【米国株かんたんナビ】金融セクター(後編):ウォール街を代表する金融機関がずらり

S&P500は米国の主要産業を代表する500社で構成される株価指数です。構成銘柄の採用には時価総額や株式の流動性だけでなく業績も考慮されるため、優良銘柄が多いことも特徴の1つです。


構成銘柄は情報技術(IT)、ヘルスケア、金融、コミュニケーション・サービス、一般消費財、資本財、生活必需品、エネルギー、公益、不動産、素材の11セクターに分類され、各々セクター指数も算出されています。


時価総額1000億ドル超が10銘柄

11に分類されるセクターのうち、今回ご紹介するのは金融セクターです。構成銘柄は73を数え、時価総額のベスト10はバークシャー・ハサウェイ(BRK)、ビザ(V)、JPモルガン・チェース(JPM)、マスターカード(MA)、バンク・オブ・アメリカ(BAC)、モルガン・スタンレー(MS)、ウェルズ・ファーゴ(WFC)、アメリカン・エキスプレス(AXP)、S&Pグローバル(SPGI)、チャールズ・シュワブ(SCHW)となります。


金融セクターを構成する73銘柄の中で2023年4月4日時点の時価総額が1000億ドル(約13兆2000億円)を超えるのは10銘柄に上ります。



ビザとマスターカードは「情報技術セクター」のコラムでご紹介しましたが、S&P500のセクター分類の基準となるグローバル産業分類標準(GICS)の分類方法変更に伴い、金融セクターに組み込まれています。


金融セクターの前編では時価総額で首位のバークシャー・ハサウェイを取り上げましたので、今回はウォール街を代表する大手の金融機関をご紹介します。


こうした米国の金融大手は日本のメガバンクに比べ、証券を取り扱う投資銀行的な業務の比重が大きいという特徴があります。金融をめぐる日米の異なるスタンスがその背景です。


家計の金融資産、米国では株式などで積極運用

日本銀行がまとめた2022年12月末時点の資金循環統計によると、日本の家計の金融資産は2023兆円に上り、現金・預金の割合は55.2%に達しています。株式の比率は9.9%と1割にも満たず、投資信託は4.3%にすぎません。



また、民間の非金融企業の金融負債の構成比では、株式などが51.7%と最も大きいのですが、借り入れが26.5%とかなりの比重を占め、社債などの債務証券は4.9%にとどまっています。つまり一般家庭が銀行に預金し、銀行がそのお金を企業に貸し出すという循環が依然として本流として残っているのです。


一方、米連邦準備理事会(FRB)がまとめた2022年12月末の統計によると、米国では家計の金融資産が110兆7100億ドルに上りますが、現金・預金の割合はわずか13.9%です。株式などが39.2%と最も大きく、投資信託が11.2%、債務証券が4.1%と積極的な投資で資金を運用している実態が反映されています。



民間の非金融企業の金融負債の構成比では、株式などが65.2%と最も大きく、社債などの債務証券が10.1%です。借り入れはわずか7.0%。一般家庭から銀行に入る預金の流れは相対的に細く、このため企業向け融資の比率も低いのです。


企業が株式や債券などを発行して資金を調達する直接金融に不可欠な存在が投資銀行です。株式や投資信託など国民の間に投資への意識が根づいている米国だからこそ投資銀行の存在感が大きいと言えそうです。


JPモルガン・チェース、世界有数の総合金融サービス会社

金融セクターの時価総額の3位はJPモルガン・チェースです。米国で最大級、世界でも有数の総合金融サービス会社で、投資銀行、プライベート・バンキング、資産運用、コマーシャル・バンキングなど事業は多岐にわたります。


ビジネスは消費者や中小企業向けのリテール業務に相当する「コンシューマー・ビジネス」と大企業や機関投資家などを対象とする「ホールセール・ビジネス」に大きく二分されます。


