米2月CPIは概ね市場予想通りで、Fedは3月に25bp利上げか

米2月コアCPI・前月比は市場予想超え、3月FOMCは0.25%利上げか


シリコンバレー銀行(SVB)の破綻を受け、金融不安が市場を席捲しています。3月21~22日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、インフレ抑制を最優先に掲げてきた米連邦準備制度理事会(FBR)が金融不安対応へ舵を切るのか、注目されています。そこで今後の金融政策を占う材料として、米2月消費者物価指数(CPI)を振り返ってみました。以下は、米2月CPIの詳細です。


米2月消費者物価指数(CPI)は前月比0.4%上昇し、市場予想と一致した。前月の0.5%上昇を含め7カ月連続で上昇。エネルギーが公益を軸に弱まったものの、ガソリンが2カ月連続で上昇しエネルギーの下落を抑えた。食品は肉類・魚・卵を中心に鈍化しつつ、引き続き住宅関連が押し上げたほか、航空運賃が上向きに転じた。


CPIコアは前月比0.5%上昇し、市場予想の0.4%を上回った。前月の0.4%を超え5カ月ぶりの高い伸びに。2020年6月以降続く上昇トレンドを保つ。エネルギーと食品以外でのインフレが高止まりしている様子を示した。なお、21年6月は同0.9%と1982年6月以来の伸びへ加速していた。


FF先物市場では、米新規失業保険申請件数の減少や欧州中央銀行(ECB)による0.5%利上げもあって、0.25%利上げの織り込み度が77.5%と再び強まった。


チャート:3月FOMCの利上げ織り込み度、やはり0.25%利上げか

 


3月以降は、5月FOMCでの0.25%利上げで打ち止め、6月FOMCの利下げ転換、以降はゆるやかな利下げ継続との方向を示した。


チャート:6月の利下げ転換を含め、年内3回の利下げを織り込む

 


CPI、エネルギーや食品からの物価圧力は引き続き後退


CPIの内訳を前月比でみると、エネルギー(全体の6.9%を占める、従来は7.3%)が0.6%低下し、3過去4カ月間で3回目の低下となった。ただし、ガソリンは0.9%上昇し、2カ月連続で上昇。エネルギーを押し下げたのはエネルギー・サービス(公益)で、前月の2.1%上昇→1.7%低下。特に暖房需要が後退しガスが8.0%低下と3カ月ぶりにマイナス、電力は前月の0.5%と変わらず、3カ月連続で上昇した。


エネルギー以外では食品(全体の13.5%を占める、従来は13.4%)が前月比0.4%上昇し前月の0.5%を下回った(詳細は後述)。なお、コロナ禍で経済活動が停止した20年4月は1.4%上昇していた。


CPIコアは前月比0.5%上昇し、市場予想の0.4%を上回りつつ前月と変わらず。主に住宅関連が指数を支えた。


チャート:CPIの費目別寄与、前月比は引き続きガソリンなどエネルギーが押し下げたものの食品とその他が上昇を主導

 


食品とエネルギー以外をみると、モノからサービスへの需要のシフトが指摘される通り、航空運賃と宿泊が高い伸びを記録した。また、帰属家賃や家賃など住宅関連も高止まりを維持、家賃は新規契約分でマイナスが続くものの、引き続き通常1~2年契約という事情もあってサンプルに足元の動向は反映されづらいもようだ。一方で、高止まりしていた自動車保険は減速したほか、中古車が8カ月連続で低下した。エネルギー関連と食品・飲料以外で主要な項目の前月比は、以下の通り。


(上昇費目)

