ロンドンのココア先物、1977年以来の高値
チョコレート好きな人々にとって、苦い現実がやってきそうです。ロンドンのインターコンチネンタル取引所(ICE)で7月3日、原料のカカオ豆価格が1トン当たり2,589ポンドと、1977年以来の水準へ急騰。米国でも1トン当たり一時3,414ドルと2015年12月以来、約7年半ぶりの高値を記録しました。先物価格の急騰を受け、菓子製造業社が価格転嫁に踏み切り、お気に入りの商品が値上げされかねません。
チャート:ロンドンICEのココア先物価格(日足)
米消費者情報データベースのニールセンIQのデータによると、米国ではチョコレートの価格が過去1年間で14%上昇していました。明治は4月出荷分からに「ミルクチョコレート」などチョコレート商品を5~10%値上げ、ロッテも9月出荷分から主力商品である「コアラのマーチ」、「ガーナミルク」などを値上げすると発表済みですよね。子供から大人まで、大人気のチョコレートの重要な成分であるカカオの供給が逼迫していることが背景にあります。
供給ひっ迫、エルニーニョ現象など気象要因が大きい
供給がひっ迫している一因に、エルニーニョ現象が挙げられます。国連の世界気象機関(WMO)は7月4日、太平洋赤道域で海面水温が高い状態が続き、高温と乾燥をもたらすエルニーニョ現象が7年ぶりに発生したと宣言しました。エルニーニョの到来により大打撃を受けるのが、カカオ生産国の1位と2位で、合わせて6割を担う西アフリカのコートジボワールとガーナです。降水量が平均を下回るだけでなく、西アフリカに吹く貿易風ハルマッタンが一段と強まる見通しで、カカオの木の理想的な生育条件に程遠くなること必至。なお、森永製菓は、カカオの生育条件として①平均気温27度以上、②年間を通じて狭い気温の上下幅、③日照時間の平均が1日5~7時間、④降雨量は年間2,000mm以上の高温多湿――を挙げています。エルニーニョ現象の発生を受け、国際カカオ機関(ICCO)は6月、世界的なカカオの供給不足量見通しを従来の6万トンから14.2万に上方修正しました。
専門家は、今年10月から2024年9月までの次のシーズンも、カカオの供給不足を見込みます。米国の専門家は、カカオ先物が足元から9%高の1トンあたり3,600ドルに向かうと予想。チョコレート生産者は、原材料費の高騰に加え、自国通貨安を一因としたエネルギー価格の高止まり、金利上昇によって圧迫され続けているため、生産コストの上昇分を消費者に転嫁せざるを得ないためです。ガーナの公共事業規制当局は5月、エンドユーザー向け平均電力料金をQ1の30%引き上げに加え、下半期に18.36%引き上げる方針を発表していました。
また、カカオ農家が低賃金、児童労働、劣悪な生活環境という悪条件が三拍子そろうように、収入が低い事情も問題です。カカオ農家の高齢化や、若い世代のカカオ農家離れを引き起こし、供給不足の一因を担うためです。
チョコレート需要拡大も、供給不足の要因に
カカオ生産量の減少に加え、需要が高まっていることも需給ひっ迫を深刻化させています。リサーチ・アンド・マーケッツによれば、チョコレート小売の世界市場は、2021年の1,112億ドルから2028年末までに1,762億ドルへ拡大する見通し。2023-2028年の年平均成長率は、5.9%増です。需要拡大の背景に、同社は「多忙なライフスタイルと食習慣の変化に後押しされた“間食文化”の継続的な勢い」を指摘。また、「ミレニアル世代とジェネレーションZ世代が持ち運びに便利なものを好み、チョコレートが快適な食べ物であるという一般的な認識が消費を後押ししている」といいます。
チョコレート小売の世界市場見通しは、それほど楽観的でもないと言えます。発展途上国輸入促進センター(CBI)によれば、カカオ豆の輸入量はコロナ禍の正常化を受けて各地域で増加し、米国大陸では68.3万トン、アジアと豪州では105.1万トンと少なくとも2017年以降で最大でした。
もう一つ、チョコレート商品が値上げを余儀なくされる理由があります。カカオ豆以外の主原料である砂糖も価格が高騰しているためで、4月には11年ぶりの高値を記録しました。砂糖先物は、インドやタイ、中国本土、欧州連合(EU)にわたって干ばつによる打撃を受けており、高騰したチョコレート価格がすぐに下がる可能性は低いようです。
チョコレート製品のうち、最も打撃を受けるのはダークチョコレートだとか。ダークチョコレートは、ホワイトチョコレートやミルクチョコレートに比べ、カカオ固形分が多く、カカオ固形分、カカオバター、砂糖が約50%から90%含まれているためです。疲れた時に甘いチョコで一休みしていた人々には、チョコレート価格の上昇は苦い現実であるに違いありません。