生成人工知能(AI)の普及によって、インターネット企業の競争の焦点は「AIの入り口」に移りつつあります。AIの入り口とは、ユーザーがAIサービスを利用するときに最初に触れるアプリやプラットフォームのことです。インターネット時代を通じて検索エンジンやポータルサイトが果たしてきた役割と同様に、AI時代でも「最初に使われるサービス」を握った企業が大きな影響力を持つと考えられています。
中国では、アリババ集団(09988)、バイトダンス、テンセント(00700)というテック大手3社が、このAI入り口を巡って競争しています。ただし、3社の戦略は大きく異なります。アリババは自社のサービス群をAIで結び付ける戦略、バイトダンスはスマートフォンのOSレベルからAIを広げる戦略、テンセントは企業向けAIを重視する戦略を採っています。
さらに最近は、単なる「AIチャット」から、ユーザーの代わりにさまざまな作業を実行する「AIエージェント」へと競争の焦点が移っています。AIエージェントとは、質問に答えるだけでなく、複数のアプリを操作してタスクを自動的に処理するAIのことです。例えば、「来週の旅行を計画して、航空券とホテルを予約して、現地のおすすめレストランも調べておいて」と頼むと、AIが全部代わりにやってくれるようになるイメージです。

アリババ:AIを自社サービスに組み込む戦略
アリババは、自社のAIモデルを強化しながら、グループ内のサービスと深く連携させる戦略を進めています。
同社は今年1月、「Qwen3-Max-Thinking」を発表しました。このモデルは複雑な指示を理解し、必要に応じてツールを呼び出して作業を進める能力が強化されています。さらに、画像や音声なども理解できるマルチモーダルAI「Qwen3.5-Plus」も発表しています。
アリババの強みは、すでに巨大なサービスのエコシステムを持っている点です。例えば、ネット通販の「淘宝(タオバオ)」、決済サービスの「支付宝(アリペイ)」、旅行予約の「飛猪(フリギー)」、地図サービスの「高徳地図」などです。
同社はAIアプリ「千問(Qwen)」をこれらのサービスと連携させています。これにより、ユーザーはAIに話しかけるだけで、商品の購入や旅行計画の作成、決済などをまとめて行えるようになります。
つまり、アリババはAIを中心に自社サービスを再びまとめ直し、ユーザーの利用時間をさらに増やそうとしているのです。投資の観点では、AIを通じてECや決済など既存事業の利用が増える可能性がある点が注目されています。

バイトダンス:スマホのOSからAIを広げる
一方、TikTokの運営会社として知られるバイトダンスは、スマートフォンそのものをAIの入り口にする戦略を進めています。
同社は昨年末、AIモデル「Doubao(豆包)1.8」を発表しました。さらに、中国の通信機器メーカー中興通訊(00763)のスマホブランド「nubia」と協力し、AI機能を強化したスマートフォンを開発しています。
このスマホの特徴は「OSエージェント」と呼ばれる仕組みです。通常のAIアプリは一つのアプリの中だけで動きますが、OSエージェントはスマホ全体をAIが操作します。例えば、画面の内容をAIが理解し、複数のアプリをまたいで自動的に操作することが可能になります。
つまり、バイトダンスはアプリ単体ではなく、スマホの基本ソフト(OS)のレベルでAIを普及させようとしているのです。この戦略が成功すれば、AIがスマホの操作そのものを支援するようになり、新しい利用体験が生まれる可能性があります。

テンセント:企業向けAIに重点
アリババとバイトダンスが個人向けAIの入り口を巡って競争する一方で、テンセントはやや異なる方向を選んでいます。
同社の馬化騰会長は今年1月の年次総会、メッセージアプリ「微信(WeChat)」にAIの中心的な入り口を設ける計画はないと説明しました。ユーザーが必要なときにAIを呼び出す「分散型」の設計を採る方針です。
その背景には、プライバシーや安全性への配慮があります。スマートフォンの画面情報をクラウドに送信してAIが処理する仕組みについて、同社は慎重な姿勢を示しています。
テンセントは代わりに、企業向けAIの分野に力を入れています。クラウドサービス上で企業がAIエージェントを開発できる基盤を提供し、業務効率化や生産性向上に役立ててもらう戦略です。
つまり、テンセントは個人向けのAI入り口争いには積極的に参加せず、企業のデジタル化を支えるAIプラットフォームとして存在感を高めようとしているのです。

AI時代の主導権は誰が握るのか
AIの入り口を巡る競争はまだ始まったばかりです。いまのところ、アリババは自社エコシステムをAIで強化する戦略、バイトダンスはスマートフォンからAIを広げる戦略、テンセントは企業向けAIに重点を置く戦略を採っています。
どの戦略が最終的に成功するかはまだ分かりませんが、AIがインターネットの次の成長分野になることはほぼ確実です。投資家にとっては、これらの企業がどのようにAIを収益化していくのかが今後の重要なポイントになるでしょう。





