3月FOMC、25bp利上げを決定も金融不安燻り慎重姿勢

3月FOMC声明文「継続的な利上げ」を削除、利上げ停止を示唆


3月21~22日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、市場予想通りFF誘導金利目標を25bp引き上げ4.75~5.0%に設定した。2022年3月の25bp(1bp=0.01%)、同年5月の50bp、同年6~11月の4回連続75bp、同年12月FOMCでの50bp、23年2月の25bpに続き、今回のサイクルで9回目の利上げとなる。3月10日のシリコンバレー銀行破綻やクレディ・スイスの経営難に直面しつつ、インフレ抑制の姿勢を崩さず利上げを継続した。


今回の声明文では、主にウクライナ侵攻に関する文言を削除し、金融不安に配慮する文言へ差し替えた。また、インフレに関する文言も高止まりする状況から上方修正した。何より今回「継続的な利上げは適切」との文言を削除し、経済金利見通しに合わせ利上げ打ち止めが近いことを示唆した。注目の経済・金利見通しを始め、詳細は以下の通り。

【経済・金利見通し】


経済見通しのうち、注目ポイントは以下の通り。なお、ブレイナードFRB副議長がNEC委員長に就任したため、FOMC参加者は前回の19名から18名へ減少した。


・成長率は2023~24年につき、前回に続き下方修正。制約的な金融政策と金融不安を反映したとみられるが、景気後退入りは予想せず。2025年の予想はむしろ上方修正しつ、潜在成長率の2%に一歩近づいた。

・失業率は、成長率予想の引き下げに反し2023年は下方修正、2024年は据え置いたが、2025年は弱い方向へ修正した。

・物価見通しは、インフレ高止まり警戒に合わせコアを中心に上方修正。2024年のPCEと2025年のPCEとコアPCEは据え置かれ、引き続き目標値2%をわずかに上回る水準を許容する構えが示されたと言えよう。


チャート:3月FOMCの経済金利見通し

 


【ドットチャート】


・全体的に平均値が上方修正されており、金融不安よりインフレ抑制を最優先に掲げるFOMC参加者が多い可能性を示唆した。長期金利で2.25%を予想する参加者が1人減ったように、ブレイナード氏の退任によりハト派が1人減ったことが一因とみられる。

・2023年は、従来の5.125%で変わらず。5.125%(FF金利誘導目標レンジ:5.0~5.25%)予想が18名中10名と過半数を維持した。一方で、5.375%以上を予想する参加者は7名と前回と一致。ただし、上限予想値が5.875%と、前回の5.625%から引き上げられた。

・2024年は、従来の4.125%→4.3Ⅶ5%へ上方修正。平均値も従来の4.296%→4.403%へ上方修正され、3.875%以下を予想するハト派のFOMC参加者以外の一部が予想を引き上げたことが影響した。結果、18名のうち利下げ転換を見込む参加者は14名と、前回の16名から減少した。

・2025年は、従来の3.125%で据え置き。中央値を上回る水準を予想する参加者は7名と、前回の8名から減少した。


チャート:ドットチャート、長期見通しを含め全て上向きにシフト

 


・長期見通しは2.5%で据え置いた。


チャート:長期見通し、それぞれの見通しにやや変更があったものの3回連続で中央値は2.5%

 


パウエルFRB議長「銀行システムは健全で強靭」、量的引き締めは継続へ


【パウエルFRB議長の記者会見、質疑応答のポイント】


〇冒頭の原稿


米銀破綻問題

「過去2週間において、少数の銀行で深刻な問題が発生した。歴史が示すように、対応しなければ健全な銀行の信頼が損なわれ、銀行システムが担う家計や企業の貯蓄や信用へのニーズを支える重要な役割が脅かされうる。だからこそ、Fedは米財務省や米連邦預金保険公社(FDIC)と協力し対応し、米経済を守るべく断固とした行動を取り、銀行システムに対する公共の信頼強化に努めた」

「銀行システムは健全で強靭であり、力強い資本と流動性を有する」

「我々は、銀行システムの動向を注意深く監視し続け、安全かつ健全とすべく必要ならばあらゆる手段を講じる」

米経済

「米経済は昨年の急速な拡大ペースから大幅に鈍化し、実質GDP成長率は潜在成長率を下回る0.9%だった」「ほぼ全員の参加者は、成長率の下方リスクを見込む」


個人消費

「個人消費の伸びは今期回復したようにみえるが、天候要因が影響した可能性がある」

住宅市場

「住宅市場は住宅ローン金利を反映し、対照的に引き続き弱い」

企業活動、輸出

「金利上昇と生産の伸び鈍化は、企業の固定資産投資の重石となっているようだ」

労働市場

「成長鈍化にも関わらず、労働市場は極めてひっ迫し続けている。雇用の伸びは過去3カ月間で平均35.1万人増加した」

「労働参加率は足元で小幅上昇し、賃金の伸びは鈍化の兆しがみえる」

「FOMC参加者は、労働の需給がいずれより良い均衡点に達し、賃上げ圧力が緩和すると見込む」

物価

「物価は目標値の2%を依然として大きく上回っている」

「インフレは2022年半ばから、いく分鈍化したが、力強い数字を踏まえるとインフレ圧力は依然として高い」

「インフレ率を目標値の2%に回復させるには長い道のりが待ち構え、浮き沈みが激しくなりそうだ」


金融政策

「過去2週間の銀行システムにおける出来事により、家計や企業の信用動向がひっ迫し、それが経済効果に影響を与えると信じている。こうした影響がどの程度か、また金融政策でどのように対応するかを決定するには時期尚早だ」

