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第155回 日米合意、今後のドル円は?

日米関税交渉、合意

今週、日米関税交渉が合意しました。相互関税・自動車関税がともに15%で決着し、コメの輸入拡大や5500億ドル(約80兆円)にも上る対米投資の枠組みなどが発表されました。トランプ米大統領は「日本は私の指示で米国に5500億ドルを投資することになった」と、満足げに語っています。

 

当初、トランプ氏が示唆した25%の関税は避けられたことで日本の経済界も歓迎ムードになっています。ただ、トランプ政権前の関税率が約3.3%だったのに対して15%まで引き上げられ、コメや自動車に犠牲を払わされて、こんなに喜んでいいものなのかと私には不思議に思えますが、とにかく日本では安堵感が広がっています。

 

トランプ氏の関税方針の下、今のところ米国の関税収入が急増する一方で物価上昇は顕在化しておらず、雇用統計も底堅いです。ただ、日本以上に懸案である欧州連合(EU)や中国などとの交渉で成果が挙がらず、関税戦争が米消費者の懐を直撃すれば、来年秋の米国中間選挙に向けて求心力維持を図りたいトランプ氏が新たな実績作りに突っ走り、日本に再び矛先を向けるリスクもあります。

 

関税交渉の一件落着で、今後のドル円は?

日米の関税交渉はいったん落着し、日本側として関税の不透明感が払しょくされました。ただ、トランプ氏が当初90日間と定めていた交渉期間を8月1日まで再延長したが、まだ多くの国と合意にこぎ着けていません。世界的にトランプ関税の不確実性は払しょくされたわけではなく、今後も関税関連のヘッドライトに一喜一憂する相場が続きそうです。今後、ドル円の主な手掛かりになりそうな材料は以下の通りです。

 

EU・中国との通商協議

米・EU交渉はEUの対米輸出品に15%の関税をかけることで合意が迫っており、トランプ米大統領の判断待ちと報じられていますが、果たして合意に達するかどうかがポイントになります。また、中国とは28-29日にスウェーデンで協議を行う予定で、8月12日に設定している一部関税の停止期限延長や輸出規制の緩和がテーマに上る見通しです。関税交渉で一番キーポイントとなるEU、中国と合意できなければ、トランプ氏がいくら自画自賛しても同氏の関税方針は成功とはいえないでしょう。

 

4月に関税不安や米連邦準備理事会(FRB)議長の解任騒動を背景に「米国売り」が見られた後、トランプ氏も控えめになったところはありますが、やはり予測不能の人物であり、EUと中国の交渉がうまくいかなかった場合、FRBに対する堪忍袋の緒が切れた時にどんな行動に出るかわかりません。米国売り再燃の可能性には十分注意したいです。特に同氏の高関税措置の長期化が景気の腰折れを招く恐れもあります。

 

トランプ氏は関税政策の要因として「貿易赤字の改善」を挙げていますが、そもそも米国の貿易赤字の根源には米国の過大消費にあります。トランプ政権は消費喚起につながる大型減税を成立させたばかりで、今後インフレ高が徐々に鮮明になり、米景気への懸念が高まる可能性があります。

 

日米の金融政策見通し

関税騒動が一段落すると、ドル円は日米の金融政策見通しに目線が行きやすくなります。FRBは30日、日銀は31日に政策金利の発表を控えている。両中銀ともに今月は据え置き予想となっているが、米国の利下げ圧力、日本の利上げ圧力が再び高まっています。米国はインフレ率等を鑑みれば、利下げに動くのは時期尚早との見方が強いが、米政権の利下げ圧力が止まらず、FRB議事の次期人事をめぐる動きが早まる可能性があります。よって、足元で日米の金融政策の方向性ではドル安・円高圧力となります。

 

日本の政治リスク

参議院選挙の結果を受けて、石破首相が8月末までに退陣を表明する意向を固めたと報じられました。石破首相は一部の辞任報道は事実ではないと強く否定したが、自民党では首相の辞任を求める動きが強まっています。結局、辞任に追い込まれる可能性が高く、次期首相候補をめぐる思惑で円相場に動意づく可能性があります。昨年の9月、自民党の総裁選に絡んで円相場が乱高下しました。その時、高市氏は総裁選の決戦投票で敗北したが、直前まで高市「総理」誕生期待が強まり一時円安が大きく進みました。ドル円は日本の政治イベントにも要注意です。