前者は「消費者&コミュニティ銀行業務」というセグメントに入り、消費者や中小企業向けの銀行業務、資産管理業務、住宅ローン、クレジットカードサービスなどが主な業務です。2022年12月期決算では売上高に相当する純営業収益に占める割合が42%です。



ホールセール・ビジネスは、「法人・投資銀行業務」、「商業銀行業務」、「資産管理業務」の3つに分かれます。「法人・投資銀行業務」は投資銀行サービス、資金決済、貸し付け、資本市場業務などを手掛け、全体の純営業収益に占める割合は36%です。


「資産管理業務」は法人向けの資産運用やプライベート・バンキングといった事業を手掛け、全体の純営業収益に占める割合は13%。「商業銀行業務」は中堅企業や政府機関に向けた銀行サービスに加え、不動産融資などが中核事業で、全体の純営業収益に占める割合は9%です。


2022年12月期決算は売上高に相当する純営業収益が前年比5.8%増の1286億9500万ドル、純利益が同22.1%減の376億7600万ドルでした。金利の上昇を背景に利ざやが広がり、純金利収入は27.5%増の667億1000万ドルに伸びましたが、不良債権処理費用が63億8900万ドルに達し(前年は92億5600万ドルの戻し入れ)、減益となりました。


バンク・オブ・アメリカ、合従連衡で規模拡大

金融セクターの時価総額の5位はバンク・オブ・アメリカです。合従連衡を繰り返して規模を拡大させており、リーマンショックが起きた2008年には大手投資銀行のメリルリンチを買収しています。


セグメントは「消費者銀行業務」「富裕層資産運用&投資管理」「グローバル銀行業務」「グローバル市場業務」の4つです。2022年12月期決算によると、純営業収益に占める割合はそれぞれ41%、23%、23%、19%でした。


2008年にメリルリンチを買収した後は投資銀行部門やトレーディング部門で「バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチ」というブランドを使用していましたが、段階的に「メリルリンチ」ブランドを廃止し、いまは資産運用事業の一部に「メリル」の名称が残るだけになっています。



2022年12月期決算は純営業収益が前年比6.6%増の949億5000万ドル、純利益が同13.9%減の275億2800万ドルでした。「消費者銀行業務」と「富裕層資産運用&投資管理」はそれぞれ小幅ながら増収増益を確保しましたが、投資銀行業務や法人向け業務を中核とする「グローバル銀行業務」と資本市場業務などを手掛ける「グローバル市場業務」が減収減益と苦戦しました。


モルガン・スタンレー、長い歴史を持つ投資銀行

金融セクターの時価総額の6位はモルガン・スタンレーです。長い歴史を持つ投資銀行で、投資銀行業務の比重が極めて高いのが特徴です。2022年12月期決算の純営業収益に占める純金利収入の割合はわずか17%で、助言サービスや資本市場サービス、資産管理などのビジネスに強みを持ちます。


2022年12月期決算は純営業収益が前年比10.2%減の536億6800万ドル、純利益が同26.6%減の110億2900万ドルでした。


金融セクターの時価総額の7位はウェルズ・ファーゴです。伝統的にリテール業務や法人向けの貸し出しなどに重点を置き、証券の引受業務やトレーディングといった投資銀行業務には強みを持っていませんでした。


実際、2022年12月期決算の純営業収益に占める純金利収入の割合は61%に達し、JPモルガン・チェースの52%、バンク・オブ・アメリカの55%を上回っています。ただ、ウェルズ・ファーゴは投資銀行業務を強化する路線を打ち出し、着実に歩を進めているようです。


2022年12月期決算は純営業収益が前年比6.0%減の737億8500万ドル、純利益が同38.8%減の131億8200万ドルでした。

中国株情報部

島野 敬之

出版社を経て、アジアの経済・政治情報の配信会社に勤務。約10年にわたりアジア各国に駐在。 中国株二季報の編集のほか、個別銘柄のレポート執筆を担当する

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