IREN(旧 Iris Energy)は、2018年にオーストラリアで設立されたデータセンター運営企業です。創業当初はカナダの再生可能エネルギーを活用したビットコイン採掘事業を中心に成長してきました。2019年のカナル・フラッツ拠点の稼働を皮切りに、プリンス・ジョージ、マッケンジーなど複数拠点で水力発電をベースとしたデータセンターを構築し、2021年にはナスダック市場に上場しています。
その後は、再エネ電力の調達力や土地・変電設備、自社で培ってきた冷却・運営ノウハウを強みに、2024年以降は事業の軸足を「AI向けGPUインフラ」へ大きくシフトさせています。2025年にはテキサス州チルドレスを中心に大規模GPUデータセンターの整備を進めており、「再エネ × 自社データセンター × GPUクラウド」を垂直統合したビジネスモデルで、中長期的なAI計算需要の取り込みを目指している企業です。
マイクロソフトとの97億ドルAIクラウド契約が転機に
IRENは2025年11月、マイクロソフトと約97億ドル規模のGPUクラウド契約を発表しました 。本契約は平均5年程度の利用期間を前提としており、マイクロソフトが契約金額の20%を前払いするなど、需要の確度が高い案件である点が特徴です。
この契約に基づき、IRENはテキサス州チルドレス(総開発規模750MW)のキャンパスにおいて、約200MWのAI向けITロードを段階的に構築し、NVIDIA GB300など最新世代GPUを提供する予定です。また、AIサーバーや周辺機器を含むインフラ一式の構築に向けて、デル・テクノロジーズと約58億ドル規模の調達契約も締結しており、これらは“ビットコイン採掘企業”から“AIデータセンター・クラウド企業”への転換を象徴する動きといえます。
採掘収益中心からAIクラウド ARR主導へのシフト
直近期(FY26第1四半期)では、ビットコイン採掘収益が2億3290万ドル、AIクラウド収益が730万ドルとなっています。四半期実績を単純に年率換算すると、採掘事業は約9.3億ドル、AIクラウド事業は約3000万ドル弱となり、現時点では依然として採掘事業が収益の大部分を占めている状況です。
一方で、AIクラウド事業では「契約済みARR(年間経常収益)」の積み上がりが急速に進んでいます。2025年10月時点では、約1万1000枚のGPUに対して約2億~2億5000万ドルのARR(=2025年末の稼働水準ベース)が見込まれています。これを採掘事業の年換算収益と組み合わせて単純試算すると、2025年末時点の収益構成はAIが約19%、採掘が約81%になると想定されます。
さらに、マイクロソフトとの大型契約に加え、Together AI、Fluidstack、Fireworks AIなどとの複数年契約が進展することで、会社は2026年末のAIクラウド ARRを約34億ドルと見込んでいます。採掘事業の年率換算収益を約9億ドル前後と仮定すると、2026年末にはAIが約78-80%、採掘が約20-22%と、収益構成が逆転する姿が想定されます(いずれも単純試算ベースです)。
また、カナダ・ブリティッシュコロンビア州の160MW拠点は、2026年末までにASIC(特定用途向け集積回路)からGPUへ転換する計画となっており、中期的にはビットコイン採掘事業の比率がさらに低下していく可能性があります。
出所:IREN決算報告書
AIインフラ拡張のための投資規模も今後の財務面の焦点となります。Dellとの機器調達契約は総額約58億ドルに上がり、これに対してマイクロソフトの前払い金は約19億4000ドル、現金残高は約10億ドルとなっています。単純計算では依然として約28億-30億ドルの資金ギャップが残る可能性があり、この一部はすでに発行された約10億ドル規模の転換社債など、追加的な資金調達によって賄われる見込みです。現在の長期有利子負債(主に転換社債)は約9億6000万ドルであり、AI関連投資の進捗次第で財務負担の度合いが変動する可能性があります。
AIインフラ専業としての再評価余地とリスク
今後の株価を左右する最大のポイントは、マイクロソフトをはじめとする大型顧客向けに計画されたGPUデータセンターが、予定どおりのスケジュールと稼働率で立ち上がるかどうかです。マイクロソフトとの契約だけでも年間約19億ドルのARRが見込まれており、その他の顧客向け案件も含めて2026年末に34億ドルのAIクラウドARRを達成できれば、IRENは「AIインフラ専業企業」として市場から再評価される余地が大きいと考えられます。

出所:TradingView
一方で、GPU調達や建設工事の遅延、電力価格や規制環境の変化、競合他社(Core Scientific、HIVE Digital、BitDigitalなど)のAI事業参入といったリスクも存在します。また、残存するビットコイン採掘事業はビットコイン価格やネットワーク難易度に左右されるため、収益ボラティリティは今後もしばらく高い水準が続くとみられます。
加えて、AIインフラ向けの大規模設備投資が将来的な負担となる可能性もあります。特に、GPUデータセンターの稼働率が計画を下回った場合や、AIクラウド事業のARR成長が想定どおりに進まなかった場合、巨額の設備投資がキャッシュフローを圧迫し、収益性を下押しするリスクも否定できません。
IRENは「採掘企業からAIクラウド企業への転換」を進めている過渡期にあり、2026-2027年にかけてAIインフラの供給能力と契約残高をどこまで積み上げられるかが、中長期的な企業価値を左右する重要なポイントになると考えられます。



