今回のG20が意味するもの
8月31日から9月1日にかけて、ノースカロライナ州アッシュビルでG20財務相・中央銀行総裁会議が行われました。
その期間中には、ベッセント米財務長官と片山財務相、植田日銀総裁による日米会談も行われています。
そして、このG20の期間中に、ニューヨーク・タイムズ(NYT)紙が下記のような内容の記事を掲載しました。
報道の概要では、「ベッセント米財務長官が5月11日、訪問先の東京で片山さつき財務相と夕食を共にした際、2時間以上にわたり高市政権の経済政策に対する不満や疑問を強く吐露していたことが、複数の関係者の証言により明らかになった」とされています。
主な批判・指摘のポイントは、日本銀行の独立性と低金利政策の維持に対する不信です。
ベッセント氏は、「なぜ日本銀行に十分な独立性が与えられていないのか」と疑問を呈しました。
高市政権が過剰な政府支出(財政拡張)を進める一方で、日銀に対して利上げを抑制させ、低金利政策を維持させている構図に対し、強い不満を示したと報じられています。
また、円安容認論への懸念も表明しています。
高市首相周辺の経済アドバイザーらが「円安のメリット」を主張・強調していることに対し、「なぜそのような政策を説いているのか」と片山財務相を追及しました。
これらは日本だけの問題にとどまらず、米国内にも悪影響を及ぼすと指摘しています。過度な円安の進行は日本のインフレを悪化させるだけでなく、自国通貨安によってトランプ米政権が設定した関税の効果を相殺してしまうため、米国にとっても問題になるとの認識です。
また、日本の長期金利上昇や為替ショックが米国の債券市場や金利に波及するリスクについても懸念を示していました。
ベッセント氏側の狙いとしては、日本側に対し、大規模な金融緩和や過度な財政出動を前提とした「リフレ政策」から脱却し、日銀の適切な利上げによって円安・インフレの急速な進行に歯止めをかけるよう、公然・非公然に圧力を強めていた姿勢が裏付けられたと考えられます。

実際に、G20後の記者会見でベッセント氏は、「日本は今すぐリフレ政策を止めるべきだ、アベノミクスは終わった」「日本はリフレに成功した。次は方針転換が必要だ」と述べています。
5月に2時間以上にわたり高市政権の政策を批判したにもかかわらず、日本政府側(片山財務相ら)は日米会談後、「高市政権の経済政策と財政持続可能性の両立について米国側から深い共感・高い評価を得た」といった趣旨の説明を行っていました。
しかし、今回のNYTの報道によって、米国側が舞台裏で極めて厳しい批判と圧力を加えていたことが明らかになり、日米双方の温度差や認識の違いが浮き彫りとなりました。
そして、一向に行動が伴わないことに対して、今回のG20の合間の日米会談でも、日本に対してさらに圧力をかけたものと思われます。
日本の金融政策であるにもかかわらず、良くも悪くも、日本は外圧がかからないと動かない、あるいは動けない国です。
これは、第176回「結局外圧が左右することを忘れずにやってはいけない」にも記載しましたが、金融政策に対しても同じ状況です。
また、第201回「影の総裁・・・金融だけでなく為替政策も米国の許しを得ずにやってはいけない?」でも詳細を載せています。
そもそも、NYTが今回のG20に合わせて、ベッセント氏が5月の訪日時に日本側へ強い不満を示していたことを報じたこと自体、日本側に対して明確なメッセージを送る意味合いもあるのではないでしょうか。
日本の金融政策、インフレ率<米国の圧力
ベッセント氏が日本への利上げ圧力を強めていることで、金融政策担当者もこれまで以上にタカ派色を強めています。
ただ、日本のインフレ率が急速に上昇しているわけではありません。
例を挙げると、過去数年の年平均インフレ率(コアCPI)は、
2023年(実績): +3.1%(42年ぶりの高水準)
2024年(実績): +2.5%
2025年(実績): +2.7%
2026年(足元見通し): +2.2%-+2.4%(前年同期比で2%台前半で推移)
となっています。
インフレ率という面では、むしろ落ち着きを取り戻しつつあるにもかかわらず、金融政策がタカ派色を強めている背景には、米国からの圧力があると言えそうです。
政府からすれば、景気に水を差しかねない政策金利の引き上げは避けたいところです。
しかし、ベッセント氏が日銀に対して利上げを含む「決断力のある」対応を求めていることを踏まえると、日本政府・日銀は米国からの圧力を無視しにくくなっていると言えそうです。



