今回解説していく通貨はドル円です。足もとでは買い戻し基調が続いていますが、2023年来の上昇トレンドは現在も継続しているのか、今後は慎重に見極める必要があるでしょう。ファンダメンタルズで日米の金融政策に注目。特に政府から利下げ圧力を受け続けている米連邦公開市場委員会(FOMC)の判断が相場に大きな影響を及ぼすことが予想されます。
2025年のドル円相場:4月後半からの買い戻し基調が継続
ドル円は2025年の年始から下落トレンドが開始。4月以降は下げ基調が強まり、4月22日には節目の140.00円を下抜けて一時139.89円まで下落する場面も見られました。もっとも、その後は買い戻し基調へと転換し、7月末には150円台を回復。足もとでは147-148円台での底堅い動きが続いています。
今後のドル円相場の焦点:強まる米大統領からの圧力、FRB議長はジャクソンホール会合で何を語る?
4月以降に大きな注目を集めていた米国の相互関税ですが、日本とは7月22日に関税交渉で合意(自動車も含めて関税率は15%に)。中国やメキシコなど90日間の協議延期となった国もありますが、米国は多くの主要国と合意に至り、現在は為替相場のテーマから外れた感があります。
ここからは日米の金融政策に再び焦点が当たることになるでしょう。特に注意したいのが米国の動向です。
早期の利下げに慎重な姿勢を示してきたパウエル連邦準備理事会(FRB)議長に対して、トランプ米大統領は執拗に利下げを要求。米大統領経済諮問委員会(CEA)のスティーブン・ミラン委員長をFRB理事に指名して、米連邦公開市場委員会(FOMC)内のハト派拡大を図ったほか、「雇用統計を政治的に操作した」として労働統計局のトップを解任するなど、中銀の独立性が大きく揺らいでいます。
米金融政策を巡る不透明感も広がるなか、市場が注目している米ジャクソンホール会合でパウエルFRB議長がどのような見解を示すか注意してみていく必要があるでしょう。
日銀については植田総裁が従来から「不確実性」として言及していた日米関税交渉が決着したことから、市場では利上げ期待が再浮上。今後のインフレ動向次第ですが、早期利上げ期待が高まる局面では円買いの反応が出ることもありそうです。
ドル円 週足チャート分析:ダブルトップは回避も上昇トレンドは頼りない
ではテクニカル面でも現在の状況を確認していきましょう。下図のチャートはドル円の週足チャートになります。
前回の分析(5月28日)で指摘していたダブルトップの完成は、その後にネックライン(チャート上の黄色実線)を下回らなかったことで回避されました。
短期的には今年4月安値を始点とする上昇トレンド(チャート上の青色実線)、より長期の視点では2023年1月安値を始点とする上昇トレンド(チャート上の青色点線)と見ることもできるでしょう。今後の上値目処は8月1日高値の150.92円や3月25日高値(チャート上の丸で囲った部分)の150.94円などが意識されそうです。
ただ、チャート下部に追加した「DMI」によると、+DIが-DIを上回って上昇トレンドを示唆していますが、トレンドの強さを示すADXが低下基調にあり、いささか上昇トレンドの頼りなさもうかがえます。
ドル円 週足チャート分析:相場転換を判断する鍵は?
現在の上昇トレンドの頼りなさという点に触れましたが、ここからは相場反転の可能性についても考えていきます。
相場の天井や底といった部分は時間が経過してからでないと判別できないのが原則ですが、2024年の7月ですでに天井を打っていたと仮定した場合、現在の状況はネックライン(チャート上の黄色実線)と昨年7月高値を始点とする下降トレンドライン(チャート上の黄色点線)で形成される「三角保ち合い」ということになるでしょう。
この場合は今後徐々に上値を切り下げていくかたちとなり、ネックラインを下抜けしまうと昨年7月高値を始点とする下降トレンドへと転換するリスクも浮上してきそうです。
上昇・下降の二つのシナリオを紹介しましたが、どちらに向かうかの分岐点は昨年7月高値を始点とする下降トレンドライン(チャート上の黄色点線)、できれば前回の高値(1月10日につけた年初来高値の158.87円)を上抜けられるかどうか。こうした目処となる水準を上抜けられずに、今年4月までのような下げ基調に再び入った場合は下落トレンドへの相場転換を視野に入れておきたいところです。
今後の取引材料・変動要因をチェック:FOMCの結果に注目
最後に今後1カ月間の経済指標や重要イベント等も確認しておきます。注目は日米の金融政策。ベッセント米財務長官などトランプ政権側からは9月会合で0.50%の利下げが適当だとのプレッシャーを受けるなか、米連邦公開市場委員会(FOMC)メンバーがどのような決断を下すか注目です。そのためのヒントを得られる場として、ジャクソンホール会合でのパウエル連邦準備理事会(FRB)議長の発言には大きな注目が集まるでしょう。
日銀については9月の金融政策決定会合では金利も据え置かれる見込み。消費者物価指数の推移を確認しながら次の利上げタイミングを探りたいところです。
その他のイベントは以下の通りとなります。
今後1カ月の重要イベント
・8月21-23日 米国 ジャクソンホール会合(FRB議長の講演は22日)
・8月22日 日本 7月全国消費者物価指数(CPI)
・8月29日 米国 7月個人消費支出(PCE)コア・デフレーター
・9月5日 米国 8月米雇用統計
・9月11日 米国 8月CPI
・9月16-17日 米国 米連邦公開市場委員会(FOMC)
・9月18-19日 日本 日銀金融政策決定会合
・9月19日 日本 8月全国CPI