米国市場では2023年に入り、新規株式公開(IPO)に踏み切る銘柄が徐々に増えてきましたが、テック企業の動きはまだ鈍いようです。金融政策が落ち着いたとは言い難い中、比較的規模の大きな時価総額が見込まれるのは地に足が着いたビジネスモデルを持つ企業なのかもしれません。
前回のコラムでは医薬品大手のジョンソン・エンド・ジョンソン(JNJ)から分離上場したコンシューマーヘルス製品の世界的な大手、ケンビュー(KVUE)をご紹介しました。今回取り上げるのは米国で地中海料理レストランのチェーンを展開するカバ・グループ(CAVA)です。
カバ・グループはファスト・カジュアルと呼ばれるカテゴリーに分類されるレストラン「CAVA(カバ)」を運営しています。ファスト・カジュアルは、ハンバーガー店などのファストフードとカジュアル・ダイニングの中間に位置するレストランの総称です。
米国ではファイン・ダイニングと呼ばれる格式の高いレストランの次のランクがカジュアル・ダイニングです。ファスト・カジュアルはファストフードとカジュアル・ダイニングのいいとこ取りをした比較的安い料金が魅力で、成長が著しい分野のようです。
店舗数が260店超に急増、22州と首都で展開
実際、カバの店舗もここ数年で大きく伸びています。2021年3月末に111店だった店舗数は、2022年3月末に177店に拡大し、2023年4月半ばには263店にまで増えています。22の州と首都のワシントンで店舗を展開中です。
基本メニューは、ブロッコリーや玉ねぎのピクルス、ロメインレタス、アボガドなどの野菜、スパイシーチキンなどの鶏肉、コーンやコメなどの穀物類、中東風のひよこ豆のコロッケ「ファラフェル」などの素材です。これにひよこ豆のペースト「フムス」、ギリシャ料理のディップソース「ザジキ」、中東風のチリソース「スクッグ」などを選択し、注文します。
野菜や鶏肉などをボウルに入れ、好みのペーストやソースをつけて食べるのが基本的なスタイルです。また、地中海沿岸でポピュラーなピタと呼ばれる薄いパンに野菜や肉を載せて巻き、ソースにディップして食べる方法もあります。メキシコ料理のタコスに似ており、米国人にはなじみのあるスタイルと言えそうです。
米国人好みのヘルシーフードで、来客数の性別は女性が55%と男性の45%を上回っています。また、ドライブスルーなどもあるため、売上高に占める持ち帰りの割合が19%、デリバリーが16%に達しています。
共同創業者は3人のギリシャ系米国人、06年に1号店
カバの共同創業者は、ギリシャにルーツを持つ米国人3人です。学校時代からの友人だった3人は起業の夢を語り合っており、その夢はカジュアル・ダイニング「カバ・メッゼ」の開業で結実します。
2006年にメリーランド州のロックビルに1号店を出店し、2008年には特製ペーストやソースを近所の雑貨屋などで売り出しました。首都ワシントンにもレストランを出店するなど事業は順調だったようですが、業容を拡大するためファスト・カジュアル路線への転換を図ります。
路線転換の舵取り役として白羽の矢を立てたのは、スナック菓子メーカーで最高執行責任者(COO)の職に就いていたブレット・シュルマン氏でした。シュルマン氏はメリーランド大学カレッジパーク校の出身で、共同創業者の1人の先輩に当たります。約10年にわたり投資銀行に勤務した経歴も持っていました。
2010年に最高経営責任者(CEO)として加わったシュルマン氏は2011年1月にファスト・カジュアルのカバ・グリルの出店にこぎ着けます。その後は段階的に店舗数を増やし、2016年に食品の生産拠点を開設し、2017年には店舗数が43店にまで増えます。
18年に地中海料理チェーンを買収、飛躍の契機に
もう一つの転機は、地中海料理レストランを運営するゾーイズ・キッチンを2018年に買収したことです。ゾーイズ・キッチンは当時、ニューヨーク証券取引所に上場しており、約260店を展開していました。
カバの経営陣は2020年にゾーイズ・キッチンの店舗をカバに転換することを決め、2021年から実際に始めました。最初から出店の候補地を選定し、土地所有者と契約して、内外装を工事し、スタッフを募集し、宣伝し、開店にこぎ着けるのに比べ、手間と投資の負担が大幅に軽減されます。地中海料理レストランの商圏という観点でも商売が成り立つことが証明されているわけで、リスクは小さいと言えます。
2022年には73店を出店しましたが、このうち63店がゾーイズ・キッチンからの転換です。ゾーイズ・キッチンの買収は小が大を飲む形態でしたが、「負担軽減を買った」と考えれば結果的に成功だったといえそうです。ゾーイズ・キッチンの店舗は残り8軒で、経営陣は2023年の秋までにすべてをカバの店舗に転換する計画です。
カバの業績は売上高が順調に伸びています。2022年12月期決算は売上高が前年比12.8%増の5億6400万ドル、純損失が5900万ドル(前年は3700万ドルの純損失)でした。上場目論見書に掲載されている2023年4月半ばまでの16週間の業績は売上高が前年同期比27.7%増の2億300万ドル、純損失が200万ドル(前年同期は2000万ドルの純損失)と赤字が減っています。
フランチャイズは不採用、地に足を着けたビジネスを継続
今後の事業展開では店舗数を着実に増やす計画です。カバの公開価格は仮条件(19.00-20.00ドル)を上回る22.00ドルに決まっています。追加発行分を除く調達総額は3億1800万ドルに上る計算で、調達資金は主に店舗拡張の投資に振り向け、一部を債務の返済に充てる意向です。
カバはフランチャイズ方式を採用しない方針で、原則的に直営方式にこだわるようです。米国では中東やギリシャなど地中海テイスト料理の人気が高まっているそうですが、それでも現状ではすき間市場との位置づけです。IPOでニューヨーク市場に上場した後も地に足の着いたビジネスを継続するようです。