日米関税交渉、合意
今週、日米関税交渉が合意しました。相互関税・自動車関税がともに15%で決着し、コメの輸入拡大や5500億ドル(約80兆円)にも上る対米投資の枠組みなどが発表されました。トランプ米大統領は「日本は私の指示で米国に5500億ドルを投資することになった」と、満足げに語っています。
当初、トランプ氏が示唆した25%の関税は避けられたことで日本の経済界も歓迎ムードになっています。ただ、トランプ政権前の関税率が約3.3%だったのに対して15%まで引き上げられ、コメや自動車に犠牲を払わされて、こんなに喜んでいいものなのかと私には不思議に思えますが、とにかく日本では安堵感が広がっています。
トランプ氏の関税方針の下、今のところ米国の関税収入が急増する一方で物価上昇は顕在化しておらず、雇用統計も底堅いです。ただ、日本以上に懸案である欧州連合(EU)や中国などとの交渉で成果が挙がらず、関税戦争が米消費者の懐を直撃すれば、来年秋の米国中間選挙に向けて求心力維持を図りたいトランプ氏が新たな実績作りに突っ走り、日本に再び矛先を向けるリスクもあります。
関税交渉の一件落着で、今後のドル円は?
日米の関税交渉はいったん落着し、日本側として関税の不透明感が払しょくされました。ただ、トランプ氏が当初90日間と定めていた交渉期間を8月1日まで再延長したが、まだ多くの国と合意にこぎ着けていません。世界的にトランプ関税の不確実性は払しょくされたわけではなく、今後も関税関連のヘッドライトに一喜一憂する相場が続きそうです。今後、ドル円の主な手掛かりになりそうな材料は以下の通りです。
EU・中国との通商協議
米・EU交渉はEUの対米輸出品に15%の関税をかけることで合意が迫っており、トランプ米大統領の判断待ちと報じられていますが、果たして合意に達するかどうかがポイントになります。また、中国とは28-29日にスウェーデンで協議を行う予定で、8月12日に設定している一部関税の停止期限延長や輸出規制の緩和がテーマに上る見通しです。関税交渉で一番キーポイントとなるEU、中国と合意できなければ、トランプ氏がいくら自画自賛しても同氏の関税方針は成功とはいえないでしょう。
4月に関税不安や米連邦準備理事会(FRB)議長の解任騒動を背景に「米国売り」が見られた後、トランプ氏も控えめになったところはありますが、やはり予測不能の人物であり、EUと中国の交渉がうまくいかなかった場合、FRBに対する堪忍袋の緒が切れた時にどんな行動に出るかわかりません。米国売り再燃の可能性には十分注意したいです。特に同氏の高関税措置の長期化が景気の腰折れを招く恐れもあります。
トランプ氏は関税政策の要因として「貿易赤字の改善」を挙げていますが、そもそも米国の貿易赤字の根源には米国の過大消費にあります。トランプ政権は消費喚起につながる大型減税を成立させたばかりで、今後インフレ高が徐々に鮮明になり、米景気への懸念が高まる可能性があります。
日米の金融政策見通し
関税騒動が一段落すると、ドル円は日米の金融政策見通しに目線が行きやすくなります。FRBは30日、日銀は31日に政策金利の発表を控えている。両中銀ともに今月は据え置き予想となっているが、米国の利下げ圧力、日本の利上げ圧力が再び高まっています。米国はインフレ率等を鑑みれば、利下げに動くのは時期尚早との見方が強いが、米政権の利下げ圧力が止まらず、FRB議事の次期人事をめぐる動きが早まる可能性があります。よって、足元で日米の金融政策の方向性ではドル安・円高圧力となります。
日本の政治リスク
参議院選挙の結果を受けて、石破首相が8月末までに退陣を表明する意向を固めたと報じられました。石破首相は一部の辞任報道は事実ではないと強く否定したが、自民党では首相の辞任を求める動きが強まっています。結局、辞任に追い込まれる可能性が高く、次期首相候補をめぐる思惑で円相場に動意づく可能性があります。昨年の9月、自民党の総裁選に絡んで円相場が乱高下しました。その時、高市氏は総裁選の決戦投票で敗北したが、直前まで高市「総理」誕生期待が強まり一時円安が大きく進みました。ドル円は日本の政治イベントにも要注意です。