タワマン節税の見直しが普通のマンションに波及する可能性はあるのか

2022年4月のある最高裁判決が話題を呼んでいます。


ある富裕層の方が13億円のマンション2棟を相続した際に、相続税評価額を3億3000万円、購入時の借金を差し引いて相続税をゼロと申告しました。対する国税庁は売買価格に準ずる12億7000万円の評価額が妥当として、3億円以上の追徴課税を課しました。


裁判に持ち込まれた争点に対し最高裁は、国税庁の主張を全面的に認めました。相続税評価額は物件の築年数や階数を問わないこれまでの指針を覆した事例といえます。


これを受け国税庁では新しいルールとして、現在の評価額算定では考慮しない物件の築年数や階数などを考慮して、実勢価格(取引価格)と大きな開きがある場合は評価額を引き上げ、2023年中に改正、2024年1月1日以降の適用を目指します。


まず、なぜこのような税制適用になっていたのでしょうか。



予想できなかったタワーマンションの存在

まず、30年前にはタワーマンションという建築物が想定できていなかったことがあげられます。より正確に書くと、階数により実勢価格が異なるマンション自体、以前は信じられないものでした。


瞬く間にタワーマンションの建築実績が広がり、実勢価格と相続税評価額とのあいだに乖離が生まれていきました。詳しくは後述しますが、これまで相続税の計算に階数は関係なく、あくまで物件の現存する場所と土地面積によって判断されてきた前提があります。


また、この乖離を当時の税理士やFPなどの専門家が違法性を疑わなかったことも大きな要因といえます。当時の国税庁通達にもとづいて判断した諸専門家の見解は何も間違っていませんが、当時の筆者の記憶だと「実勢価格と相続税評価額の差、本当にこれからも問題ないのか」という声があったのも事実です。


今回3年前に相続税納付した相続人などに追徴課税、つまり遡及適用が行われないところを見ると、敢えて他人事としての言い方になってしまいますが当局への追徴の判決を受けた人は「タイミングが悪かった」と言えなくもないでしょうか。


専門家の将来過失の可能性をどう考えるか

このニュースにおいて筆者が気になるのは、専門家の将来過失の可能性です。実際に事例はありませんが、当時タワーマンションの所有者に同様の質問をされていたら、「現行法では問題ないです」という言い方をしていたでしょうか。


少なくとも相談者に対して、「いまは適法ですが将来的に覆される可能性があり、手を出さない方が無難です」はなかなか言えないものです。相談相手を変えられてしまう可能性すらあるからです。


方向性が変わった現在は一転して「自分は違和感があると思っていた」「自分は実勢価格での評価額をアドバイスしていた」が増えてきます。これから雨後の筍のごとく現れてくると感じます。大筋が出ての結果論なら誰でも言えます。


そこで次の論点として気になるのが、今回の事態は普通のマンションに波及する可能性があるかという点です。



普通のマンションも階数による相続税評価額が適用されてくるのか

相続税評価額は、その物件が建てられている場所の隣接道路の価格(路線価)と建築面積によって算出されます。つまり現行制度のどこにも築年数や階数を明記していません。相続税対策としてマンションを買うこと自体が否定されたわけではないですが、2023年6月現在様々な情報が溢れています。


6月27日付の日経新聞によると、実勢価格と相続税評価額との乖離を埋める具体的な方法として両者の評価額の差が1.67以上ある場合に相続税評価額が上昇すると報じられています。これにより、高層階ほど相続税評価額が高くなります。


このルールが横展開で適用されると考えると、いわゆるタワーマンションに限った話ではありません。極端な話実勢価格と相続税評価額の乖離は低層の3階建てマンションでも発生する可能性があります。そうなると大半のマンションに波及する可能性があり、大きな変更事例となるでしょう。


ただ、前提として今回のタワマン節税は居住を前提としたものではなく、あくまで相続税対策として購入し、相続が終了した(相続税評価額で相続した)あと、さほど下落していない実勢価格で売却するというものでした。


普通のマンションの場合は、居住前提で購入したものが偶然相続による事業承継を挟む形も十分にあり得るため、居住意志の確認か、購入して何年間が経過すると節税目的とはされないなどの一定条件が課される可能性が高いと見ています。


タワーマンションという特別な購入層への節税問題から、普通のマンションへの普及へ。我々専門家は現行の法制度、全体像が見えている今後の法改正や適用変更、そして潜在的なリスクに至るまでを顧客に伝え、長期的に支援していくことが不可欠といえます。

独立型ファイナンシャルプランナー

工藤 崇

株式会社FP-MYS 代表取締役 1982年北海道生まれ。相続×Fintechサービス「レタプラ」開発・運営。2022年夏より金融教育のプロダクト提供。上場企業の多数の執筆・セミナー講師の実績を有する独立型ファイナンシャルプランナー(FP)。

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