日常生活や企業活動でインターネットへの依存度が高まる中、サイバーセキュリティーの重要度は一段と増しています。世界市場の規模は年を追うごとに拡大し、それにつれてサイバーセキュリティーを提供する企業の存在感も高まっているようです。
サイバー攻撃は複雑化しており、防御側の対応も攻撃の監視、早期発見、分析、防御、侵入された後の被害軽減など多様で複雑にならざるを得ません。
米国市場にはサイバーセキュリティーの分野でも多様な企業が上場しています。今回はイスラエルにゆかりのある注目度の高い企業を交えてご紹介したいと思います。
イスラエルは建国時から周辺諸国とのあつれきを抱え、緊張状態を強いられてきました。最近になってアラブ首長国連邦(UAE)やバーレーンなどと立て続けに国交を樹立し、周辺の敵対国は減っていますが、それでもイランやシリアとは今もにらみ合いを続け、ヒズボラやハマスといったイスラム武装組織としばしば交戦しています。
筋金入りのエリート、サイバー精鋭部隊に配属
イスラエルには男女ともに兵役の義務があり、コンピューター関連で優秀な人材は国防軍のサイバー部隊に配属されます。その中でも筋金入りのエリートが集まるとされるのがサイバー精鋭部隊「Unit 8200」です。
「Unit 8200」は、通信を傍受して分析する諜報活動(SIGINT)や暗号解読を手掛けるとされています。情報収集は軍事活動の生命線で、イスラエルの場合、国の存亡が双肩にかかる部署だけにスーパーエリートが選別され、配属されるようです。
「Unit 8200」出身者が立ち上げたサイバーセキュリティー企業で、米国への上場を果たした先駆けといえば、チェックポイント・ソフトウエア・テクノロジーズ(CHKP)で、1996年にナスダック市場に上場しています。
このほかパロアルト・ネットワークス(PANW)とサイバーアーク・ソフトウエア(CYBR)も「Unit 8200」の出身者が立ち上げています。さらにセンチメンタルワン(S)もイスラエルにゆかりのある企業です。
先駆けはチェックポイント・ソフトウエア・テクノロジーズ
チェックポイント・ソフトウエア・テクノロジーズは1993年にイスラエルで創業しました。今もテルアビブに本社を置いています。創業者は「Unit 8200」の出身者であるギル・シュエッド最高経営責任者(CEO)。今年は創業30周年という節目の年です。
チェックポイント・ソフトウエアはステートフルインスペクションと呼ばれる技術を使ったファイアウオールをIT業界で初めて導入した企業として知られています。通信を細分化した送受信データの「パケット」を監視するファイアウオールのうち、パケットの内容に応じて通信の許可の是非を判断する技術です。
ファイアウオールはデバイスにデータが到達するまでのネットワーク(中継機器)などを保護するゲートウェイセキュリティーの代表的な手法です。チェックポイント・ソフトウエアは、ステートフルインスペクション方式のファイアウオールで先行者利益を得たと思われますが、逆にデメリットもあったようです。
それは「ファイアウオールの会社」というイメージがつきまとったことです。サイバー攻撃が一段と巧妙になる中、チェックポイント・ソフトウエアはゲートウェイセキュリティーだけではなく、多角的な防御手段を顧客に提供していますが、イメージの払拭は容易ではないようです。
同社は次世代ファイアウオールの「Quantumシリーズ」を主力商品に位置づけていますが、クラウド環境を包括的に保護する「CloudGuard」に加え、パソコンやサーバーなど通信ネットワークの末端に接続されたデバイスで攻撃を検知して防御するエンドポイントセキュリティーなどの一段の普及も今後の課題になりそうです。
サイバーアーク・ソフトウエア、特権管理に強み
サイバーアーク・ソフトウエアを創業したウディ・モカディ氏もイスラエル国防軍の「Unit 8200」の出身です。創業は1999年で、2014年にナスダック市場に上場しました。モカディ氏2005年からCEOを務めてきましたが、2023年3月に退任し、現在は会長に収まっています。
サイバーアークは、組織内での特権アカウント管理ソリューションという分野に強みを持っています。特権アカウントは社内システムの設定やファイルの書き換えなど組織内でも強い権限を持つアカウントを指します。
もしこうした特権が外部の攻撃者やなりすましを含む悪意ある内部関係者に渡れば、組織として大打撃を受けることになるため、こうした事態を阻止するソリューションが必要です。特権アクセス管理は重要情報へのアクセスを制限すると同時に操作の記録を残すことで不正行為を検知する仕組みです。ソリューションの前提はやはり誰も信用しないゼロトラストとなります。
サイバーアークはナスダック上場後、積極的に企業合併・買収(M&A)に取り組んできました。こうした取り組みの成果で、売上高を着実に伸ばしています。
フォーティネット、業容の拡大続く
フォーティネット(FTNT)がこれまでご紹介してきた2社とは成り立ちがまったく異なりますが、業容の拡大が続くサイバーセキュリティーのプロバイダーです。共同創業者は中国出身のケン・シエ氏とマイケル・シエ氏の兄弟。2人はそろって、理系に強い中国の名門大学・清華大学で学位を取得した後、米国の大学で学んでいます。
フォーティネットの創業は2000年で、2009年にナスダック市場に上場しています。サイバーセキュリティーのプロバイダーとしては唯一、ナスダック100指数とS&P500指数のダブルで構成銘柄になっています。
ネットワーキングとセキュリティーを融合したセキュアネットワーキング、クラウド環境下でのセキュリティーの自動化や可視化を実現するクラウドセキュリティー、人工知能(AI)を活用してサイバーの脅威に対応するセキュリティーオペレーションなど広範で総合的なサービスを提供しています。
また、2021年にはルータやLANスイッチを開発、生産する日本のアラクサラネットワークスを買収し、ネットワーク機器のハードウエア事業にも参入しました。アラクサラネットワークスは2004年に日立製作所とNECが合弁で立ち上げた企業です。
フォーティネットは順調に成長しており、期末決算での売上高はナスダック市場に上場した年の2009年12月期から2022年12月期まで14年連続で2桁の伸びとなっています。利益の増加も著しく、2022年12月期まで3期連続で最高益を更新しています。