資産運用は、「どの会社の株を買うか、どんな投資信託を買うか」という銘柄選びよりも、アセット・アロケーション(資産配分)の方が大事、と言われます。とはいえ、何をどんな配分にしたら良いか、また、自分に合うのはどんなアロケーションか、を個人投資家が判断するのは難しいもの。そういう方に参考にして頂きたいのが、年金積立金の運用です。
2022年度、GPIFの運用はプラス1.5%
先日、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の2022年度の概況書が公表されました。2022年度の収益率はプラス1.50%(運用手数料等控除前の時間加重収益率)。3年連続のプラス運用です。
GPIFによる年金積立金は、公的年金を持続可能な制度にするために管理・運用されます。日本の公的年金制度は、現役世代が納めた保険料を年金受給者に渡す「賦課方式」ですが、そのうち、年金支払いに充てられなかった余剰分の運用が、将来世代のために、「年金積立金」として積み立てられています。
この「年金積立金」は、現在、約200兆円に達しています。日本国内で販売されている公募投資信託の純資産総額が約175兆円。年金積立金は、相当大きなファンドです。
この巨大なファンドの、現在の基本方針による資産配分(アセット・アロケーション)と、2022年度末(2023年3月末)時点での配分は、以下の通りです。
●国内債券 25%(±7%) 前期末26.79%
●外国債券 25%(±6%) 前期末24.39%
●国内株式 25%(±8%) 前期末24.49%
●外国株式 25%(±7%) 前期末24.32%
ご覧の通り、方針の範囲内に収まったアロケーションとなっています。資産配分の方針は、時々見直され、それに応じた運用がなされます。10年前の2012年度末は、国内債券61.81%、外国債券9.79%、国内株式14.57%、外国株式12.35%でした。
年金積立金の運用目標は、賃金上昇率を1.7%上回る水準
年金積立金の運用は、5年ごとの中期目標が定められています。現在の中期目標(2020年度~2024年度)では、「年金積立金の長期的な運用目標=賃金上昇率+1.7%」となっています。
「賃金上昇率を1.7%上回る運用」として、現在は、4分の1ずつ資産を均等に保有する方針となっているのです。
年金積立金の役目は、保険料と国庫負担(税金投入分)を合わせ、年金給付額に足りない場合の補てんです。年金給付は、長期的には賃金に連動するようになっています。現役世代が納める保険料は、賃金がベースです。同じように、補てんする部分の年金積立金も、賃金上昇を少し上回るよう設定されているのです。
年金積立金は、5年に1度、財政検証によって賃金上昇率との差や資産配分が見直されます。個人投資家の皆さんにとって、GPIFのアセット・アロケーションは参考になるのではないでしょうか。
同じ期間でも、企業年金はプラス1.37%、大学ファンドはマイナス
GPIFとほぼ同時期に、他の資金運用の概況も公表されました。
企業年金連合会の基本年金等は、2022年度はプラス1.37%の運用でした。企業年金連合会では、厚生年金基金または確定給付企業年金の脱退者や、解散または制度が終了した企業年金に加入していた人の年金原資を運用しています。
「大学ファンド」(国立研究開発法人科学技術振興機構)はマイナス2.2%でした。
大学ファンドは、大学の研究開発施設やデータ連携基盤の整備、人材育成等のための資金です。「10兆円規模のファンド」として話題に上り、2022年3月から運用が始まりました。初年度の運用状況が公表されたところです。
公的年金や企業年金、大学の研究費用などの運用資産は、いずれも長期にわたって安定的に資金を運用すべきですが、同じ期間の同じ環境下で、なぜ差がついたのでしょうか。
それは、アセット・アロケーションの違いです。【グラフ1~3】は、各運用の資産配分と、2022年度の収益率です。
GPIFのアロケーションに比べ、企業年金、大学ファンドは債券の比率が高くなっています。2022年度は円安が進み、外国証券の運用に追い風でしたが、為替ヘッジを行なって為替変動リスクを抑えた資産は、円安メリットが受けられませんでした。
皮肉なことに、2022年度は、保守的なアセット・アロケーションほど、運用が芳しくなかったといえます。もちろん、いずれも長期運用のファンドですから、単年度の結果に踊らされる必要はありません。ここでは、同じ環境下でも配分が違えば結果が異なることを理解していただければと思います。
自分のリスク耐性は、投資をしてみなければわかりません。また、金融資産の特徴を踏まえた投資方針を立てるにも、経験が必要です。その経験を積み重ねるまでの間は、これらのようなファンドのアセット・アロケーションが参考になるでしょう。
【出典】