この連載の一覧
第155回 日米合意、今後のドル円は?
第154回 トランプ氏、人民元の影響拡大の引き立て役になるか
第153回 香港ドル、キャリー取引が活発化
第152回 英国でもトリプル安
第151回 中東リスクに円買いではなくドル買い
第150回 悪いドル安
第149回 FX、マイルールを徹底
第148回 FX詐欺の手口
第147回 信認低下のドル、売り圧力が継続
第146回 半導体を制するものが世界を制する
第145回 米中会談、過度な期待は禁物
第144回 加ドル、米加首脳会談に注目
第143回 日米協議、円安是正に一安心も警戒残る
第142回 関税方針、トランプ氏の正念場
第141回 トランプ氏の脅かし、中国には通用しない
第140回 トランプ関税、ポンド相場への影響
第139回 RBA、追加利下げは5月か
第138回 英中銀、慎重な利下げペース維持
第137回 ドイツの大規模な財政拡大策
第136回 中国、今年GDP成長目標を5%前後に
第135回 米消費者信頼感指数、消費鈍化を示唆
第134回 リーダー不在のEU
第133回 各国中銀の利下げも、トランプ関税効果を薄めるか
第132回 円と加ドル、IMMポジションの変化
第131回 FX取引、投資詐欺に注意
第130回 FX、リスクも把握した上で取引を
第129回 トランプ氏VS中国
第128回 トランプトレードはいつまで続くか
第127回 ポジションの手仕舞い
第126回 今年最後の日米金融政策会合
第125回 中国景気、改善傾向もトランプリスク高まる
第124回 尹韓国大統領の戒厳令騒動
第123回 ポジションの管理
第122回 ドル円、160円台復帰はあるか
第121回 AI・FX取引
第120回 FX取引はギャンブルなのか
第119回 FXの確定申告
第118回 元キャリートレードの復活に注意
第117回 ドル円 8/1以来の150円台
第116回 ポンド、雇用・物価データの見極め
第115回 中国、景気支援策を強化
第114回 自民党総裁選、サプライズの結果に
第113回 景気回復が鈍いままの中国経済
第112回 最近の円相場、スキャルピング手法が有利か
第111回 最近主要国の金融政策(4)
第110回 最近主要国の金融政策(3)
第109回 最近主要国の金融政策(2)
第108回 最近主要国の金融政策(1)
第107回 投機筋、2週間以内での勝負多い
第106回 トランプVSハリス
第105回 来週の日銀会合、利上げは?
第104回 イベント・材料の認識から消化まで
第103回 経済指標の基本知識
第102回 勝つために情報本質の見極めは大事
第101回 押し目買いの罠
第100回 円安・円高の影響
第99回 円キャリートレードは正念場
第98回 ドル・ブル=ドル買いではない
第97回 ドル円 200円になったら
第96回 デイトレードの基本は順張り
第95回 ドル円、どこに向かうのか
第94回 FX、初心者に多い失敗例
第93回 本間宗久が残した相場の極意
第92回 基軸通貨のドル、強い
第91回 外国為替相場制度
第90回 米長期金利とドル円
第89回 RBNZ政策金利とNZドル円
第88回 日銀、利上げに踏み切るも円安
第87回 日本、「金利のある世界」に向かう
第86回 豪中銀と政策金利
第85回 トランプ氏の再選リスク
第84回 加中銀とその金融政策
第83回 英中銀とMPC
第82回 ECBと理事会
第81回 FRB 、FOMC
第80回 人民元の基準値
第79回 円キャリートレード
第78回 日銀、1月会合でマイナス金利解除を見送るか
第77回 ドル円 ゆく年くる年(2)
第76回 ドル円 ゆく年くる年(1)
第75回 ポジションの偏り
第74回 ユーロ圏、厳しい財政ルール
第73回 米国の双子の赤字、ドル相場への影響は?
第72回 日本の貿易収支
第71回 国際収支と為替(2)
第70回 国際収支と為替(1)
第69回 円買い介入警戒感が続く
第68回 FXにも山・谷がある
第67回 FX、時間軸視点も大切
第66回 PPPよりかなりの円安
第65回 購買力平価説
第64回 米大統領選とドル相場
第63回 円の実質実効為替レート、50年ぶりの低水準
第62回 実質実効為替レート、通貨の強弱が分かる
第61回 FX取引には時間・季節も影響
第60回 プロと素人
第59回 相場に入る・離れるタイミング
第58回 FX、成功する人・失敗する人
第57回 外貨預金にも使えるFX取引
第56回 FXトレードスタイル(3)
第55回 FXトレードスタイル(2)
第54回 FXトレードスタイル(1)
第53回 近年の相場の軸足
第52回 FX相場の軸足
【第51回 ドル・ユーロ・円、3大通貨に注目】
【第50回 FX、取り組みのタイミング】
【第49回 大局観下でのアプローチ】
【第48回】大局観、身につけよう
【第47回】FX取引の投資資金
第46回 相場と真摯に付き合う
第45回 金相場と為替
第44回 うわさで買って、事実で売る
第43回 原油相場と為替
第42回 金利差拡大ならお金は金利の高い国へ
第41回 貿易収支と為替相場
第40回 米国、なぜドル高にこだわるのか?
第39回 景気と為替相場
第38回 先物市場で投機筋の動きを把握
第37回 米SVB経営破綻の為替相場への影響
第36回 インフレと為替
第35回 FX、最強の参加者は?
第34回 為替レートの安定は為替ディーラーに不利なのか?
第33回 FXの自動売買取引
第32回 注目度の高い米雇用統計
第31回 リスクオン・リスクオフ取引
第30回 注目度の高い経済指標
第29回 アフリカの人気通貨 南アフリカ・ランド
第28回 安全資産・逃避通貨のCHF
第27回 2023年の為替相場
【FX、やるならお得に】第26回 年末年始の取引に注意
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【FX、やるならお得に】第2回 そもそも為替って何?
【FX、やるならお得に】第1回 敵知らずして勝利なし!

為替情報部 アナリスト

金 星

中国出身。横浜国立大学大学院卒業後、国内商品先物会社に入社。 外国為替証拠金取引会社へ出向し、カバーディール業務に携わりながら市況サービスも担当。 2013年にDZHフィナンシャルリサーチに入社。

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