【米国株かんたんナビ】ヘルスケアセクター:銘柄は粒ぞろい、世界市場に製品を提供

S&P500は米国の主要産業を代表する500社で構成される株価指数です。構成銘柄の採用には時価総額や株式の流動性だけでなく業績も考慮されるため、優良銘柄が多いことも特徴のひとつです。構成銘柄は情報技術(IT)、ヘルスケア、金融、コミュニケーション・サービス、一般消費財、資本財、生活必需品、エネルギー、公益、不動産、素材の11セクターに分類され、それぞれセクター指数も算出されています。


時価総額1000億ドル超が14銘柄

11に分類されるセクターのうち、今回ご紹介するのはヘルスケアセクターです。ヘルスケアセクターの特徴を一言でいえば銘柄の層が厚いという点でしょうか。医薬品をはじめ、医療機器、医療サービス、医療保険など広範な領域が対象になるため多様な銘柄で構成されています。


また、世界市場に直結しやすいことも特徴のひとつです。例えば新型コロナウイルス用のワクチンでは欧米や中国の医薬品メーカーが一斉に開発競争を始めましたが、日本も含めて世界市場をほぼ席巻したのがファイザー(PFE)製とモデルナ(MRNA)製のワクチンでした。両社ともこのセクターの銘柄です。



ヘルスケアセクターの構成銘柄は65で、このうち時価総額が1000億ドル(約13兆5000円)を超える銘柄は14を数えます。日本市場全体で時価総額が13兆円を超えるのはトヨタ自動車やソニーグループなど4銘柄だけなので、この点からも米国のヘルスケアセクターの充実度がうかがえます。


ユナイテッドヘルス、医療保険を軸に多様なサービス

粒ぞろいの銘柄の中で時価総額トップを走るのはユナイテッドヘルス・グループ(UNH)です。医療保険を軸に多様な医療関連サービスを提供しています。


米国には日本のような医療分野の国民皆保険制度がなく、オバマ大統領(在任期間:2009-17年)が医療保険制度改革法(オバマケア)を推進しましたが、民間の医療保険が果たす役割が依然として大きいようです。ユナイテッドヘルスは民間の医療保険で米国最大手。2022年12月期決算の経常収益(売上高に相当)に占める保険料収入の割合は79%に上っています。


事業は大きくふたつに分かれており、ユナイテッドヘルスケア部門は企業、政府機関、個人に医療保険プランを提供するのが柱です。高齢者と障害者の公的医療保険制度「メディケア」や低所得者向けの公的医療保険制度「メディケイド」にも参加しており、2022年末時点で保険プランの対象者数は5170万人に達しています。



もうひとつが情報技術(IT)を活用して医療関連サービスを提供するオプタム部門です。この部門は医療保険データをもとに医師や医療施設などを患者に紹介する「オプタムヘルス」、医療関係機関や医師などに情報、分析、ソフトウエアといったツールを提供して経営を支援する「オプタムインサイト」、薬剤給付管理など薬局へのサービスを中心とする「オプタムRx」に大別できます。


業績は堅調で、2022年12月期決算は経常収益が前年比12.7%増の3241億6200万ドル、純利益が同16.4%増の201億2000万ドルです。2022年10-12月期決算は経常収益が前年同期比12.3%増の827億8700万ドル、純利益が同16.9%増の47億6100万ドルでした。


ジョンソン&ジョンソン、医薬品と医療機器が主力

時価総額でユナイテッドヘルス・グループを追走するのが医薬品大手のジョンソン・エンド・ジョンソン(JNJ)です。日本ではばんそうこうの代名詞となった「バンドエイド」やローションなどのパーソナルケア製品で知られていますが、主力は医薬品です。


医薬品部門は売上高全体の55%、税引き前利益の68%を占めています(2022年12月期)。がん、免疫疾患、精神・神経疾患、感染症・ワクチン、代謝・循環器疾患、肺高血圧症の領域で治療薬の開発、生産を手掛けています。


これに次ぐ規模を持つのが医療機器部門で、売上高全体の29%、税引き前利益の20%を占めています。心血管疾患や整形外科関連の治療に使う医療機器を開発しています。



消費者向け製品部門は売上高全体の16%、税引き前利益の12%を占めます。パーソナルケア製品や一般用医薬品、衛生用品などを世界中で販売しています。


ジョンソン・エンド・ジョンソンの業績は2022年12月期決算の売上高が前年比1.3%増の949億4300万ドル、純利益が同14.1%減の179億4100万ドルです。2022年10-12月期決算は売上高が前年同期比4.4%減の237億600万ドル、純利益が同25.7%減の35億2000万ドルでした。


イーライ・リリー、糖尿病治療薬に強み

時価総額の3位は医薬品のイーライ・リリー(LLY)です。糖尿病治療薬の「トリルシティ」「ジャディアンス」、インスリンの「ヒューマログ」、関節リウマチ治療薬の「オルミエント」などが主力製品で、年間の売上高が20億ドルを上回る製品が6種類に及びます(2022年12月期の実績)。がんや免疫疾患の治療薬にも強みを持っています。


海外展開にも積極的で売上高の海外比率は36%(2022年12月期)。日本市場での売上高は全体の6%に達しています。



イーライ・リリーの業績は2022年12月期決算の売上高が前年比0.8%増の285億4100万ドル、純利益が同11.9%増の62億4500万ドルです。2022年10-12月期決算は売上高が前年同期比8.7%減の73億200万ドル、純利益が同12.3%増の19億3800万ドルでした。


アッヴィは美容医療の分野にも参入

時価総額の4位は医薬品のアッヴィ(ABBV)です。関節リウマチなどの自己免疫疾患の治療薬「ヒュミラ」や慢性リンパ性白血病の治療薬「イムブルビカ」などが中核ですが、2020年にアイルランドのアラガンを買収し、美容医療の「ボトックス・コスメティック」や神経疾患治療薬の「ボトックス・セラピューティック」を製品ラインに組み込んでいます。


アッヴィの業績は2022年12月期決算の売上高が前年比3.3%増の580億5400万ドル、純利益が同2.5%増の118億3600万ドルです。2022年10-12月期決算は売上高が前年同期比1.6%増の151億2100万ドル、純利益が同38.8%減の24億7300万ドルでした。



時価総額の5位は医薬品のメルク(MRK)です。がんや糖尿病の治療薬のほか、子宮頸がんなどヒトパピローマウイルス(HPV)感染症を予防するワクチンも開発しています。また、ペットをはじめ、牛や豚、ニワトリなどの家畜を対象とする動物用医薬品も生産しており、売上比率は11%に達しています。


メルクの業績は2022年12月期決算の売上高が前年比21.7%増の592億8300万ドル、純利益が同11.3%増の145億1900万ドルです。2022年10-12月期決算は売上高が前年同期比2.3%増の138億3000万ドル、純利益が同19.7%減の30億1700万ドルでした。

中国株情報部

島野 敬之

出版社を経て、アジアの経済・政治情報の配信会社に勤務。約10年にわたりアジア各国に駐在。 中国株二季報の編集のほか、個別銘柄のレポート執筆を担当する

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