資金調達方法の1つにファンタリングという手段があります。日本の商慣習では通常、受任した仕事を終えて請求書を発行します。その請求書にもとづいて先方の着金が終わるまでお金は入らず、売掛金という流動資産(短期間で償還する資産)で扱われます。
一方で企業を取り巻く支払いは待ってはくれません。最悪の場合、売上が入ってくるまでに支払が嵩み、会社が倒産してしまう可能性すらゼロではありません。ファクタリングはそのようななかで、金融機関からの融資に変わる存在意義を増してきています。
ファクタリングという言葉に持つ印象
ファクタリングは売掛請求書の買取です。ファクタリングには良い印象を持っていない方も多いです。現在サービスとして提供されている請求書の買取は法人や個人事業主に限定されており、いわゆる給与所得の対象となる給与・賞与は対象ではありません。
給与ファクタリングは「事実上」違法
給与をファクタリングの対象とすること自体が違法行為ではありません。運営会社が貸金業法に登録されれば、給与ファクタリングを業務として行うことは可能です。
これまで給与ファクタリングを行う会社はあったのですが、この貸金業登録を行わず、いわゆるヤミ金として活動しました。当然当局の訴追対象となり、2023年現在給与ファクタリングを行う会社はありません。
法人と個人事業主向けの請求書市場より、格段に市場規模が大きいはずの給与ファクタリングに、なぜ業者は貸金業法を取ったうえで参入しないのでしょうか。
ひとつは貸金業法のハードルがきわめて高く、貸金業のノウハウを有していない会社には手が届かない実情があります。当然利用者にお金を貸すという行為は様々な制約をされるべきであり、またハードルが高いからといって遵法をしなくていいという意味ではありません。
〇貸金業務取扱主任者(国家資格)の取得※一部抜粋
営業所または事務所で貸金業の業務に従事する者の50人に1人以上の人数を置くこと。
貸金業務取扱主任者は常勤の者であること。
〇純資産額
5,000万円以上(貸金業を営む期間中はこの額を下回らないこと)
〇貸付の業務の従事歴(抜粋)
申請者が法人であれば役員のなかに、貸付の業務に3年以上従事した経験を有するものがいることが条件です。
また申請者が個人であれば、申請者自身が同様の実績を有していることが必要条件となります。
〇指定紛争解決機関(ADR)
指定紛争解決機関とのあいだで手続実施基本契約を締結していることが必要です。
〇指定信用情報機関
個人向け貸し付けや個人を保証人とする場合、指定信用情報機関(JICC、CIC)に加入することが必要です。
〇登録拒否要件
貸金業法第6条第1項各号に該当しないこと(ほかの金融関連法の欠格事由など)。
また給与ファクタリングでは貸し付けた金額に対する利息も出資法を超えており、なかには100%超えの利息だったという案件もあるくらいです。このような悪徳業者がルールを守っていたのなら、給与ファクタリングは新産業として一歩を踏み出していたかもしれないため、今後の業界全体によるコンプライアンス意識の醸成に期待したいものです。
ファクタリングの売掛債権担保制度について
ここ数年はITサービスを中心にファクタリングを扱うサービサーも増え、一時のマイナスイメージから復権してきたような印象があります。法人や個人事業主がお金を借りるときの方法はきわめて限定的で、金融機関やノンバンクによる貸付が一般的です。
当然ながら金融機関は貸し付けたお金の返済力を問うため、創業間もない会社や債務超過の会社へは貸付はできません。返済力がある会社の場合も不動産担保に依存するケースも多いため、返済が想定通りに進まないと会社名義はもとより経営者の自宅を差押することが想定されます。差押にまで至ると家族が悲惨な目に合うばかりか、起業のマイナスイメージが強調される一因にもなっています。
経済産業省の中小企業庁では対策として「売掛債権担保保証制度」が創設され、国によるファクタリングの推進が始まっています。具体的にこの制度は、ファクタリングで申請できる債権を金融機関に提出できる仕組みです。金融機関から融資を受けるうえで、請求書を担保として活用できます。
一般的にいうつなぎ融資の代替といえますが、金融機関にとっても事業計画書による通常融資に比べて回収の可能性はきわめて高いものです。実はこの制度は2013年からあり、長く稼働するも浸透していない印象があります。あくまで印象論ですが、新しいものを好まない金融機関が対象、ということもあるでしょうか。
特に2023年はコロナが鎮静化する傾向にあり、経済が活性化しています。金融機関と売掛債権は短期的な改修のため、既存の資金制度の代替になることは想定できませんが、いわゆる会社経営、特に資金繰りの選択肢が広がることは社会にとっても有益です。ファクタリングを上手に活用して、復興期のビジネスが加速することを祈念します。