中国株への投資を始めてみたいけど、どんな銘柄に投資していいか分からない――。そんな場合は、身近にある上場企業に投資してみるというのも一つの手です。そこで今回は、意外と身近にある中国株というテーマで、身近にある中国株の銘柄を紹介したいと思います。日本でも意外と中国株銘柄の商品やサービスを探すことができます。今回は街中で中国株銘柄を探してみました。
溜溜梅、6月に香港市場に上場 初日は194%高を記録
今回見つけたのは、日本の街中でも意外とよく見かける「あるお菓子」を手掛ける企業です。実はその企業、2026年6月15日に香港証券取引所へ上場を果たしたばかりの、今まさにマーケットで多くの注目を集めている銘柄の一つ、溜溜梅(リューリューメイ:06658)です。
長年の準備を経て満を持して上場した同社ですが、上場初日の終値は公開価格比194%高の128HKドルという記録的上昇率を見せ、市場関係者を驚かせました。一見すると地味に見えるお菓子メーカーですが、香港の株式市場では今、非常に高い関心を集めている存在なのです。

同社の製品 出所:同社目論見書
日本の街中で見かける「緑のパッケージ」の正体
では、この溜溜梅という会社、私たちの生活のどこに隠れているのでしょうか。実は、日本の「業務スーパー」や、池袋・新大久保といったエリアにある「中華物産店」を訪れた際、レジ横や菓子コーナーで、鮮やかな緑色のパッケージに漢字で「溜溜梅」と書かれた個包装の梅菓子を見かけたことはないでしょうか。
一見すると、少しマニアックな輸入菓子のように思えるかもしれません。しかし、日本の伝統的な塩辛く酸っぱい「梅干し」とは異なり、熟す前の「青梅」を使った甘酸っぱくてフルーティー、おやつ感覚でパクパク食べられるその味わいは、日本の若者の間でも「一度食べると止まらなくなる」とひそかにファンを増やしています。この身近なお菓子こそが、中国のスナック菓子業界で着実な進撃を続けてきたトップブランドの商品なのです。

中華物産店の商品棚に陳列された同社製品
中国青梅スナック界のトップランナー
この不思議な中毒性を持つ梅菓子を製造している同社は、中国の梅スナックや乾燥果実の分野において、高い市場シェアを持つ業界のリーディングカンパニーです。同社の目論見書によると、2024年の果実系スナック市場において、同社は小売売上高ベースでシェア4.9%を占めて首位となりました。さらに、青梅スナック分野に限定するとそのシェアは24.2%に達しており、名実ともに市場をリードするトップランナーとなっています。
定番の乾燥梅(梅乾)だけでなく、近年では日本でも人気の高い蒟蒻ゼリーのような食感の「梅凍(梅ゼリー)」や、ソフトキャンディ、梅ドリンクなど、若者のトレンドに合わせたヒット商品を次々と連発。たった一種類の「梅」という果実を徹底的に深掘りすることで、激しい競争が繰り広げられる中国のスナック市場において、唯一無二のポジションを確立したパイオニアなのです。

創業者・楊帆氏の波乱万丈な「下海」と執念の道のり
これほどの巨大ブランドを築き上げたのは、創業者の楊帆氏です。彼の歩んだ道のりは、まさに中国の経済成長期を象徴するような波乱万丈のサクセスストーリーでした。
1969年、安徽省蕪湖の貧しい農家に生まれた楊帆氏は、1988年に高校を中退します。彼はわずか50元の現金だけをポケットに詰め込み、成功を夢見て単身北京へと向かいました。いわゆる「北漂」です。学歴もなく、お金もない異郷の地での生活は過酷を極め、日々の食事にも困るほど困窮しました。しかし、彼には人並み外れた観察力と行動力がありました。北京の消費水準が他の都市より遥かに高いことに気づいた彼は、学歴不問で、口上手と度胸さえあれば稼げると、未経験から飛び込みのセールスマンとして働き始めます。
この決断が彼の人生を変えました。1990年代初頭の北京は空前の消費ブームに沸いており、彼の優秀な営業手腕も相まって、わずか3年で平社員から地区マネジャーへと昇進。ここでビジネスの原資となる人生最初の元手を稼ぎ出すことに成功します。
その後、自ら貿易会社を立ち上げて独立し、会社を年商1000万元(約2億円)規模にまで成長させました。しかし、1990年代末になると北京の商貿易競争は激化の一途をたどり、独自の強みを持たない小規模な貿易会社は淘汰される危機に直面します。そこで楊帆氏は1997年、自ら立ち上げた会社を売却し、故郷である安徽省蕪湖へ戻って再起を図るという苦渋の決断を下しました。
故郷に戻った彼は、キャンディやお菓子などを製造する食品工場を設立します。しかし、最初は特徴もブランド力もないどこにでもあるお菓子しか作れず、経営はパッとしませんでした。そんな彼に一筋の光を与えたのが、2001年に出会った「青梅」でした。彼の故郷である安徽省は、中国でも有数の青梅の産地であり、特に黄山の青梅は「天下第一の梅」と称されるほど、酸味が爽やかで果汁が豊富なことで知られていました。しかし当時、この素晴らしい地元の特産品には、全国に通用するようなブランドが一つも存在していなかったのです。