「だからこそ、我々はもはやインフレを抑制すべきく”継続的な利上げが適切”とは言及せず、その代わり、いく分の追加的利上げが適切な可能性があると明記した」

「我々は今後入ってくるデータを注意深く監視し、経済活動、労働市場、インフレに与える実際且つ予想される影響を評価し、金融政策の決定にこれららの評価を反映させる」

「FF金利見通しは前回と概ね変わらないが・・仮に経済が予想通りに進展しなければ、政策の道筋は雇用の最大化と物価安定を支援すべく適切に調整する」

「我々は入手するデータ、並びに経済活動とインフレの見通しが与える意味など全体に基づき、会合毎に政策を決定する」


〇質疑応答


年内の利下げの可能性について

「最もありうるシナリオとして・・・FOMC参加者は年内の利下げを見込んでいない。もちろん、経済は不確実性が存在するが、利下げは、メインの見通しではない」

「(金融環境が引き締まりをみせているため、利下げが必要ではとの質問に対し)伝統的な指標は金利や株式に集中しており、貸出や状況を必ずしも捉えていない」

「問題は、(金融環境の引き締まり)どの程度の規模になるのか、そしてその期間はどの程度になるのかということだ」


利上げの可能性について

「必要ならば、金利を引き上げる・・・しかし、現時点では信用収縮の可能性をみており、マクロ経済に影響を与えると理解している」

「さらなる利上げを考える際には、警戒が必要であることを意味する」


SVB破綻、金融不安について

「FRBの銀行監督担当者は、リスクを察知して介入した」

「監督並びに規制を強化する必要があり・・・銀行システムに広範な脆弱性はない」

「銀行システムにおける預金の流れは先週の間に落ち着いた」

「SVBの破綻はひどいもので、顧客を流動性リスクと金利リスクにさらした」

「(SVB破綻について)私の唯一の関心は、何が問題だったかを特定することだ」

「SVBのケースは例外的」

「我々は預金を保護する手段を有しており、経済や金融システムに深刻な害を及ぼす脅威が発現した時には、それらを駆使する用意がある。預金者は預金が当然安全だとみなすべきだ」

「クレディ・スイスの買収は奏功したようで、現時点で落ち着いた動向に」


保有資産について

「新たな流動性供給措置により保有資産の規模が拡大しても、金融政策の姿勢変更の意図はない」

「保有資産をめぐる変更は協議しなかった」

「準備金が変動した場合に常に対応すべく備えているが、これまでのところその証左は見当たらない」


チャート:連銀の窓口貸出、3月15日時点で1,528億ドル増加、リーマン・ショック時で最高の1,107億ドルを超え過去最大

 


チャート:Fedの保有資産、3月15日に約2,970億ドル増加

 


米経済について

「(米銀破綻などの)事象がどのような影響をもたらすのか、言及するのは時期尚早だ」

「とはいえ、(ソフトランディングが可能かとの質問に)道筋はまだ存在し、我々は当然それを探っている」


インフレについて

「ディスインフレは確実に起こっている」

「住宅を除くコアサービスのインフレに緩和の兆しは依然としてみられない」


市場は年内3回の利下げを予想、米銀破綻問題で米債務上限交渉が難航も!?


以上、今回のFOMCで重要なポイントは、以下の通り。

・「継続的な利上げ」を削除し「いく分の追加的な利上げ」へ修正したように年内あと1回の0.25%利上げを予想

・ただし「いく分の追加的な利上げの可能性(may)」とし、「継続的な利上げ」に掛かった「will」からトーンダウン、5月2~3日開催のFOMCで据え置きの余地を残す

・年内の利下げは、想定せず

・保有資産の縮小を継続へ、今回の利上げと合わせインフレ抑制への姿勢を打ち出した格好

・一方で、米銀破綻を受け信用収縮を予想し、経済や労働市場、インフレを圧迫しうると見込む

一連の結果並びにパウエル氏の発言に反し、3月22日時点で3月で利上げ打ち止め、7月の利下げ転換、9月と12月の追加利下げと合わせ年内は3回の利下げが織り込まれています。


チャート:年内は3回の利下げを予想

 


金融市場は、銀行問題をめぐり事態の収束を見込んでいない様子が伺えます。筆者は、融資基準の厳格化→ベンチャーやスタートアップを中心とした企業の資金繰り悪化→景気減速の打撃と業績不振→採用凍結 or 解雇→景気悪化――といった負の連鎖に陥るリスクが残るだけに、楽観するのは時期尚早と見込みます。


また、銀行破綻をめぐりバイデン政権率いる民主党と共和党が真っ向から対立している点も、気掛かりです。米債務上限引き上げ交渉が難航し、7月頃に金融市場を直撃する恐れがあります。ウォール街が7月以降に利下げを織り込むのは、そうした事情も意識されているのではないでしょうか。


ストリート・インサイツ

金融記者やシンクタンクのアナリストとしての経験を生かし、政治経済を軸に米国動向をウォッチ。NHKや日経CNBCなどの TV 番組に出演歴があるほか、複数のメディアでコラムを執筆中。

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