2023年4月、日本銀行(日銀)新総裁に植田和男氏が就任しました。前総裁の黒田氏の掲げた金融緩和策を踏襲しつつ、次第に新総裁ならではの独自色を有した施策が示唆されています。
代表的なものが、日銀による長短金利操作を示すイールドカーブ・コントロール(YCC)です。長短期の金利をコントロールするために2016年に導入されました。現在、日本の短期金利はマイナス金利が導入されています。長期金利は市場(の意思)に任せる原則のなかで、日本では短期金利の施策に引きずられ長期金利も低下傾向を示しました。
YCCは生命保険会社や金融機関の運用にも大きな影響がある長期金利の下落を抑えるために、日銀自身が膨大な長期国債(10年物日本国債)を大量購入し、長期金利を抑制していました。
2023年6月にYCC解除の予測
総裁に就任した植田総裁をはじめ、新しく副総裁に就任した内田氏、氷見野氏も積極緩和論者ではない、いわゆる非リフレ派とされています。
当然ながら、現行の金融緩和策を推進しない考えだからといって就任直後に大転換をしては日本経済におけるハレーションは甚大です。そのため、まずはタイミングを見て、YCCの解除が実施されると見られています。
実際に某大手証券会社の研究機関が「YCC解除は2023年6月の見込み」と打ち、金融業界で話題を呼んでいます。2023年6月15日・16日に日銀では金融政策決定会合が予定されています。ここでYCCの解除(若しくは柔軟化という言葉になる可能性も)が行われ、約7年におよんだ日銀介入の一定の区切りになると見られています。
さて、YCCが解除方向となるなかで、我々の生活にはどのような影響があるのでしょうか。予測されているのは、住宅ローン金利への影響です。
住宅ローンの新規借り入れと借り換えは6月前に?
住宅ローンの金利は、変動金利が日銀の政策金利の影響を受けます。一方の固定金利は、日本国債10年物の利率推移を大きく受けるといわれています。つまりYCC実行下では、変動金利も固定金利も上昇リスクが抑制されてきました。
6月にYCCが解除されると、それぞれの金利は1%前後上昇するとの予測も専門家界隈からは聞こえてきます。2023年4月現在のフラット35の新規借入金利は長期借入(21年~35年)で1.7%から1.9%です。この利率が1%上がるとすれば住宅ローンの新規借り入れ、かつ住宅ローンの借り換えの意思決定周りは大きく変わると予想されます。
固定金利の駆け込み需要が発生するか
2023年現在、住宅ローン借入者の大半は変動金利の利用希望です。属性にもよりますが、変動金利は0.2%~1.0%台と、固定金利とは大きな差があります。本来の原則に立ち返ると、変動金利は短期的な市況、固定金利は長期的な市況が影響します。
変動の不透明性を回避しつつ、固定金利が上がり始める前に長期固定で値上がりリスクを予防する。そのような見立てで固定金利の駆け込み需要が発生する可能性が考えられるでしょう。
またはYCC解除によって変動・固定ともに値上がり局面に変わりつつ、金利上昇に冷却化の見える住宅ローン市場のシェアを取りたい金融機関間によって行われる「やせ我慢風」の金利維持が展開され、変動金利のなかで勝者が決まる可能性も残ります。ブランディングに長けたネット銀行勢が変わらず実力を見せつけていくでしょうか。
もうひとつの市場はローン借り換え
YCC解除によって大きな影響が現れそうなのは、新規の住宅ローン借入だけではありません。既にローンを借りている方からの借り換えニーズが発生します。この場合は数年前にベストの選択として変動・固定を選んだはずが、状況が変わり借り換えを選ぶケースです。
住宅購入時には育児休業中で夫婦が契約者(もしくは連帯保証人)の申込は難しかったものの、現在は復職も済み、条件の良いネットバンクに変えられるケースや、団信(団体信用生命保険)の見直し、転職の結果生じた適用利率の引き下げなどが考えられます。
やはりYCC解除のあと全体的な利率の底上げが生じるならば、これら属性による優位性が無くなることが読めるため、借り換え動機に繋がるでしょう。
ライフプランを意識することが大切
いずれにしてもローン借入(&借り換え)の当事者としては、ここから6月の会合まで、気の抜けない日々が続きます。唯一安心できるのは、YCC解除が実際に報じられてから金融機関のローンに波及するため、いわゆる株価推移のような「先読み」の可能性は低いことです。
だからこそ大事なのは、目の前のマクロな数字のみを過剰意識することなく、ライフプランに即した住宅ローン金利の適用を意識したいことです。NISAや単元株運用をしていても、このあたりの家計の投資ごとにはきわめて無頓着な方も目立ちます。家族としっかり話し合って、対策を整備していきましょう。