「世界は新しいコンピューティングの時代の転換点を迎えた」
(エヌビディアのジェンスン・ファン最高経営責任者(CEO))
世界三大投資家ジョージ・ソロス氏が創設した「クォンタム・ファンド」の運用責任者だったドラッケンミラー氏は、「人工知能(AI)はインターネットと同じくらい革新的なものになるかもしれない。AIに関して私の見方が正しければ、あと2-3年はエヌビディア株を保有することは有り得る」と述べています。ドラッケンミラー氏は、これまで資金運用で負けた年は一度もないことで、2025年頃までは、現在のAIバブルは続くのかもしれません。
エヌビディアの株価売上高倍率(PSR)は40倍に達しており、30%の成長がずっと続くことが見込まれています。
日本では、20世紀後半の政治家が、「IT」を「イット」と読み、21世紀前半には、「AI」を「アイ」と読み、最近のマイナンバーカードを巡る混迷に象徴されるように、政治主導でのテクノロジー分野への参入は迷走する可能性が高いと思われます。また、マイクロソフト創業者ビル・ゲイツやアップル創業者スティーブ・ジョブズらが出現しようがない日本の風土では、民間主導の参入もこれまで通りに周回遅れとならざるを得なません。
このようなデジャブ(既視感)が漂う中、2000年の「ドットコム・バブル」の検証をしつつ、現状の「AIバブル」の射程を見据えてみたいと思います。
そして、乗り遅れることへの恐怖(FOMO:fear of missing out:フォーモ)が、株価を非現実的な領域に押し上げる段階を見極めておきたいと思います。
1.ChatGPT(チャットジーピーティー、Generative Pre-trained Transformer)
AIは、現在の仕事の効率向上と将来の生産性向上につながる技術進歩を助けてくれます。そして、「Chat(チャット)GPT」は、確率でしゃべるマシンであり、総合知を提供してくれるとのことです。
経済的な効果としては、省力化技術が労働者に取って代わる雇用情勢の悪化、そして、テクノロジーの進歩ですべての財・サービスが安価になるデフレ効果が挙げられます。
2022年から世界の中央銀行は、コロナ禍による供給不足と労働市場逼迫がもたらしたインフレ抑制のために、金融を引締めつつあり、AIのデフレ効果が期待されています。
それにしても、個人的に理解できないのは、チャットGPTによる医師国家試験の解答率が55%となり、人間の正答率66.6%を下回ったという報道です。
2. ドットコム・バブル
1990年代、米国でインターネットによる商取引への可能性が過大視され、「ドットコム会社」と呼ばれる多くのIT関連ベンチャーが設立され、通信関連銘柄が多いNASDAQのナスダック総合指数は、2000年3月10日に5048まで上昇しました。1990年代のナスダック100指数は、5年間で800%超上昇しています。
グリーンスパン第13代FRB議長の低金利政策により、ベンチャー創業資金や投資資金の調達を容易にし、将来のキャッシュフローの現在価値を魅力的な数字にしていまし。しかし、米連邦準備理事会(FRB)の利上げ転換で、ドットコム・バブルは崩壊しました。
ナスダック100指数が2000年に高値を付けるまでの1年間の株価パフォーマンスで、上位10社のうち現在も独立した企業として残っているのは、「クアルコム」と「チェックポイント・ソフトウェア・テクノロジーズ」の2社だけとなっています。
グリーンスパン第13代FRB議長は、この後、再び低金利政策により米国住宅市場のバブルを演出し、サブプライムローン崩壊という帰結に至ります。
3.ジョン・テンプルトンの警句
伝説の投資家ジョン・テンプルトンの警句として最も有名なのは、「強気相場は、悲観の中に生まれ、懐疑の中に育ち、楽観の中で成熟し、幸福感の中で消えていく」
(Bull markets are born on pessimism, grow on skepticism, mature on optimism and die on euphoria.)
そして、次に有名なのは、「投資で最も危険な4文字は『今回は違う』だ」
(The 4 most dangerous words in investing are “this time it’s different”)
金融市場では、「金融危機とは他人に対して、他国で、別の時代に起こることであって、我々はそのようなへまはしない。我々は金融知識もあるし、過去の失敗からも学んでいる。」という「今回は違う」症候群(“This-Time-Is-Different” Syndrome)が蔓延しています。
すなわち、ある資産がバブル的な上昇となった場合、今回の資産上昇は、過去のようなバブルではない、と思い込む、金融危機的な様相を呈した場合、今回の危機は、過去のような危機ではない、と思い込む症候群です。