米Q1家計債務は初の17兆ドル乗せ、返済遅延の兆しも出現

米家計債務、Q1の初の17兆ドル突破


ニューヨーク地区連銀が5月15日に発表した調査によると、1~3月(Q1)期の全米家計債務残高は17兆470億ドルでした。前期比2,070億ドル増加(0.9%増)。2020年Q3以来、11期連続で過去最大を更新しています。ただし米国の名目GDP比では64.4%と、前期の64.7%から低下した。なお、2020年Q2は72.6%へ上昇、金融危機直後の2009年Q1は86.8%でした。


チャート:家計債務は、学生ローンや自動車ローン、住宅ローンが牽引し過去最大を更新 


チャート:名目GDP比では、低水準を維持


住宅ローン債務残高は増加も、新規組成額は2014年Q2以来の低水準


〇住宅部門と非住宅部門の内訳は、以下の通り。


・住宅ローン→12兆440億ドル(前期比1,210億ドル増、17期連続で増加で過去最大、前年比8,640億ドル増)

・ホームエクイティ→3,390億ドル(前期比30億ドル増と増加に反転、前年比220億ドル増)

・非住宅関連債務→4兆6,640億ドル(前期比240億ドル増と8期連続で増加し過去最大、前年比3,190億ドル増)


住宅ローン債務残高は12兆440億ドルと、17期連続で過去最大を更新しました。しかし、借換を含む新規住宅ローン組成額は3,235億ドルと、2020年Q3~2021年Q4までの1兆ドルのペースを大きく下回り、2014年Q2以来で最小です。


チャート:住宅ローンの新規組成額は2014年Q2以来の低水準

 


住宅ローンの新規組成額のうち優良プライム(スーパープライム)層である720点以上は78.4%と2019年Q3以来の低水準だった前期の78.1%から上昇しました。信用スコア620点以下のディープ・サブプライム層(低信用で返済能力が乏しいサブプライム層)は逆に3.6%と2019年Q4以来の水準へ上昇、過去最低をつけた2021年Q1の1.6%の2倍以上です。


住宅ローンの信用スコア中央値は765点と2019年Q3以来の低水準で、過去最高をつけた202年Q1の788点から遠ざかりました。720点以上の比率が低下した背景として、インフレ加速による支払い額減少や遅延に伴う信用力の低下に加え、高信用の消費者が景気後退懸念と高価格を受け、住宅を買い控えした可能性が考えられます。


チャート:住宅ローン組成額の信用スコア別シェア、720点以上が低下

 


自動車ローンの組成額は2021年Q1以来の低水準、低信用向け融資は減少


非住宅関連債務、主な内訳は以下の通り。


〇自動車ローン


・自動車ローン→1兆5,620億ドル(前期比100億ドル増、前年比930億ドル増)

→ローン残高は11期連続で増加し過去最大を更新。自動車ローン組成額は1,617億ドルと、2021年Q1以来の低水準


チャート:組成額は2021年Q1以来の水準に減少

 


新規の自動車ローン組成のうち信用スコア720点以上の高信用層は53.8%と、前期の49.7%を上回り過去最高でした。逆に信用スコア620点以下の割合は14.5%と過去最低です。


信用スコア中央値は今回、720.5点と、過去最高でした。金融不安や融資基準の厳格化を受け、高信用力をもつ消費者への融資に傾いた可能性を示唆します。


チャート:自動車ローン組成額のシェア、720点以上は過去最高

 


チャート:米銀の融資担当者調査では、消費者向けローンの融資基準は厳格化が進む

 


〇クレジットカード


クレジットカード→9,860億ドル(前期比横ばい、前年比1,450億ドル増)

→ローン残高は、年末商戦明けの季節的要因もあって横ばいとなり増加トレンドは3期でストップ


〇学生ローン

学生ローン→1兆6,040億ドル(前期比90億ドル増、前年比140億ドル増)

→ローン残高は、2期連続で過去最高


住宅ローンと自動車ローンの延滞率が上昇、約1年間で5%の利上げが影響


〇延滞率

全体の延滞率は2.6%と、過去最低だった前期の2.5%を小幅に上回る2.6%でした。しかし、それぞれのローン別でみると、Fedによる約1年間で5%の利上げを受け、返済遅延が広がりつつあります。新規の延滞率はクレジットカードと学生ローンを除き上昇しました。クレジットカードは、年末商戦明けのQ1にローン残高が減少し延滞率が低下する傾向が強い季節性に従い、低下しました。


・住宅ローン→6.88%、2019年Q4以来高水準

・ホームエクイティローン→6.51%、2020年Q1以来の高水準

・自動車ローン→2.43%、2020年Q3以来の高水準

・クレジットカードローン→1.94%、1年ぶりの低水準

・学生ローン→1.06%と、1年ぶりの低水準(政府機関が保有する学生ローンに支払い猶予が与えられた結果(民間保有の学生ローンは対象外)、延滞率が2020年3月以降、劇的に改善傾向)

チャート:新規の延滞率、クレジットカードと学生ローン以外は軒並み上昇

 


Fedは2022年3月以降、FF金利誘導目標を5%引き上げてきました。足元では、Fedの狙い通りゆるやかながらインフレ上昇ペースがゆるみ、需要も落ち着き始めています。さらに足元はシリコンバレー銀行など3行が破綻し、融資基準は厳格化しました。その結果、住宅ローンや自動車ローンの組成額はそれぞれ2014年Q2以来、2021年Q1以来の水準に減少(住宅は在庫不足による価格高止まりも一因)する状況です。


一方で、インフレ高止まりを背景に新規の延滞率も上昇している。米4月小売売上高は堅調だったが、貯蓄率は直近で改善しつつも長期的にみると低水準で裁量的支出の余地は狭まっており、労働市場次第で個人消費の減速ペースが速まるリスクをはらみます。


ストリート・インサイツ

金融記者やシンクタンクのアナリストとしての経験を生かし、政治経済を軸に米国動向をウォッチ。NHKや日経CNBCなどの TV 番組に出演歴があるほか、複数のメディアでコラムを執筆中。

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