日本が防衛費5%を目指すことの影響と参院選

イスラエルとイランのあいだに勃発した中東紛争は、アメリカの仲介による停戦合意(当事者ともいえるが)によっていったん落ち着きました。とはいえ世界には戦争リスクが各所に残っています。


ロシアとウクライナのほか、中国による台湾進攻危機も懸念されている状況です。特に台湾で有事が発生すると、日本は領土のすぐ隣で発生する事態となり、決して対岸の火事ではありません。そんななか、アメリカは世界中の国に対して、自国の防衛費をGDP比5%とするよう求めています。当然、日本も例外ではありません。


現在の日本の対GDP防衛費は1.8%

令和7(2025)年現在、日本の対GDP防衛費は関連会費を合わせても1.8%の約9兆9,000億円です。2024年の名目GDPが約609.3兆円のため、単純に5%となれば約25兆円から約30兆円のあいだになります。社会保障費の増大などを鑑みると、まず実現不可能な数字といえるでしょう。先般、石破茂首相がNATO会議への参加を取りやめましたが、各種報道によると「正式に防衛費総額を打診されるのを懸念したため」と報じられています。


現大統領のトランプ氏は、自国領土は自国で守ること、そして「双方の負担をすること」を主張しています。現在アメリカは日本に対し、水面下で対GDP防衛費を約3.5%まで上昇させることを求めています。5%という数字は、NATO(北大西洋条約機構)へ求める防衛費基準です。日本はNATOの加盟国ではなく「パートナー国」の位置付けのため、短期的に5%への増額は求められていませんが、「アジア各国もヨーロッパと同様に負担すべき」と言及されており、台湾有事の接近により負荷額が上昇することは十分に考えられます。


中東紛争が落ち着くと、アメリカは自国回帰戦略を進める可能性が高いです。そもそもトランプ大統領の主要支持層とされるMAGA層(共和党員)は戦争反対の意見が強く、来たる2026年の中間選挙に向けて大統領はMAGAの意見を尊重する姿勢を見せ始めています。



日米合同演習やアジア版NATOが評価されるか

日本政府や防衛省は2025年に入り、より活発に日米合同演習を実施し、連携を強化しています。


また2024年10月に「『アジア版NATO』の議論進展による防衛株への影響は?」を寄稿したように、国際社会におけるこれらの活動が防衛費目標水準を柔軟にする可能性もあります。日本の様子を見ると、まずはこれらの活動を軸に話し合いを進めるスタンスとみられます。とはいえアジア版NATOはインドなど関連諸国との温度差も指摘されており、一筋縄ではいかない部分もあるでしょう。


参議院選挙におけるマニフェストに注目したい

個人投資家の方々のなかには、この流れを機に防衛株のホールドを考えたいという意見もあるでしょう。目標数字はともかく、日本が自衛に向けた整備が必要なのは自明です。そこで、2025年7月に実施される参議院選挙において、各党が防衛関連でどのようなスタンスなのかをまとめてみましょう。


(2025年参議院選挙における各党のスタンス)


引用:各政党のマニュフェストや基本姿勢から筆者作成


日本政治にとって防衛は戦後以来大きなテーマです。同盟相手であるアメリカや仮想敵国が考えられることもあり、各政党のスタンスも大きく異なります。選挙に向けた議論のなかで3.5%、もしくは5%の要求に対しどのような姿勢を取るべきか議論になることは間違いありません。また社会保障費も増大するなか、予算は無限にあるものではないため、どのように防衛費を捻出するかも大きな論点になっています。


我々は個人投資家であると同時に生活を守りたい国民の一人として、議論を見守り、参政権を行使していきましょう。特に台湾有事は「もし発生した場合に沖縄の該当地域の方々をどう避難させるか」というシミュレーションが出るほど、緊迫した課題です。参議院選挙の結果によっては、早々に総選挙が行われる可能性もあります。投資銘柄探しで身に着けた知見をもとに、国のこれからを考えていきましょう。


独立型ファイナンシャルプランナー

工藤 崇

株式会社FP-MYS 代表取締役 1982年北海道生まれ。相続×Fintechサービス「レタプラ」開発・運営。2022年夏より金融教育のプロダクト提供。上場企業の多数の執筆・セミナー講師の実績を有する独立型ファイナンシャルプランナー(FP)。

工藤 崇の別の記事を読む

人気ランキング

人気ランキングを見る

連載

連載を見る

話題のタグ

公式SNSでも最新情報をお届けしております