新たな米景気後退のサイン点灯?ー破産申請件数が急増

ノーランディング観測から一転、米景気後退懸念が再燃


「ノー・ランディング」とは、米1月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)が前月比51.7万人増と6カ月ぶりの力強い伸びを達成した直後から徐々に広まった言葉です。同じ頃、ニューヨーク・タイムズ紙は2月9日に“何が景気後退だ、成長回復を予想するエコノミストも”と題した記事を掲載していましたっけ。


しかし、足元ではシリコンバレー銀行(SVB)の破綻を引き金に楽観見通しから一転、改めて米景気後退懸念が再燃しつつあります。


米景気指標では、弱さが浮かび上がり始めました。米3月ISM製造業景況指数は46.3と、コロナ禍を除けば2009年以来の水準へ落ち込みました。5ヵ月連続で景気判断の基準となる50を割り込んだだけでなく、新規受注に至っては過去10カ月間で9回目の分岐点割れを迎えています。米3月ISM非製造業景況指数も51.2と前月から低下しただけでなく、仕入れ価格が約3年ぶりの水準に下振れし、米経済の約7割を担うサービス業での需要の低下を確認しました。ISMの製造業及びサービス業の景況指数は50割れが景気拡大・縮小の分岐点とされ、サービス業の場合は分岐点割れリセッション入りのサインとして機能していた過去に留意したいところです。


チャート:米ISM非製造業景況指数、50割れはリセッション入りのサイン

 


そのほか消費者センチメントも弱まり、米3月ミシガン大学消費者信頼感指数・確報値は62.0と3カ月ぶりの水準に低下していました。ミシガン大学の消費者調査担当ディレクターのジョアン・シュー氏は、結果を受け、シリコンバレー銀行の経営破綻などの金融不安の影響について「限定的」と指摘しつつ、「全体的に消費者が景気後退を予期する傾向が強まっていることを示す複数の兆候が明らかになった」とコメント。さらに「低所得者、低学歴、若年層、及び株式保有高が上位で最も落ち込みが激しくなった」と振り返ります。


チャート:米3月ミシガン大消費者信頼感、1年先インフレ期待は下振れもセンチメントは低下

 


SVB破綻を挟み、増える破産申請件数


何より、SVB破綻直後の3月から米企業の破産申請件数が急増している点に留意したい。米法務サービス大手エピックが発表した米3月破産申請件数(個人、企業を含む)は前年同月比17%増の4万2,368件と、2021年4月以来の高水準でした。企業部門は同24%増の2,305件で、そのうち日本の民事再生法に相当するチャプター11は同79%増の548件(中小企業保護を狙ったサブチャプター5含む)。チャプター11の件数自体は、1月の257件、2月の373件から急増しました。個人の破産申請件数も、前年同月比17%増の4万63件と、1月の3万1,087件、2月の3万193件をそれぞれ大きく上回っています。企業や個人が、長引く高インフレや金利上昇による負担増に喘ぐ状態を映し出します。


企業の破産申請と言えば、4月3日、英国の富豪リチャード・ブランソン氏率いるヴァージン・オービット社がチャプター11を申請しました。同社は、大分空港で水平型宇宙港として人工衛星の打ち上げを計画、経済波及効果は102億円に上ると試算されていましたよね。米国での破産申請の増加が、対岸の火事でない証左です。


1月に発表された2022年Q4の上級銀行融資担当者調査では「貸出金利を引き上げた」、「貸出基準を厳格化した」、「貸出金利を引き上げた」との回答が44.8%と2020年Q2以来の水準へ上昇しました。過去の動向をみると、これらの回答が40%を超えると景気後退に陥っていた点に注目すべきです。


チャート:銀行融資担当者調査、金融不安の発生前から貸出基準は厳格化され貸出金利も引き上げ

 

金融不安が蔓延する以前から銀行は融資という蛇口を絞っており、今後さらに企業の破産申請件数が増加してもおかしくありません。


ストリート・インサイツ

金融記者やシンクタンクのアナリストとしての経験を生かし、政治経済を軸に米国動向をウォッチ。NHKや日経CNBCなどの TV 番組に出演歴があるほか、複数のメディアでコラムを執筆中。

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