999年に創業した企業向けソフトウェアの会社で、メインとなるのはCRMと呼ばれる顧客管理システムです。営業担当者が誰にいつ何を提案したかを記録し、社内で共有する仕組みを提供しています。
このビジネスの特徴は、ソフトを売り切るのではなく、使う人数に応じて毎月料金を受け取るサブスク型という点です。契約が積み上がるほど収益が安定するため、投資家からは景気に左右されにくいモデルとして評価されてきました。
2027年1月期の売上高は461億ドルから464億ドルが見込まれており、円換算でおよそ7兆4,000億円という規模になります。
近年はAI分野にも力を入れ、業務を自動でこなすAIエージェントの「Agentforce」を主力製品に育てています。
このAIこそが、株価が暴落した理由でもあり、急騰した理由でもありました。
まず株価の動きを振り返る

参照:Trading View
直近1年の動きを追うと、2025年12月から2026年1月にかけて268ドル前後の高値をつけたあと、1月末から2月にかけて急落しました。3月から5月は170ドルから200ドルのあいだで低迷し、6月末には150ドル台前半まで沈んでいます。
流れが変わったのは7月からで、じりじりと水準を切り上げたあと、8月26日の決算発表をきっかけに株価は一気に跳ね上がりました。9月は257ドルであり、円換算でおよそ4万1,000円です。
ここで押さえておきたいのが、1年前との比較です。2025年9月ごろの株価は250ドル前後でしたから、いまの257ドルは1年でわずか3%ほどの上昇にすぎません。
つまりこの1年は、もとの水準に帰ってきただけとも言えます。
なぜ4割も暴落したのか?
最大の理由は、業績ではなく市場の見方が変わったことでした。
セールスフォースのようなクラウド型ソフト事業はSaaSと呼ばれ、使う人数に月額料金をかけて売上が決まるモデルです。
しかしながら、2026年に入り、このビジネスモデルそのものが危ういのではないかという議論が急速に広がりました。AIが人間に代わって業務ソフトを操作するようになれば、利用者の頭数で課金する前提が崩れてしまうという見方です。
日本経済新聞は2026年1月、AIに代替される懸念からSaaS大手4社の時価総額が2025年末からの1か月足らずで15兆円減ったと報じています。「SaaSの死」という言葉が使われるほど、市場の警戒は強いものでした。
もう1つの理由が、成長率の中身です。2026年8月26日発表の第2四半期決算リリースによると、四半期の売上高は113億ドルで前年同期から11%増えました。ただし、この11%には買収の効果が含まれています。
通期の見通しでも、売上成長率11%から12%のうち3ポイント強はInformaticaの寄与だと明記されています。差し引くと、事業の成長は8%程度という計算です。
さらに2026年6月にはContentfulとFinという2社の買収契約も発表しており、成長を買収で埋めているのではないかという見方が重なりました。
株価が6月末の安値をつけたのは、この発表からまもなくのことでした。

セールスフォースの株価が急騰した3つの理由
株価を反転させたのは、8月26日に発表された第2四半期の決算でした。
【理由①】AI製品の年間経常収益が240%増えていた
最も注目されたのはAI製品の伸びです。AIエージェントのAgentforceとデータ基盤のData 360を合わせた年間経常収益は約39億ドルに達し、前年同期から210%を超える伸びとなりました。Agentforce単体でも15億ドルを超え、240%以上増えています。
円換算するとAgentforceだけで年間2,400億円規模です。「AIに置き換えられる会社」と見られていたセールスフォースが、そのAIで急速に稼ぎ始めていることを数字で示した形です。疑われていた前提そのものが、決算の数字で否定されたことになります。
【理由②】利益が2倍前後に伸びた
収益力の改善も鮮明で、非GAAPベースの1株当たり利益は5.90ドルで前年同期の2倍を超え、会計基準どおりのGAAPベースでも4.29ドルと119%増えています。
契約残高のうち1年以内に売上になる部分を示すcRPOも335億ドルで14%増と、前の四半期から大きく伸びました。
【理由③】通期の見通しを引き上げた
会社は通期の売上見通しを2億ドル引き上げ、461億ドルから464億ドルとしました。
マーク・ベニオフ会長兼CEOは決算リリースで、過去最高クラスの四半期であり、あらゆる主要指標で期待を上回ったと述べています。
減速を疑われていた会社が自ら見通しを引き上げたという事実が、買い戻しを呼ぶことになりました。
セールスフォースの株価が暴落する可能性はある?
ここまで良い材料が続きましたが、警戒すべき点も残っています。
まず「SaaSの死」という議論そのものは終わっていません。Agentforceが伸びていますが、AIエージェントが広く普及したときに従来の人数課金モデルがどうなるかは、まだ答えの出ていない問いです。同じ懸念が再燃すれば、株は再び売られる可能性があります。
次に買収への依存で、通期の成長率のうち3ポイント強が買収による以上、本来の事業が再加速するかどうかは今後の決算で確かめる必要があります。
株価の水準も確認しておきましょう。執筆時点の257.15ドルを会社予想の非GAAP1株当たり利益16.67ドルから16.71ドルで割ると、PER(株価収益率=株価が1株あたり利益の何倍かを示す指標)は約15倍、GAAPベースでは約25倍になります。成長企業としては控えめな水準で、暴落前の期待がまだ完全には戻っていない可能性があります。
そして日本から投資する場合は為替も判断材料になります。株価がドルで上がっても円高が進めば円建てのリターンは目減りするため、1ドル160円前後という現在の水準から円高に振れたときの影響は小さくありません。
まとめ
セールスフォースが高値から4割下げた背景には、AIがSaaSを置き換えるという「SaaSの死」の議論が広がったことと、買収を除いた実質の成長率が8%程度にとどまっていたことがありました。
業績が崩れたのではなく、数年先のビジネスモデルを疑われたことが下落の本質でした。
しかしながら、8月の決算でAgentforceの年間経常収益が240%を超えて伸び、利益もキャッシュも2倍前後に伸びていることが示されたからです。下げた理由も戻した理由も、どちらもAIでした。
ただし株価は1年前とほぼ同じ水準に戻っただけで、上がりすぎたわけでも割安なわけでもありません。
今後の株価の伸びは買収に頼らない本来の成長を下期に示せるかどうかです。次の決算を確認しながら判断していきたい銘柄といえるでしょう。



