コインベース(COIN)は、暗号資産取引を起点に、金融インフラとしての機能を段階的に拡張してきたプラットフォーム企業です。現在では、個人向けの売買サービスに加え、機関投資家向けインフラやオンチェーンサービス、エコシステム戦略などへ事業領域を広げています。こうした事業展開はいずれも、安定性と長期志向を重視した経営方針の下で進められてきた点が特徴です。
収益構造の安定化:取引収益と非取引収益の組み合わせ
コインベースの取引事業は、現在も同社収益の中枢を担う中核事業です。暗号資産の売買に加え、取引所機能、顧客資産のカストディ、関連サービスを一体的に提供するプラットフォームである点に特徴があり、暗号資産市場の価格動向や取引量の変化に強く連動します。そのため、価格上昇やボラティリティの拡大局面では業績が押し上げられる一方、市況が沈静化する局面では収益が鈍化しやすい、「市場サイクル感応度」の高さが際立つ収益構造となっています。
一方で、非取引収益は金額ベースで継続的に拡大しています。非取引事業による収益は、2021年の約5億2000万ドルから、2022年に約7億9000万ドル、2023年に約14億1000万ドル、2024年には約23億1000万ドルへと増加しました。売上高に占める非取引収益の割合も、2021年の約7%から、2022年に25%、2023年に48%まで上昇し、2024年取引収益が回復基調にある中でも依然として約37%を占めています。
この結果、取引事業が依然として業績の主要な変動要因である一方、USDCを含むステーブルコイン関連事業やステーキング等のオンチェーンサービスを中心とする非取引収益は、金額および構成比の両面で存在感を高めています。コインベースの収益構造は、取引収益に依存する単一のモデルから、取引収益と非取引収益の二つの収益ラインによって構成される形へと変化しています。
出所:コインベース決算報告書
制度対応を重視した事業運営と機関向けビジネスへの展開
コインベースは、米国における暗号資産事業の展開にあたり、規制環境との整合性を重視した事業運営を行ってきました。創業初期から州ごとの資金移動業者ライセンスを取得し、自社を規制下の金融サービスとして制度内に位置づけるとともに、ニューヨーク州ではニューヨーク州金融サービス局(NYDFS)の認可による仮想通貨事業者向けライセンス(BitLicense)を取得するなど、規制要件の厳しい州においても事業継続が可能な体制を構築しています。カストディ分野では、NYDFSの認可を受けた限定目的信託会社としてCoinbase Custodyを運営し、機関投資家が求める規制下での資産保管に対応しています。
また、コインベースはSECに対し、デジタル資産に関するルール明確化を求め、請願や司法手続きを通じて対応を促してきました。立法面では、市場構造をめぐる議論の中で「21世紀金融革新・技術法案(FIT21)」を含む法案に関する提言や情報発信を行うとともに、「Stand With Crypto」と呼ばれる政策提言活動を通じて、暗号資産をめぐる制度整備への関与を進めてきました。加えて、ステーブルコインに関する連邦的枠組み(GENIUS法)についても、自社事業との整合性を意識した立場を示しています。
こうした規制対応を前提とした事業運営と制度形成への関与を背景に、コインベースは米国における暗号資産事業者の中でも、制度面で相対的に高い信頼性を有する事業者として位置づけられています。その結果、機関投資家向けのカストディ業務で採用が進み、Coinbase Custodyは現物型暗号資産の上場投資信託(ETF)の保管先として不可欠な存在となっています。ブラックロックの現物ビットコインETFにおいてもCoinbase Custodyが採用され、現物型商品の保管インフラとして主要な位置を占めています。さらに、コインベースは現物ビットコインおよび現物イーサリアムの上場投資信託の大半でカストディを提供していると公表しており、制度対応力と運用実績の積み重ねが、機関向けビジネスの獲得につながっていることを示しています。
安定性と長期志向を軸とした事業運営
コインベースは収益構造や制度対応に加え、取扱資産の選定においても、証券法の考え方に近い厳格な基準に基づく内部審査を行っています。上場可否の判断では、法的リスクや制度環境との整合性、利用者保護やプロダクトの透明性を重視し、短期的な取扱銘柄数の拡大よりも、長期的な事業の安定性を優先してきました。こうした運用は、規制上の不確実性が高い銘柄や事業実態の不透明なトークンの上場を抑制し、利用者にとって予見性の高い取引環境の形成につながっています。
加えて、同社は独自イーサリアムL2(レイヤー2)ネットワーク「Base」の展開など、将来を見据えた技術基盤の整備に注力しています。Baseはガス手数料収入などの形で一定の収益に寄与しているものの、同社はこれを中長期的な戦略的布石と位置づけており、目先の収益源として過度に強調する姿勢は取っていません。

以上の通り、コインベースの事業運営は、収益構造・制度対応・プロダクト戦略の各側面において、「安定性」と「継続性」を重視する姿勢によって一貫して支えられています。短期的な価格変動や話題性に左右されやすい暗号資産業界において、一貫して長期志向の戦略を貫く点は同社の大きな強みであり、結果として、業界内で最も信頼性の高いプラットフォーマーとしての確固たる地位を確立しています。



