共和党、“レッド・スプラッシュ”にとどまった3つの理由
米国の中間選挙では、事前予想に反しレッド・ウェーブは起こりませんでした。上院は、民主党が激戦州のうちアリゾナ州とネバダ州、ペンシルベニア州を制し多数派を維持。下院では共和党が選挙日から1週間以上経過した11月17日になって漸く過半数である、218議席に到達。米タイムズ誌は、こうした結果を受け”レッド・スプラッシュ(赤いしぶき)“
と呼んでいます。
共和党が大きく議席を伸ばせなかった要因としては、3つ考えられます。
1つは、トランプ前大統領の中間選挙直前の大立ち回りと再出馬表明示唆が挙げられます。実際、トランプ氏は中間選挙直前の11月7日、サウスカロライナ州で行ったJ.D.バンス上院議員候補の応援演説で「11月15日に重要な発表を行う」と発言。再出馬の可能性に言及し、大きな話題となりました。
2つ目は、若年層の投票率の改善が挙げられます。タフツ大学の調査では、特に18~19歳の投票率が27%と1990年代以降の平均20%前後を大きく上回っていました。若い世代はリベラル派が多い傾向にあります。ギャラップが1月~7月に実施した世論調査では、ジェネレーションZ世代(1997~2012年生まれ、米国の選挙年齢は18歳)のうち、民主党の支持率は31%と、共和党の17%を上回ります。若い世代の投票率が上昇したのは、ミシガン州やケンタッキー州など5州で中絶の権利をめぐる住民投票が行われたことが主因でしょう。若い層の貢献もあって、実施された全ての州で中絶の権利が守られました。
3つ目は、民主党支持者が多い州から共和党州への転入者の増加が挙げられます。特に顕著なのがアリゾナ州で、同州では2016~2020年の5年間において、カリフォルニア州からの転入者は年間平均で6万4,087人と、約4分の1を占めます。年毎にみると、トランプ前政権で中間選挙が実施された2018年には6万8,516人と、全体の27 %に及びました。2020年の上院特別選挙と今回の中間選挙で決戦投票を迎えたジョージア州でも、カリフォルニア州とNY州からの引っ越し組が過去5年間で11%を占めていたものです。アリゾナ州とジョージア州と言えば、もとは共和党の支持基盤でした。潮目が変わったのが2020年の米大統領選で、アリゾナ州で1996年以来、ジョージア州にて1992年以来で初めて民主党のバイデン氏が勝利し、米大統領就任に繋げました。
トランプ氏は再出馬表明も、人気はフロリダ州知事にシフト
共和党は、これら3つの課題を克服しない限り政権を奪取することが困難となります。
1番目については、既にトランプ氏が米大統領選への再出馬を表明し、いきなり土がついた形です。一方で、フロリダ州知事に再選されたロン・デサンティス氏の大躍進というポジティブ・サプライズにも恵まれました。44歳とまだ若いデサンティス氏が初当選した2018年の得票率は49.6%と、民主党対立候補との差はわずか0.4ptだったところ、今回は19.4ptとダブルスコアで勝利し、特にヒスパニック層の支持が大勝を呼び込んでいます。
共和党はマイク・ペンス前副大統領を始め中絶禁止を全面的に支持する保守派が多い半面、デサンティス氏は中絶の権利に一定の理解を示す点で、他候補と一線を画します。何より、デサンティス氏は妻がヒスパニック系でスペイン語も堪能とあって、宗教的に保守派なヒスパニック系との相性も悪くないんですよ。ここは、ヒスパニック系が32%と全米で4位のアリゾナ州で有利です。
世論調査でも、中間選挙後にデサンティス氏の株がうなぎのぼりであることが分かります。11月9~11日にユーガブが実施した調査では、2024年の米大統領選共和党候補としてデサンティス氏を支持するとの回答が同党支持者の間で42%と、トランプ氏の35%を上回っていました。
問題は、トランプ氏とデサンティス氏を軸に共和党内で内部分裂が起こるか否か。バイデン大統領が「2人の対決を楽しみにしている」と余裕綽綽なのは、共和党が団結できないとの算段が働いているためですが、果たして共和党は大改革という大鉈を振るえるのでしょうか?