S&P500は米国の主要産業を代表する500社で構成される株価指数です。構成銘柄の採用には時価総額や株式の流動性だけでなく業績も考慮されるため、優良銘柄が多いことも特徴の1つです。
構成銘柄は情報技術(IT)、ヘルスケア、金融、コミュニケーション・サービス、一般消費財、資本財、生活必需品、エネルギー、公益、不動産、素材の11セクターに分類され、各々セクター指数も算出されています。
時価総額1000億ドル超が9銘柄
11に分類されるセクターのうち、今回ご紹介するのは資本財セクターです。構成するのは76銘柄で、S&P500に占めるウエートは8.4%に達しています。
時価総額のベスト10はユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)、レイセオン・テクノロジーズ(RTX)、ハネウェル・インターナショナル(HON)、ボーイング(BA)、ユニオン・パシフィック(UNP)、ロッキード・マーチン(LMT)、ゼネラル・エレクトリック(GE)、ディア&カンパニー(DE)、キャタピラー(CAT)、オートマチック・データ・プロセッシング(ADP)となります。
貨物輸送、航空・防衛、オートメーション機器、産業部品、貨物鉄道、農業機械、建設機械、重電などを主力事業とする銘柄が並びます。ほとんどが創業100年以上の「100年企業」で、首位のユナイテッド・パーセル・サービスの創業は1907年、2位のレイセオン・テクノロジーズは前身企業の創業が1922年です。
オートメーション機器のハネウェル・インターナショナルや貨物鉄道のユニオン・パシフィック、農業機械のディア&カンパニー、そして発明王エジソンの流れをくむゼネラル・エレクトリックは19世紀に誕生しています。19世紀後半~20世紀前半に創業し、米国の産業界を支えてきた企業ばかりで、創業70年超のオートマチック・データ・プロセッシングが新しい会社に思えるほどです。
株式市場への上場も1892年のゼネラル・エレクトリックは別格としても1920-30年代に上場した企業が目立っています。
先行者利益があるとはいえ伝統にあぐらをかいていては厳しい競争を勝ち抜けるはずはありません。いつの時代も卓越した先見性を持ち、絶え間なくイノベーションを繰り返してきた企業ばかりとみるべきでしょう。20世紀の世界恐慌や第2次世界大戦、金融危機など激動の現代史という荒波を乗り越え、今なお世界的な大手であることは特筆に値します。
資本財セクターを構成する76銘柄の中で2023年5月16日時点の時価総額が1000億ドル(約13兆6000億円)を超えるのは9銘柄に上ります。
ユナイテッド・パーセル・サービス、小口貨物輸送の最大手
資本財セクターの時価総額で首位に立つユナイテッド・パーセル・サービスは、米国内の小口貨物輸送の最大手です。国内の宅配業務に圧倒的な強みを持ち、即日配送や翌日配送、時間指定などに対応しています。
2022年の1日当たりの平均貨物配送数は2079万個で、トラックやワゴン、二輪車などの配送用の車両数は約12万5000台に上ります。2022年12月期決算では、国内パッケージ貨物部門の売上高が前年比6.5%増の642億900万ドル、営業利益が同8.7%増の69億9700万ドル達しており、全体に占める割合はそれぞれ64%、53%です。
グループ内で国内パッケージ貨物部門に次ぐ規模を持つのは国際パッケージ貨物部門で、2022年12月期の売上高に占める割合は20%、営業利益に占める比率は33%です。欧州やアジア、中東、アフリカ、カナダ、中南米など220を超える国・地域に貨物を配送しています。1日当たりの取扱量は350万個に上ります。
運航する航空機の数は2022年末時点で291機。ケンタッキー州ルイビルを拠点に米国内の主要空港をはじめ、ドイツ、中国本土、香港、カナダなどの空港を地域ハブとして活用しています。
3つのセグメントのうち規模が最も小さいのがサプライチェーン・ソリューション部門で、売上比率が16%、営業利益比率が14%です。航空貨物のフォワーディング、通関業務、トラック輸送の仲介業務、物流サービスなどを提供します。航空機やトラックなどの輸送手段をはじめ、国際的なネットワークを持つ点が強みになっています。
小口貨物輸送ビジネスはネット通販の隆盛を受けて需要が急拡大しました。ユナイテッド・パーセル・サービスの売上高は12年間で倍増し、2022年12月期には1000億ドルの大台に乗っています。ただ、アマゾン・ドットコム(AMZN)は自社の物流部門の強化を推し進めており、かつての大口顧客がライバルに転身する見通しです。
ユニオン・パシフィック、米国最大級の貨物鉄道
時価総額の5位も貨物輸送を手掛ける事業者です。貨物鉄道を運営するユニオン・パシフィックの前身企業の創業は南北戦争の真っ只中の1862年。奴隷解放を掲げるリンカーン大統領が「パシフィック鉄道法」に署名し、誕生しました。
貨物鉄道としては米国で最大級で、米国西部と中西部、南部の計23州を結んでいます。鉄道の総延長は3万2530マイル(約5万2360キロメートル)。地球1周を優に上回る長さです。
主な貨物は穀物、肥料、食品、石炭、工業化学品、金属・鉱物、木材、エネルギー製品、自動車などです。2022年12月期決算は売上高が前年比14.1%増の248億7500万ドル、純利益が同7.3%増の69億9800万ドルと着実に成長しています。