住宅ローン金利を0.1%にしても狙いにいく経済圏とZ世代の住宅購入

金融機関にとって住宅ローンは大きな収益源です。従来と比べ家を買わなくなった、生涯賃貸で過ごすようになったという時代の変化があっても、巨大規模を持つ市場であることは変わりありません。日銀(日本銀行)の方針変更で市況金利の上昇が遠くはないと噂されるなか、苛烈な低金利競争が続いています。各社の狙いの先に、経済圏の獲得競争が見えます。


変動金利の新規借り入れ0.169%の衝撃

2023年8月21日、auじぶん銀行とJCOM株式会社は両社の住宅ローンとJ:COMの提供サービスをセットで利用すると、住宅ローン金利が最大0.05%引き下げとなる金利優遇サービスを年内に提供開始すると発表しました。


今回の主役の1つであるauじぶん銀行はネット銀行の1つで、同業他社と比較したときに金利の低さが魅力です。特にスマートフォン(携帯電話)キャリアであるau(KDDI)ブランドとリンクし、auサービスのユーザーがauじぶん銀行の住宅ローンを申し込んだ際に適用される「au金利優遇割」を利用することで、変動金利0.2%前後の低金利の住宅ローンを提供していきました。今回はJ:COMのサービスを利用することで、新規借り入れで0.169%、借り換えで0.148%の住宅ローンが提供開始されることになります。


いっけんユーザビリティの高い方向に見えますが、それだけ提供社は利益を捨てていることは間違いありません。生涯賃貸物件派の増加も大きな課題のなかで、住宅ローン業界全体にとって健全なこととはいえない流れでもあります。そこまで傷を追って(傷を追うのがわかっているなかで)、金利を下げるにはどのような目的があるのでしょうか。



一般団信の保険料を取らないPayPay

この流れはauの属するKDDIグループに限った話ではありません。競合のソフトバンクグループも傘下のPayPay銀行にて住宅ローンを提供しています。こちらは新規借入が0.380%、借り換えが0.290%(どちらも全期間引き下げ型)とauの利率には及ばないものの、注目すべきは一般団信の保険料を取らない商品構成です。


団信(団体信用生命保険)は住宅ローン加入時に強制加入(フラット35は任意加入)の生命保険です。住宅ローンの契約者に死亡や高度障害などの万が一の事態があったときに、支給される生命保険料と住宅ローンの残債が相殺されます。つまり、残された家族が住宅ローンの支払に困ることなく、また引き続きローンの担保となった居住物件に住み続けることができる仕組みです。もちろん、住宅ローンを貸し出す金融機関にとってリスクヘッジの側面もあります。


通常、住宅ローンにおける団信の保険料はローンの契約者が負担します。商品にもよりますが、ローンの金利に団信も含まれていることが多いです。PayPay銀行では、この団信の保険料が無料となっています。つまりPayPay銀行の住宅ローンを利用すると、生命保険に無料で加入できる付帯サービスがついているという解釈です。


auもソフトバンクも、ここまで負担をしてまで何を見据えているのでしょうか。



楽天も狙う「Z世代への経済圏の獲得」

その答えは経済圏の獲得です。経済圏とは何かをPayPayで説明します。


銀行はもとより、スマートフォンにアプリでダウンロードしている本家PayPayでキャッシュレス生活を送ります。そこから派生し証券も、生命保険も同一のグループのサービスを利用します。双方の事業会社ごとに連携サービスを実施し、PayPayユーザーなら〇〇円OFF!といった攻勢をかけます。


2023年9月時点ではネガティブなニュースが先行していますが、携帯電話市場を取りにいく楽天グループが拘っているのも、この経済圏の創出です。では今回の経済圏の場合、ペルソナとなる世代はどこでしょうか。筆者は今後の社会の中心を担う、いわゆるZ世代(1990年代後半から2012年ごろの出生世代)ではないかと考えています。


Z世代の次のライフプラン需要をどこが獲得するか

Z世代を先ほどの出生世代の中央値をとって2005年とします。2023年から計算すると、今年18歳です。まさに今年高校野球の新時代到来を予感させた、慶応高校の主力がこの世代です。この世代から大学に入学し、社会に出て就職、結婚、住宅購入といったライフプランを迎えます。その時に生活に溶け込んだスマホキャリア発の経済圏があれば、提供社・提供グループにとってとても大きな武器になります。


2005年で考えると住宅ローンは早計な印象もありますが、仮にZ世代先頭の1995年とすると2023年時は既に28歳です。まさに住宅購入のニーズが高まった際に、auやソフトバンクのCMのように「住宅ローンか。あ、PayPayでも簡単に申し込めるのか」という流れが成立します。理想的な展開は他社のノーチェックです。


そのための先行投資は、これまでの常識では測れない利用者特典を以って、我々を驚かせています。

独立型ファイナンシャルプランナー

工藤 崇

株式会社FP-MYS 代表取締役 1982年北海道生まれ。相続×Fintechサービス「レタプラ」開発・運営。2022年夏より金融教育のプロダクト提供。上場企業の多数の執筆・セミナー講師の実績を有する独立型ファイナンシャルプランナー(FP)。

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