・航空運賃 6.4%上昇し5カ月ぶりにプラス、前月は2.1%低下

・宿泊 2.3%の上昇と4カ月連続でプラス、前月は1.2%の上昇

・娯楽 0.9%上昇と14カ月連続で上昇、前月は0.5%の上昇

・自動車保険 0.9%上昇と14カ月連続で上昇、前月は1.4%上昇

・服飾 0.8%上昇と4カ月連続で上昇し2021年12月以来の高い伸びを維持、前月は0.8%上昇

・家賃 0.8%上昇し1986年4月以来の高い伸びに並ぶ、前月は0.7%上昇

・帰属家賃 0.8%上昇し1990年6月以来の高い伸びに並ぶ、前月は0.7%上昇

・住宅 0.8%上昇し1976年7月以来の高い伸びに並ぶ、前月は0.7%上昇し

・教育サービス 0.2%上昇と上昇トレンドを維持、前月は0.5%の上昇

・新車 0.2%の上昇し22カ月連続で上昇、前月は0.2%の上昇

・自動車メンテナンス/修繕 0.2%上昇と11カ月連続で上昇した中で最も小幅、前月は1.3%上昇


(横ばい、低下項目)

・中古車 2.8%の低下と8ヵ月連続でマイナス、前月は1.9%の低下

・医療サービス 0.7%低下と2カ月連続でマイナス、前月は0.2%の低下


CPIは前年同月比6.0%と、市場予想と一致した。前月の6.4%は下回り2021年9月以来の低い伸びだった。CPIコアも同5.5%と市場予想通りで、前月の5.6%を下回り2021年12月以来の低水準。ただし、減速ペースは鈍いままだ。


チャート:CPIの前年比、費目別の寄与は住宅を軸にその他が大きい

 


Fedが注目する住宅を除く物価、鈍化トレンドに


その他、注目の費目について詳細をみてみましょう。


経済正常化を支えに、2月は航空運賃(前月:25.6%上昇→26.5%上昇)のほか、前月比では鈍化したものの引き続き自動車保険(前月:14.3%→14.7%)が堅調でした。新車(前月:5.8%上昇→5.8%)は伸びが限定的で、中古車に至っては同13.6%低下し、4カ月連続でマイナスとなっただけでなく、下落率は1960年9月以来で最低でした。


チャート:経済活動の再開で上振れが目立った費目、自動車保険と航空運賃以外は減速傾向

 


CPIの13.5%を占める食品の前年同月比は、鳥インフルエンザによって急騰した卵がようやく落ち着きを示すなか、肉類・魚・卵(前月:8.0%→6.7%)を始め、シリアル・パン類(前月:15.6%→14.6%)や食費(前月:11.3%→10.1%)なども鈍化しました。ただし、外食は賃金上昇圧力を示唆したのか、前月:8.2%→8.4%と再び加速しています。


チャート:食費の費目全て、前年比で鈍化が優勢に

 


6.9%を占めるエネルギーは前年同月比で5.0%の上昇と、2021年2月以降の上昇トレンドで2番目に低い伸びでした。ガソリンは2.0%低下し、2022年12月に続きマイナス。公益(電力・ガス)は暖房需要が後退し、前月の15.6%から13.3%へ鈍化しました。


チャート:生活必需品関連、家賃以外は鈍化傾向

 


アトランタ連銀が発表する粘着CPI(帰属家賃や外食、医療サービスなど、変動の鈍い品目に絞って算出したCPI)は、3カ月連続で前年同月比6.7%上昇し、高止まりを続けた。しかし、住宅関連が押し上げており、住宅を除けば5.5%と9カ月ぶりの水準に鈍化。パウエルFRB議長を始めFedは住宅を除くコアサービスに注目するなか、住宅以外はゆるやかなペースながら鈍化しつつあります。


チャート:粘着CPI、住宅を除く場合は着実に鈍化

 


以上、米2月CPIは市場予想と概ね一致したとはいえ、全体では鈍化傾向を確認しました。FF先物市場で6月FOMCでの利下げ転換が織り込まれているのは、家賃の押し下げが顕在化するとの見通しを反映しており、住宅を除く粘着CPIの伸び鈍化は、利下げ期待への支援材料と言えるでしょう。



ストリート・インサイツ

金融記者やシンクタンクのアナリストとしての経験を生かし、政治経済を軸に米国動向をウォッチ。NHKや日経CNBCなどの TV 番組に出演歴があるほか、複数のメディアでコラムを執筆中。

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