「青梅」との出会いが今につながる
ブランドに込めた破釜沈舟の決意と「洗脳CM」の魔法
なぜ青梅を使ったブランドが存在しないのか。楊帆氏が調査すると、明確な理由が見えてきました。中国の消費者は基本的に果物に対して「甘さ」を求めます。生で食べると強烈に酸っぱい青梅は、生鮮市場では敬遠されがちで、加工されたドライフルーツとして細々と消費されているに過ぎない地味な存在だったのです。
2001年から青梅の加工品の生産を始めたものの、数年間は売れない日々が続きました。転機が訪れたのは2005年のことです。この年、中国では違法な廃油や衛生環境の悪いジャンクスナックといった食品安全上の不祥事が次々とメディアで暴露され、社会問題化していました。消費者が「安全で健康的なおやつ」を血眼になって探し始める中、楊帆氏は「青梅」こそがその答えだと確信します。青梅の持つ自然の酸味と健康価値を前面に押し出した健康的で体に優しいおやつという新たなイメージ戦略を打ち出したのです。
この時、彼は退路を断つ凄まじい決断を下します。なんと、それまで工場の売り上げを支えていたキャンディやお菓子など青梅以外の製品ラインアップをすべて即座に生産停止にしたのです。さらに、会社名そのものを「溜溜果園」へと変更し、自社の運命を「溜溜梅」というただ一つの商品に丸ごと賭けるという、まさに「破釜沈舟(はふちんしゅう:退路を断って決死の覚悟で戦うこと)」の賭けに出ました。
この大胆なリソース集中により、商品の品質向上と広告宣伝にすべての資金を投入できるようになった同社は、競合他社を一気に突き放します。そして2013年、楊帆氏は前年の年間営業収入の約半分に相当する2000万元という多額の費用を投じ、当時若者の間で絶大な人気を誇っていたトップ女優のヤン・ミー(楊冪)氏をブランドアンバサダーとして起用しました。
CMでは、ヤン・ミー氏がカメラに向かって「あなた大丈夫?」と真顔で3回も連呼。視聴者がギョッとしたところで、一転して満面の笑みになり「暇なら(用事がないなら)溜溜梅を食べよう!」と締めくくります。「大丈夫」と「暇」という同じ中国語(没事)をかけたこのシュールで中毒性の高いCMは、またたく間に中国全土でお茶の間の流行語となりました。これにより「溜溜梅」の知名度は一気に国民的レベルへと押し上げられ、売り上げは一気に拡大することになったのです。
ヤン・ミー氏のCMは中国全土でお茶の間の流行語になる 動画はこちら
さらに2015年には、ライバル他社がまだ実店舗の展開に追われている中、時代に先駆けてオンライン専門の直販EC店をいち早く開設。常に若者の消費ニーズと時代の変化を捉え続けた結果、同社は名実ともに中国の梅菓子界の絶対王者の座へと君臨しました。
まとめ:今回見つけた身近な中国株銘柄
日本の業務スーパーなどの棚に並んでいる小さくて甘酸っぱい梅の裏側には、50元を手に北京へ這い上がった一人の男の執念と、会社の全財産を賭けた大勝負、そして中国全土を席巻した一大マーケティングの歴史が詰まっています。(なお、業務スーパーでは時期や店舗によって入らないこともあるようです)
2026年6月に満を持して香港市場へ上場を果たした同社は、調達した資金をもとに、今後は中国国内だけでなく日本を含めたグローバル市場(海外展開)への本格的な進出も計画しています。もし街中で「溜溜梅」を見かけたら、一つ買ってその甘酸っぱさを味わいながら、このホットな新興株の成長を応援してみてはいかがでしょうか。
【中国のフルーツスナックメーカー】青梅とプルーンに特化したスナック製品の開発、生産、販売を手掛ける。主力は乾燥青梅スナック、梅ゼリー、プルーン製品で、定番商品から複雑なフレーバーを融合させたスナックまで幅広い製品群を持つ。主要ブランドは「溜溜梅(リューリューメイ)」。安徽省や福建省などの主要な梅生産地の農家との提携を通じた高品質な原料の調達に強みを持つ。





